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E4 ~魂の鼓動~  作者: たまささみ
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第4章  移民受容要求

 剛田は退庁時間になっても戻ってこなかった。

 杏は待とうか帰ろうか迷ったが、九条や三条が退庁していないのに気付いた。

 IT室の2人も今日から徹夜続きだろうということもあり、室内で活字新聞を片手に、槇野首相の国交断絶談話発表文を再度読み返していた。

 IT室では設楽がコンピュータに何かを接続させる音やキーボードを叩き続ける音、八朔が時計を作るために何かを削る音などがこちらまで漏れてくる。

 時計は明日までにできあがるだろう。

 事件情報は、全国どの地域で事件が頻発しているかを図式化するものであり、今後の対応には必要不可欠なものである。設楽がする仕事なら、安心して任せられる。


 問題は、春が来たかのようにふわふわと浮かれている不破だ。

 ダジャレではない。

 万が一テロ騒ぎなどが起こった場合、死人を出さないという条件付きでも九条と三条は仕事をミスなくこなしてくれるだろうが、不破のあの舞い上がり様といったら。

 ナオミにいいところを見せようとして頑張るか?

 いや、そういう問題ではないだろう。

 今の不破が冷静に状況を判断できるのか、それがミスに繋がり下手をすれば相手は死なずともこちらが痛手を負ってしまう。

 最悪、あいつは任務から外すことも考えねばなるまい。


 ナオミはどうだろう。

 不破と同じで冷静になれないだろうか。

 あの新幹線での行動を見る限り、元々は至極真っ当に任務を熟せる力を持っていると思うし、不破を外して1人になりさえすれば現状把握から事後検証まで何も命令せずともやってのける力量はあるように感じる。

 なんのために日本に来たのかが少々胡散臭さも残るところではある。

 昨夜九条が言った通りなら、ナオミの日本留学の目的はやはり槇野首相かもしれない。

 とすると、テロ制圧なら使えるが首相警護の任には向かない、というより、警護させてはいけない人物ということになる。


 

 ああ、頭が痛い。

 不破もナオミも使えねー。


 

 杏が頭を抱えていると、剛田が戻ってきた足音がした。

「どうした、五十嵐」

「ああ、剛田さん、お帰りなさい」

「何かあったのか?」

「ううん、何でもない。そっちはどう?」

「予想通りだ。あの談話を見て、早速総理への暗殺予告が内閣府に入ったそうだ。お蔭で警察府まで駆り出された。明日からE4が槇野首相を警護することになった」

「それでね、問題があるのよ」


 杏は昨晩の九条とのやり取りを掻い摘んで剛田に話した。

「ね、そうするとナオミは警護に付けちゃいけない人物ってことになるわ」

「そうか。今回の身辺警護はお前と九条、三条、倖田、西藤に頼む方向で検討しよう」

「不破はどうするの」

「ナオミの身辺警護に当たらせるさ」

「お願い、何もないとは言い切れないもの」

「それより五十嵐」

「何?」

「槇野首相はワンマン総理と呼ばれている。振り回されても我慢しろ」



 翌日午前8時。

 E4の5人はオスプレイに乗って伊達市の飛行場を飛び立った。

 剛田と不破、ナオミは今回、お留守番。

 不破からは“どうしてだ”という不満が口を吐いて出たが、ナオミを危険に晒すことはできないという剛田の見解及び命令で、2人は伊達市に残った。


 金沢市の内閣府に到着したのが午前8時半。

 内閣府では宗像首相補佐官が烈火のごとく怒っている。

 任務開始の1時間前には内閣府に着きレクチャーを受けるべきだというのである。でなければ別の部署に頼んだのにと嫌味たらたらの宗像補佐官。

 杏は平身低頭で謝罪する羽目になった。

 早速振り回し、1回目。


 何とかその場を乗り切って、マルタイである槇野首相に会うと、踏ん反り返ったただのオヤジだった。

 これがまた、解りもしないくせにSP業務に口を出してくる。

 お前は“ここ”に立て、お前は“そこ”に立って俺の身代わりに撃たれる役目だ。お前は・・・。

 身代わりに撃たれる役目だと?

