収穫祭(後)
――――パリンッ!
「ひっ!」
「うぉ!」
「わぁ!」
「!」
突然、執事のランプは音を立てて割れた。
そのことに三人は驚きの声をあげ、俺も驚いたがもはや声をあげる気力も無くなっていた。
そして再び何も見えない闇がこの部屋を包んでいく。
ランプの明かりで目が明るい方へと慣れてしまったせいで、手元すら何も見えない。
「な、何が起こってるんだ?」
「わかりません。ただ突然ランプが割れてしまって。なにぶん古いものでしたから劣化していたのでしょう」
「な、なら別の明かりを持っていませんか? 俺のスマホは使えなくなってしまって」
「ヒッグ......早く、明かりをつけて。もう......ヒッグ、無理......」
香織の涙声が聞こえてくる。
無理もない。俺だって異常に怖い。それこそちびりそうなほどに。なのに、どうして香織が我慢出来ようか。
やはり秀には申し訳ないが、この家はどこかおかしい。香織と蓮をつれて今日はもう帰ろう。
本当は紗雪の姿も探したいところだが、今はそれどころじゃない。
この家は危険すぎる。
すると執事が携帯型の小さな懐中電灯をつけた。そしてその周囲を確認するように照らしていく。
その時、その眩しいライトが俺の目に入ってくると同時に気づいてしまった。
執事の近くにいた蓮の姿がない事に。
俺は思わず心臓が止まるような恐怖に襲われた。
怖すぎて声も出てこない。乾いていた喉もさらに乾き痛くすら感じてくる。
手は俺の意思に反してブルブルと震え、視界すら眩みそうになる。
先程までいた蓮の姿がない。
確かに先程まで執事の近くにいたはず。それに執事が来てからこの場を誰も動いていない。
なら、蓮はどこへいった? どこかへ連れ去られたのか? 一体いつ?
執事のランプが消えて、懐中電灯を付けるまでに言うほど時間はなかったし、ドアは執事が塞いでいる。
それに声もなく連れ去られるなんて有り得るのか? 多少なりとも抵抗するだろうし、ここまで静寂だとその音は敏感に聞こえるはずだ。
「はあはあはあ......」
思わず荒い呼吸が漏れる。
激しい運動をしたわけじゃないのに、それ以上に呼吸が辛く感じてくる。
「おや? すぐ近くにいた方の姿が見えませんね」
「見えませんねじゃねぇだろ!」
「どうしたんだよ、そんなに荒らげた声を出して」
「どうしてそんなに落ち着いていられるんだよ! 香織、大丈夫か!」
俺は執事のひょうひょうとした言い方に思わず怒鳴り声をあげ、同じく秀に対しても声をあげていく。
そして笑っている膝をなんとか動かしながら、ソファに座っている香織へと近づき、肩に触れながら声をかける。
「ヒッグヒッグ......わああああぁぁぁぁん!」
香織は泣きじゃくった顔で俺を見ると俺が肩に触れたことで安心したのか抱きついてさらに泣き始めた。
これが違う場面であったらどんなに嬉しいことか。だが、あいにく状況は最悪で、何が起こっているのか何も分かってない。
ともかく、今は無事であることが確実にわかっている香織を安心させなければ。
俺は香織から少し距離を取ると顔を合わせ、できる限り安心させたような顔をする。
「香織、この家から出よう」
「グスン......うん!」
俺のいびつであろう笑みを見ると香織は涙を拭ってうなづいた。
正直、その反応には助かった。これから消えた紗雪と蓮を探すと言われたなら、意地でも連れていくつもりであったからだ。
「香織、立てるか――――」
俺がそう言った瞬間、背後から差していた僅かな光が消えた。
そのことに俺はもはや恐怖を通り越して激しく激怒していた。
そして執事のいる方に向かって怒鳴り声をあげる。
「おい、いい加減に――――え?」
俺がその言葉を言い切ることは無かった。
なぜなら確実に触れていた香織の肩が何も無かったかのようにスっと消えたからだ。
その場にあるのは香織から伝わった手に残る僅かな体温のみ。
呆然とした表情で俺は触れていた手で香織を探す。だが、全て空を切るのみ。
もうわけがわからなかった。
香織はどこへいって、何が起こっているのか。俺は何を体験していて、この家は一体何が起こっているのか。
俺は思わずうつむく。呆然した表情で、もう何も考えられなくなっていた。
先程感じていた怒りもどこかへ消えてしまって、もう心には何も残っていなかった。
その時、明かりを感じた。そして瞬間からはガサガサと音が聞こえてくる。
俺はその音を聞いて――――安堵しなかった。なぜならうつむいた位置から見えたのはどことも分からない地面であるからだ。
俺は停止させた思考でそっと顔を上げていく。
するとそこには――――
黒い森が周囲を包み、紅い月が当たりを照らす下でカボチャ畑があった。
そのカボチャ一つ一つにはジャック・オー・ランタンのようになっており、生きているように口が動いている。
その畑は立て付けられた数本の松明で照らされており、その周囲や畑の上にはドラキュラやフランケンシュタイン、魔女や人狼といった俺達が仮装していたやつやその他にもゾンビやミイラといったものまであった。
そしてそれらは確かめるまでもなく本物であると感じた。
「もうわけわかんねぇよ......」
俺はもはや呼吸することもやめたように静かだった。
視界に広がる光景をただただ受け止め、麻痺したように涙を流していた。
ここがどこで、秀だったやつは誰で、何がどうしてこうなっているのか分からない。なにも分からない。
ただ現実はこうなっている。もう頭が壊れていく。
すると、背後から声がかけられる。
「ハッピーハロウィン。どうだったかな、僕のハロウィンパーティー」
「どうって......!」
俺は呆然した表情で背後を振り向くと思わず顔を引きつらせた。
そこには先程までなかった角や牙を生やしている執事と秀――――ではない死神が立っていた。
ふと視線を下げると死神に足はなく、完全に浮いている状態だった。
「ははは......」
「あらら、壊れちゃった」
俺は急に笑いが込み上げてきた。
何も面白くないのに、怖いのに笑えてくる。
もう全てを諦めてしまっているからかもしれない。これが夢であって欲しいと思っているからかもしれない。
現実を認めたくないのだ。なによりもそれかもしれない。
すると、死神は俺の背後を指さす。俺はそれに抵抗する気もなく従って後ろを向く。
これが最後の望みで、全てドッキリでしたとあって欲しかったのかもしれない。
けど、そんなはずがなかった。
「は、はは、ははははは......」
俺の視界に広がったのは先程まで何も無かったカボチャ畑に刺さっている四つの磔台。
そしてそのうち三つの磔台には蓮、紗雪、香織と両腕を上げて磔にされている。
おレはそれをミた瞬間、サらに笑っタ。もウかンゼんニこワれてルのだロウ。
「特別に教えてあげる。ハロウィンは本当は収穫祭のために行われるんだ。まあ、もっともそれは僕達のような存在から同類だと思わせて身を隠すものなんだけど、バレてるから意味ないね。そういうわけじゃないけど、僕達も収穫しに来たんだよ。人間の魂をね......」
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ある豪邸のある部屋で一人の少年は暗くなった窓の外を見ながら、呟いていた。
「うーん、遅いなー。しっかりと一つ目の通りって教えたんだけど」
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
他にも長編「神逆のクラウン」を連載中なので、良かったらそちらも読んでみてください




