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七つ色SHINE ー絆ー  作者: Mayu
12/97

Rem:5 母さん

誰かの会話が朧げに聞こえるくらいまでに、意識は形を取り戻し始めた。


「………」


慎は目を開ける。


「大丈夫か」


勉強机に片肘をつき、それとセットになった椅子に座った光がいた。


「ごめん……」


ベッドに手をついてのろのろと起き上がろうとしたが、光が椅子ごとこちらに来て肩に触れた。


「無理するな」

「ん」


頷きながらも、再び布団に寝転びたいとは思わなかった。

上半身を起こすと、チェック柄の可愛い布団カバーが目に入る。


机には開かれたままの辞書、奥には教科書や参考書が綺麗に並べられていた。

近くの棚には雑貨小物やぬいぐるみ、写真たてがセンスよく飾られ、女の子らしさが現れている。

香水やアロマとは違うけれど、その空気を吸い込めば何だかいい香りがした。

つい今しがたまで、七輝がそこにいたような光景。


いつかはこの部屋も片付けられて、香りも外の空気へ散って。

まるで七輝なんて最初から存在しなかったかのように、変わってしまうのだろうか。


七輝を失って変わったのは、その家族や慎や光たち友達だけで、七輝がいなくたって世界はきちんと成り立って、回っていく。

そのことが当たり前だけれど悲しくて、慎は布団ごと膝を抱え、顔をうずめた。


「………」


やがてすすり泣きを漏らし、光が何も言わずに背中を優しく叩いてくれる。

倒れたり何度も泣いてみたり、男として本当に情けないと思う。でも、頭をよぎるのは後悔ばかり。


あの日、あの朝。どうしてケンカしても無理矢理にでも、七輝を家に帰さなかったんだろう。

何故、天気予報を確認しなかったんだろう。いつもより早く帰ったんだろう。

雨が降るかもしれないと七輝が言ったとき、すぐに雨宿りの場所を見つけなかったんだろう。


自分を責めればきりがない。ああすれば、こうすれば、七輝を失うことはなかったんじゃないか。どうしても考えてしまう。

光はそんな様子を見守りながら、言った。


「お前のせいじゃない。誰のせいでもなかったんだ……」


最後の言葉は躊躇うように、押し殺すように。


「あいつが……。まこが、亡くなったのは」


慎はしばらくそのまま啜り泣いて、それからやっと光の言葉の違和感に気がついた。


「?」


間違っている。まあ、光だって七輝の死に動揺しているのだろうし、しょうがない。


「光さ……」


やっと顔をあげる。

涙を拭いながら、親友の間違えを訂正しようとした時、正面に置かれた鏡の中の自分と目があった。


途端に涙が引っ込む。


(え?)


向こう側から慎を見ていたのは、背中につくくらいの長さの髪。

りんご色の頬の更に上に、二重の丸い瞳を持つ少女。七輝だった。


無論、幽霊だとかそんなオカルトや、ましてや冗談ではなく。


「!」


慎は絶句した。


何が起こったのだろう。

あまりにも突拍子のない展開に、思考がついていかない。

ただ、宙に浮く人差し指が小刻みに震えていた。



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