 “そこ”に立ったのは倖田だったが、平時からほとんど顔色を変えることの無い倖田がさすがに目つきを変えた。

 振り回し、2回目。

 総理様であることは皆知っているしそれなりのSP体制で警護するはずが、槇野首相の鶴の一声でどこからでも狙いやすい布陣にしてしまっている。なんともバカらしい。


 相手が誰であろうと正しいこと正しいと主張してきた杏にとっては、これがまた頭を悩ませることとなったが、九条と三条は槇野首相の思いつきで代えられた布陣に立ち、一言も話さずアイコンタクトも取らず黙々とSP業務を熟すのだった。

 

 杏は、自分のしてきたことがある意味間違っていたのかもしれないと改心するシーンが多々あった。SP業務では九条や三条のように相手を守ることが最優先で、警護についている間は自分というものを押し殺さなければならない。

 やはり、W4のように総理直轄の暗殺部隊は鍛え方が違うのか。


 槇野首相が演説を行う金沢市内の会場に着き、やっとE4は一時その身が自由になった。演説会の会議場では、金沢市の警察からSPが付くのだという。

 E4では内閣府から会場までの往復を警護するだけなので、暫しの自由時間ができた。

「切れそうだった」

 杏が言っちゃいけないと思いつつ口走ると、倖田と西藤が大きく頷く。

「今までの我儘マルタイの中でも群を抜きますね」

「九条さんたちは、頭に来ないんですか」

 九条がにこやかに笑う。

「それが警護だから」

 三条も警護には慣れているような素振りでここでようやく九条とアイコンタクトを採った。

「こういうマルタイは多いですよ」


 杏も色々な場所でSPとして働いたが、今までこういった我儘放題の警護は初めてだった。今回の警護は、想定外。気を遣わないと言ったら嘘になる。

「午後に向けて鋭気養わないと」

 杏は演説会場の輪から抜け出て、大きく深呼吸をしながら周囲に目を配った。

 

 なんだか空気が違う。

 ピリピリと張り詰めたものが会場周辺を覆っていた。会場に出入りする者たちから殺気は感じられない。辺りを見回しても殺気を漂わせる人影は見えない。

 だが、何かが杏の魂を揺さぶり覚醒させようとしている。

 これは・・・まさか、狙撃?


 となれば、槇野首相の演説終了時、皆が動き出し会場の外に出る瞬間が一番の狙い時か。

 演説中は何人ものSPが槇野首相を取り囲んでいる。

 

 どこからどこまでが金沢の警察府からSPが付くのか、主催者の考えが今一つこちらに伝わっておらず、次第に杏の口はへの字型に曲がってきた。

 杏はダイレクトメモで皆に知らせた。


(何かおかしい、皆狙撃に注意して業務を熟せ)


 会場内に走って戻った杏は、主催者から、演説終了後の槇野首相の立ち位置などを細かく確認し、またダイレクトメモで皆に伝えた。

(このとおりに歩いてくれれば大丈夫とは思うが、あの天邪鬼(あまのじゃく)のことだ。進路を変えるかもしれない)

 西藤がこらえきれないように時計に向かって溜息を吐いたのが分る。

(俺は一旦右側のそでに移動します)

(頼む)

 倖田は観衆の中に狙撃犯がいるかもしれないと言って、カメレオンモードになり舞台の上に上がった。

(特にここからはそういった臭いは感じません)

(そうか。私も会場に出入りする者からそのような空気は感じなかった)


 三条からも連絡が入った。

(会場から出て、どこからがE4の警護になるんですか)

(主催者からは建物から出る時からだと聞いているが、あてになりゃしない)

(では、こちらもカメレオンモードになって会場のドア付近で待機します)

 九条も三条と同じ位置に立つと連絡が来た。


(まったく。最初から最後までSP業務の方がまだ楽だな。余計気を遣う)

 杏の愚痴めいた言葉に九条が釘をさした。

(こういった警護はよくある話なんですよ、チーフ。とにかく無事に警護を終わらせましょう)

(そうだな、愚痴を言っても始まらん。皆、総理が車に乗って内閣府に着くまでよろしく頼むぞ。各自のタイミングでカメレオンモードになってくれ)

(了解)


 演説は終盤に差し掛かり、会場がいくらかざわつき始めた。

 杏がカメレオンモードになって槇野首相の前に立とうと移動を始めた時だった。


 乾いたような音で1発の銃声が会場内に鳴り響いた。

 驚き悲鳴を上げる来場者たち。

 金沢市のSPに守られた槇野首相は、演説を途中で止め、肩を震わせてその場に(うずくま)った。

 人にあれこれ指図する割には、小心者と見受けられる槇野首相。

 SPたちが立ちあがらせ壇上のそでに避難させようとするが固まってしまい動けない。

(西藤、首相を持ち上げろ!)

