Rem:5 母さん2
「どうした?」
固まる慎の指先を見て、光も鏡を見る。
「あれ……っ!」
口から飛び出したのは、自分の声ではなかった。間違えるわけがない。
愛してやまなかった声。慎は思わず喉元を押さえた。
すると、鏡の中の七輝も同じタイミングで真似をした。
鏡と慎。――いや、この場合は、七輝と言うべきだろうか?
とにかくその交互を見ながら、光はおかしなやつだな、と首を傾げる。
「別に普通だぞ?それともあの鏡に、まこの幻でも見えたか?」
慎は頭を振った。
「な、なつ、……きが」
「え?」
光は戸惑ったようにこちらを見、それから微笑んだ。
「何だ何だ。お前がどうした?」
その言葉で、理解せざるを得なかった。
(おれは確かにここにいて、でも七輝なのか)
声も、この手も顔も身体も……。
「和泉?」
「違う!」
光は急に声を荒らげた慎に驚き、思わず手を引っ込めた。
「おれはおれだ。……じゃなくて、おれがここにいるなら」
慎はベッドから身を乗り出し、光の膝に手を置く。
「おれは、『慎』はどうなったんだよ!」
「……覚えてないのか?」
訝しげに光が眉根を寄せる。そして、暗い声で答えた。
「まこは風邪をこじらせて肺炎になって、……昨夜、亡くなったよ」
(おれが……死んだ?七輝と立場が逆転してるのか?)
眩暈など感じている暇がなかった。慎は布団をはねのけ、ベッドから飛び降りた。
「和泉!」
呼び止める光の声には振り向きもせず、階段を駆け降りる。
バタバタとせわしない音に、居間のドアが開いて七輝の母が顔を出す。
「なっちゃん?起きたの?」
慎は寝間着のまま運動靴に足を突っ込み、玄関を飛び出した。
「なっちゃん!どこへ行くのっ?」
「ちょっと!」
玄関まで追ってきた七輝の母に、少しだけ返事をする。そのまま走って、慣れた道を下る。
(父さん、母さん、蒼!)
頭を占めるのは、大事な家族のことだった。そして。
(おれがこの身体にいるということは、君はそっちにいるのか、七輝――!)