 杏の言葉が聞えるか聞えないかのうちに西藤は動き出していて、槇野首相を片腕で持ち上げてそのまま舞台のそでに引っ込んだ。

 しかし、会場から出るには一旦皆から見える出入り口に姿を見せなければならない。

 早くしなければ狙撃犯が近づいてくると金沢市のSPたちが槇野首相を説得するのだが、お前たちが撃たれてこいと言って聞かず、身動きが取れない状況に追い込まれていた。


(こいつはバカか)

 杏はそでに引っ込むとカメレオンモードを解除して今度はSPたちの説得に当たった。

「こちらで槇野首相を担ぎ上げますから周囲を固めて出入り口まで出てください。出入り口には部下を配置していますから大丈夫です」

 すると槇野首相は怒りだした。

「首相である私を担ぎ上げるとはどういうことだっ!」

 杏も負けていない。

「ではご自分の足で移動なさってください。ここにいても狙撃犯に狙われるだけです」

「お前たちが撃たれればいいんだっ」

「そうしてSPが1人もいなくなったらどうやって逃げるおつもりですか。お1人であの出入り口まで移動されますか」

 

 槇野首相は言い返す言葉もなくまた蹲った。

「西藤、いけ」

 杏はひとことだけ西藤に命令すると、倖田にダイレクトメモを飛ばす。

(倖田、どの辺りから銃声が上がったか判るか)

(会場最後尾のメディア用のカメラ席かと)

(まだカメラ席は埋まっているのか)

(こういう絵は面白がって録りますから、動きはありません)

(よし、このまま静観していろ。九条、三条、出入り口の様子はどうだ)

(来場者がパニックを起こして移動し始めたので巧く出られるかどうか)

(だから最初に出るべきだったんだ。仕方ない、来場者に紛れ込ませて逃げるぞ)


 すると今度は2,3発の銃声が会場の照明に向けられたらしく、会場内は暗くなった。

 狙撃犯は暗視スコープを使用しているとも考えられる。

 時間との勝負。


 西藤に担ぎ上げられた槇野首相はヒイイイと金切り声をあげSPたちを蹴る。

 その姿が来場者に見られないようSPたちは西藤と総理を囲んで出入り口に近づいた。


 ところが今度は出入り口付近に銃弾が飛び、SPが1名、腕を撃たれてしまった。

(倖田、分ったか?)

(はい、俺も暗視スコープ装着したので会場内が見えるようになりました。狙撃犯も見当がついています)

(直ぐに撃て。相手は出入り口付近に近づくはずだ)


 倖田が走り出した直後、今度は出入り口付近で銃声が2発。

 襲われたのは槇野首相かもしれないと、杏は来場者をかき分け出入り口に着いた。


 そこには見知らぬ男がライフルと小銃を持ったまま、こと切れていて、九条と三条がにこりと笑いながら杏を迎えたのだった。


(死んだのか)

(足に一発と、あとは脳幹に)

(殺すなと言った覚えがあるが)

(このままでは総理に危害が及ぶ可能性が非常に高かったので、自己判断ではありますが行動に移しました)

 

 杏はしばらく言葉も出なかったが、殺してしまったものは仕方がない。

 気を取り直した杏。

(今度は会場外に出るぞ、そこでも狙撃ポイントは何カ所かあるはずだ)

 倖田がカメレオンモードを解いて会場内の廊下を走ってくる。

「最初に外に出て狙撃ポイントを探します」


 西藤は震えあがっている槇野総理をSPたちと囲みながら防弾ガラス入りのセンチュリーに乗せた。

 杏が駆け回っているため、内閣府までは九条が付いていくと言う。

(チーフは外野の特定を進めてください)

(そうさせてもらう、気を付けて行けよ)

(了解しました)


 だが、槇野総理を乗せたセンチュリーはガンガン、とエンジンの調子がおかしい。

 まさか、この中に時限爆弾?

 ここに来た時、ハンドルを握っていた運転手がなぜか消えていた。

(待て!そのセンチュリーはダメだ!)

(どうやらそのようですね、時限爆弾かな)

 九条たちは急いで内閣府スタッフ者専用のエルグランドに乗り換えるため槇野首相をセンチュリーから降ろそうとした際、エルグランドの窓を目掛けてライフル弾が飛んできた。

 幸い、エルグランドの窓も全部防弾窓だったことから、今回は誰も怪我らしい怪我はしなかったが、槇野首相の杏たちへの恫喝は、それはもう、凄まじいものだった。

 金沢市のSPたちは、やっとうるさい槇野首相から離れられる、とでもいいたげに皆ニヤついている。


 それもまた、杏の逆鱗に触れる原因にはなり得たが、今は喧嘩している場合ではない。

 運転は西藤が務め、エルグランドに九条が乗り込み、30分程離れた内閣府へと向かったのだった。


 会場内外から槇野の護衛をしていた杏、三条、倖田の面々は、バラバラに分れて狙撃犯を追っていた。

 何発かのライフル弾がセンチュリーを襲っていたが発車できないまま。爆発物の危険性を鑑みセンチュリーに人は乗っていない。

 時限爆弾の可能性を示唆した杏の考えは現実のものとなり、10分後、とうとうセンチュリーは爆発した。

 ガソリンに引火して爆発したため、黒い煙がもうもうと辺りに立ち込める。

 金沢市のSPは消防と警察を呼ぶと言って皆、庁舎に逃げ込んでしまった。


(ったく。使えないやつらだな)

(チーフ、公務員なんてこんなもんですって)

(三条、お前はどっちの味方なんだ)

(チーフ、見つけました。向かい側にある50階くらいのビルかな、屋上に1人います)

(そうか、じゃあ三条はそちらに)

(了解)


(倖田、中にいた犯人は警察に引き取らせたか)

(はい、日本人ではないようです)

(外国籍?)

(はい、朝鮮国かと)


 杏は嫌な予感がして、三条にダイレクトメモを飛ばす。

(三条、そっちは殺すなよ)

(はーい)


 三条から聴こえるライトな声。

 本当に大丈夫だろうか、と思ってはいたのだが・・・。

(チーフ―。すみませーん)

(なんだ)

(足撃つつもりが、また心臓いっちゃって)

(またか?)

(警察は呼んであります、こちらも朝鮮国のようですね)


 杏は、誰が何を言おうが、もう今日の任務は終わらせようと思っていた。

 それ以上追っても今日のところは何も出てくる気配はないと思ったし、何と言っても、あの腑抜けなくせに怒鳴る小心者をこれ以上守る気にはなれない。

 あの小心者オヤジにはほとほと呆れかえった。杏が内心そう思っていたのは確かだった。


 内閣府から西藤と九条が戻ってくるため警察府の中で待ち合わせ、2人がくると警察府にはろくすっぽ挨拶もせずに杏は飛行場へと向かった。


 なんとかその日の警護を終わらせて伊達市に戻ったE4メンバー。

 あとはゆっくりするはずが、剛田室長の厳しい眼差しが5人を待っていた。


 設楽の収集した事件情報によると、毛利市の外国人(ゲルマン民族)居住区において小規模爆弾テロが頻発し、段々とその規模は大きくなりつつあるという。

 その犯人像が掴めず、内閣府から内々に調査を依頼された剛田室長は、疲れているところ申し訳ないと前置きしながら明日からの任務を皆に伝えた。

「設楽の情報どおりだ。毛利市のゲルマン民族居住区で爆弾テロが起こっている。最初はゴミ箱を焼く程度だったが、段々と規模が大きくなっていて、車や倉庫などが標的になりつつあるらしい」

「犯人を捕まえればいいのね?」

「そのとおりだ、五十嵐」

 剛田はESSSに出発を報告するため足早に部屋を出た。


 杏はくるりと後ろを向いて、皆の顔をゆっくりと見た。疲れの残った面子はいない。よし。これなら明日からテロ制圧部隊として本来の任務を果たすことができそうだ。

「九条、三条、被疑者は死なせないように。今回は皆で手分けしてゲルマン民族の居住区を当たる」


 俺とナオミの出番はあるのかと言わんばかりに、不破が杏を睨んでいる。

「ナオミの時計はできたか?八朔」

「出来てます」

「じゃあ、ナオミ。使い方は不破に教えてもらってくれ。明日は設楽と八朔を除いた全員で毛利市に飛ぶ。出発時間は午前6時」

 西藤が手を上げて杏に知らせる。

「チーフ、科研の予約、今晩なんですけど。どうします?」

「九条と三条とナオミはカメレオンモードを持っていたとしても古い可能性がある。最新式にオーバーホールしてくれ。あとの者は、九条たちのオーバーホールが終わる夜7時ごろに科研に集合のこと」

「了解」


 九条と三条はナオミと一緒にタクシーで科研に出掛けて行った。

 49階に残された者は、地下に降りて射撃練習を始めた。

 

 不破が杏の隣で射撃練習をしている。

 隣で撃っている不破の成績を見て杏は驚き練習の手を止めた。

 100発中、90発。

 余りの出来の悪さに、不破の肩を叩く。以前は100発100中だったのに、なぜこんなに精度が落ちた。

「不破、言いたかないが、9割では困る」

「自分だって100発100中に届いてないくせに」

「こんなところで喧嘩しても始まらん。向こうに行くまで10割に近づけろ」

 そういって、杏は自分の練習を再開した。不破が何か言っていたが、ヘッドホンを付けていたのでそれを外してまで聞く気も無かった。

 本当なら、ナオミと遊んでるからだバカヤローと叫びたいが、それを言ったところで不破の出来が劇的に良くなるわけでもない。

 とにかく今はテロ制圧のため毛利市に飛ぶまで、寝る間も惜しんで訓練するより他ない。


 午後7時。

 倖田と西藤、不破と杏が1台の借り上げ車に乗って科研に到着した。

 施設内ではちょうど九条のオーバーホールが終わったところで、三条とナオミはもう着替えて1階ロビーで話をしながら九条を待っていた。

「チーフ、もうすぐ九条さんが終わります。あとの人はすぐ準備してくださいとのことでした」

「じゃあ、倖田から行け。西藤、不破、私の順番でオーバーホールする。不破まで終わったらここで解散だ。明日の集合はE4室内で午前5時30分、皆、解ったか」

「了解です」

「OK」


 倖田のカメレオン化のオーバーホールが始まり、次に西藤が行う。

 2人はオーバーホールが終わると互いにカメレオン化の練習として時計左端のボタンを押し自力でカメレオン化していた。

 九条や三条もカメレオン化しながら話をしていたが、ナオミは時計の使い方がわからないため、ガラスの向こうで行われている不破のオーバーホールを興味深そうに眺めていた。


 不破はマイクロヒューマノイドなので、身体全体を全て交換している。そこにカメレオン化のオーバーホールもプラスして1時間半ほど時間がかかっていた。

 三条もマイクロヒューマノイドになったから時間はかかっただろう、ナオミはカメレオンモードを使えるくらいだから何処かは義体していると思ったら、全身義体のマイクロヒューマノイドということだった。

 はて、マイクロヒューマノイドに恋心なんて芽生える余地があったっけ、などと杏が首を傾げているうちに、不破のオーバーホールが終了した。

 メンバーは科研内にて現地解散とし、皆はバラバラに帰っていく。

 どーせ不破はまたナオミのところにでも行くんだろうから、帰りは1人でいいや、とふて腐れ気味の杏。


 皆がいなくなってから杏のオーバーホールが始まった。

 時間に縛られたオーバーホールは好きではない。やはり、肉体に宿る魂が消えていく感じは、杏の心すら空っぽにしていくようで、毎回のこととはいえ、慣れることはできなかった。

 2時間が経過し、杏にとって苦痛のオーバーホールはやっと終わった。

 今日は何年に一度かの脳のCTも撮って、脳の発達状況を見るのだという。

 杏は興味が無かったが、剛田がその辺をかなり心配しているのは確かで、剛田を安心させるための医学的資料としてCT画像を持ち帰るのがお約束となっていた。


 杏が1階のロビーに降りると、不破が迎えに来ていた。

「ナオミは?」

「九条たちと帰っていった。家が近いらしい」

「時計の使い方、教えてくれた?」

「もちろん、検査もしたし明日から使えるよ」

「なんでまた迎えにきたわけ?この頃あたしたちのムード険悪だから剛田さんに言われたの?」

「剛田さんはまだE4にいるんじゃないかな。設楽たちも仕事してるし」

「いいのよ、別にあたしに気を遣わなくたって。ナオミといたけりゃそうすればいい。帰ってくんなバカヤローってあんたの背中に向けて叫んでたけど」

「こないだはナオミから色々聞かれて、バーで一晩。お互いマイクロヒューマノイドだから酔うってこともないし」

「言い訳しなくていいって。お互い大人なんだし」

 不破はふっと口元が緩んだ。

「お前こそバカヤローだな」

 

 

◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 朝5時。

 今朝のE4室内は朝から賑やかだった。

 

 1時間後の出発に合わせ次々と出勤してくるE4メンバー。

 その中でも設楽と八朔が早めに出勤していて、出立メンバーに必要な物を地下の倉庫から出してきた。


 防弾ベスト。

 万が一カメレオンモードになる前に上半身に銃弾を受けても大きな怪我は避けられる。大切なアイテムだが、皆着用を忘れていることが多い。

 ヘルメット。

 これも同様に頭と耳を保護する仕様のものだが、メンバーからの評判は今一つ。

 軽量ブーツ。

 雪道や泥道などを走るのに便利で尚且つ足への負担を減らしたブーツ。八朔の自信作。

 皆、銃は携行している。倖田と三条はライフルを中心とした銃構成で臨むことになる。


「各自、命を大切にするように。これは自分の命も他者の命も同様だ。さ、行ってくれ」

 剛田の言葉を背中に受けつつ、伊達市の飛行場まで2台の公用車で向かう杏、不破、倖田、西藤、九条、三条、ナオミの7人。


 飛行場に着くと、もうオスプレイが飛行可能な状態に仕上がっていた。

 杏を筆頭にメンバー全員が乗り込み、午前6時ジャストにオスプレイは飛び上がって毛利市を目指した。


 毛利市の飛行場まで凡そ1時間。

 オスプレイの中で、メンバーは無駄口を叩くでなく、皆神妙な顔付きで自分の足元を見たり、目を閉じて静かにしていた。

 そして飛行場からWSSSまでは車で20分程。

 WSSSの厚意により、ゲルマン民族居住区まではパトロールのために使う覆面パトカーを3台と、無線付きのバスを借用する算段が付いている。午前8時前後には目的地に到着する予定になっていた。

 目的地のゲルマン民族居住区までは、不破と九条、三条が車を運転しバスは西藤が運転して居住区入口の公園脇にそれぞれ車を停め、覆面パトカーを運転していた3人が一旦バスに移る。

 

 WSSSからゲルマン民族居住区までの道のりで見受けられたのは、杏が4月にも見た通り、朝鮮国の旗が掲げられたバラック造りの建物、雨露を凌げていられるのだろうかと思えるくらい、粗末な建物に暮らす朝鮮国の移民。

 子どもは汚い洋服を着て、道路沿いに出てきて食べ物を恵んでくれと鍋を差し出す光景がそこかしこで見られ、一日の食事にも困っているのではないかと可哀想にも思うのだった。

 だが、今、E4がやるべきは彼らに恵んであげることではなく、いかにして朝鮮国や中華国からの移民の全体的な生活水準が上がるのか、内閣府で検討するよう進言することしかないような気がした。


 一方のゲルマン民族居住区は、居住始めこそ電脳汚染などのトラブルにも見舞われたが、騒動が落ち着いてくるにつけ、小奇麗な洋風アパルトモン、各地に設けられたスーパーマーケットを中心とした買い物地区、インターナショナルスクールや日本語教室などの学び舎(まなびや)、先端ファッションに身を包み歩道を行き交う人々など、外国の香りがほのかに感じられる街並みが形成されてきていた。

 こちらは衣食住に恵まれ快適な暮らしができているのだろう。人々の表情にも活気が見受けられる。

 その中で、やはり人々の心配はテロと思われる爆破が続いていることだろう。



 ゲルマン居住区については、口にこそしないけれど杏も考えていることがあった。

 日本人ですらここまで快適な暮らしをしているのはほんの僅か、人口に換算しても一握りではないかと思われ、あらためて計画の妥当性にクエスチョンマークが浮かぶ。

 まあ、そこまでしなければゲルマン民族は移住してこなかっただろうが、元々日本国民は移民に反対していた者が多かったと聞く。


 ここまで来ると、犯人、いや、犯人グループはどこのどいつか直ぐに見当が付いた。

「早計ではあるけど、こりゃ、犯人はゲルマン居住区以外に住む移民じゃないすかね」

 あくまで自分の意見として、と前置きしながらの西藤の言葉に異論を唱える者はいなかった。

「ここまで違うのかと思うと、大人はまだしも、子どもが可哀想だな」

「でも罪を犯していいという言い訳にはなりませんよ」

 不破が放った言葉に対する九条の正論に、不破が一瞬いきり立った。

「なんだと・・・」

「不破っ、今は止めろっ」

 怪力でならす杏が思わず不破の背後から羽交い絞めにして怒りを収めるよう諭す。それを見て笑うナオミ。

 おい、笑うな。美女だからとて、何でも許されるわけではないぞ。

 杏がイライラしながらナオミを見ると、ナオミはテヘペロとでも言いたげに舌を出してウインクする。

 さすがの杏も、ナオミの誤魔化しを見てどんよりとした気持ちになるが負けてはいられない。手を腰に当て、出し得る限りの大声で叫んだ。

「今はテロ制圧が我々の任務だということを片時も忘れるな。喧嘩してる場合でも笑って誤魔化す場合でもないぞ」



 ゲルマン民族居住区を3台の車でパトロールしながら不審物や不審者の有無を探るため、バスには総括的に西藤が残り、倖田と三条の車は西側を、不破とナオミの車は東側を、最後の九条と杏が乗る車は北から南を動き、活動拠点のバスに乗っている西藤に情報を繋ぐことにして、居住区の中央口で3台は別れた。主要な情報はダイレクトメモで伊達市にいる剛田にも情報を上げるよう、念を押して。

車に乗りこむとき、不破はこれまた一瞬不満ありげな表情になったが、ナオミに何かを耳打ちされると急に収まり笑顔になった。

 しかし、杏的には少しよろしくない。九条と三条はある程度この辺の地理にも明るいだろうが、不破は毛利市のことをほぼ知らないためだ。大丈夫かと心配する杏に、九条が笑いながら教えてくれた。

「ナオミは今年の3月まで1年間、WSSSにいたそうです。我々同様、この辺には詳しくなったみたいですからご心配なく」


 納得した杏がOKサインを出し、九条はゲルマン民族居住区の中央から北側に進路を取ってアクセルを静かに踏んだ。

 杏は先程までのどんよりした気持ちを九条に零す。

「不破にしてもナオミにしても困ったもんだ」

「2人とも正直でいいじゃないですか」

「ところで、仕事の話なんだが」


 杏としては、今回の任務は一義的にテロ制圧が目的である。

 犯人を捕まえて、もしも外国人なら自国に強制送還すればいい話であり、それ以上の何物もない。

 だが九条の意見はもう少し深かった。

 今回の騒動を機に、槇野首相は朝鮮国や中華国の移民を排除する動きに拍車をかける腹積もりだろうと九条は予測していた。

「一日でも早く国交断絶に持っていきたいわけか」

「そう。できるだけ今回の犯罪、テロリズムをクローズアップしたいでしょうね」


 それでも。

 移民、いわゆる民族大移動のヒストリーはとても古く、迫害の歴史を辿りながら住まう土地を替えた民族は多い。

 そう簡単に総理の言う国交断絶が叶うのだろうか。

「無理でしょう、経済的繋がりもないとは言えませんし。特に中華国は」

 九条は淡々と言ってのける。

 来月の国民投票についても触れ、何に賛成するのかしないのかがはっきりしないとぼやく九条。杏は、“国交断絶に賛成の人→○ 反対の人→×”じゃないのかと単純かつ明快な答えを出した。

 九条は、投票というのは、反対する人しか行かない。賛成派は総じて行かないと溜息を吐く。それも、経済的なこととか知らない人しか賛成票を投じる余地がない、とも。

 だからはるか昔、EUからのイングランド離脱事件も起きた。あれは正しく投票の論理を悪用したものだと。


「経済摩擦なんて起こしたら、またもや世界不況ですよ」

「どうして今頃国交断絶とかぶちまけたんだろう」


 九条は、朝中を放り出しても日本が享受できるメリットがあるとしか考えられないという。一般の国民には知る由もない何かがある、と。

 杏は慰安婦や尖閣の問題が尾を引いているのではと尋ねたが、昔から騒いでいることが原因ではないと言いながら、九条は信号機で止るためにブレーキを踏んだ。ゆっくと、それでいて静かに。同乗者のことを第一に考える車の運転、不破にも教えてやりたいと杏が零すと、九条はくすくすと笑った。


 ひと通り見終わった頃、西藤から無線が入った。

「東側の公衆トイレに爆弾が仕掛けられていたそうです。今、WSSSの爆弾処理班が向かっています」

 ちょうど中央口にいた杏と九条は、不審げに辺りをきょろきょろと見回す2人の青年を発見した。

「中央口にて不審者発見、これから職質に入る」

 ドアを優しく開け、向こうになるたけ気付かれないように外に出た杏と九条は、どっちがどちらのターゲットに声を掛けるか指でサインをし合い、杏は右側を歩く男に近づいた。

「すみません、お聞きしたいことが」

「何だよ」

「この辺にW4の事務所があると聞いたんですが」

「そこの角曲がってまっすぐ100m位行くとあるよ」

 青年が上衣のポケットに手を忍ばせた。出すのは、銃か、ナイフか、それとも携帯電話か。

 杏は静かに笑みを湛えながら青年の真ん前に出て両手を広げた。

「W4そのものがないのに?」

 しまった、という顔をする青年。

 すぐさま杏の裏をかき、来た道を戻って逃げようとした。


 杏は2,3歩走り出してふわっと飛び上がり、宙返りをしながら青年の前に立ちはだかった。

「諦めなさい、もう逃げられない」

 青年がなおも上衣ポケットに手を突っ込んでいる。杏がその手元に注目すると、ポケットから取り出したのは違法改造された銃だった。


 杏は八朔特製の防弾ベストを着るのを忘れていた。なんという失態。

 こうなったら素手で戦うしかない。

 相手が銃を構えるのと、杏の回し蹴りで相手が10mほど吹っ飛んだのは、ほぼ同時だった。

 転んだ拍子に相手は銃を離してしまい、杏の足下に転がってきた。

 杏はそれを拾うと、自分のポケットに仕舞い込む。

 そして青年の下まで走りよると、立てないでいる相手の真上から脳幹に向かって銃を押し付けた。

「何をしても無駄だ。立って手を高く上げろ」

 青年はよろけながらも立ち上がった。

 そして、銃を複数所持していたのか、またもや上衣のポケットに手を入れた青年に痺れを切らした杏は、今にも走り出そうとするそのアキレス腱に向け、1発発射した。パン!!という音が辺りに響き渡る。

 青年は前につんのめって転び、アキレス腱を押さえ騒ぎ出した。

「銃刀法違反で逮捕だ。立て」

 相手は立てる訳もなく、転げまわっている。

 眉間に皺をよせ、杏は青年の上衣ポケットに手を入れると改造銃を2丁取り上げた。

「最初から大人しくしていれば痛みを感じることもなかったのにな、残念だ」

 杏は西藤にダイレクトメモで指示を飛ばす。


(不審者1名、銃刀法違反で逮捕。アキレス腱を撃ったので救急車を手配してくれ)


 転げまわっている青年を尻目に、杏は九条がどこにいったか気になった。

 たぶん、もう1人も逃げようとしたはずだ。まさか、また脳幹一発なんてやらかしていないだろうな。

 こいつらの身元はまだはっきりしないが、もしも移民で、警官に撃たれ死んだとなればそれはそれで騒ぎになる。ましてE4は存在すら知られていない組織。こんなことで存在を明かしていられない。


 杏はダイレクトメモで九条に呼びかける。

(九条、今何処にいる)

(公園の外堀です、最初逃げられましてね、これがまた駿足で。捕まえるのに外堀まで走らされましたよ)

(脳幹に当てていないだろうな)

(信用ないな。きちんと右肩に当てて銃は取り上げました)

(そっちも改造銃か、やれやれ、公務執行妨害もプラスだな)

(日本語話せるようだけど、こっちの彼は朝鮮人です)

(そうか?こっちはまだ聞いてなかったな、どれ、聞いてみよう)


 杏は転がり騒ぐ青年に、日本語で話しかけた。杏は朝鮮語などほとんど知らない。 

 よほど痛みに耐えられないらしく、青年が朝鮮語でアパ、アパと言っているのが聴こえた。=アパ=確か“痛い”という意味。朝鮮人だな、こっちも。


 意識ははっきりしていたので救急車とともに所轄の警察を呼び、そこから無線でWSSSのテロ担当者に繋いでもらう。これまでの経緯を報告すると、朝鮮語の得意な捜査官が病院に向かってすぐに捜査が始まった。杏と九条が逮捕した当人として病室に入る。


 逮捕した青年たちは朝鮮国からの移民で、爆弾の運び屋だった。

 どこに爆弾を仕掛けたのか聞くと、素直には話さない。

 司法取引で罪を軽くする、でなければ相当重い罪になるかも、と捜査担当者がちょっと脅すと、青年たちはすぐに爆弾の仕掛けた場所を吐いた。

 公園内の東側に設置してある公衆トイレ。

 誰かが使うかもしれない施設で、今までの車や倉庫よりも一歩踏み込んだ場所に爆弾を仕掛けたことになる。

 西藤が仕入れた情報と同じかどうか確認するため、倖田と三条が急行し公園内の西側に設置してある公衆トイレを捜索した。

 結果、爆弾らしきものは見つからなかった。

 これで公園東側の公衆トイレに仕掛けられた爆弾は青年たちの仕掛けたものと断定した。爆弾そのものはもう爆弾処理班によって取り除かれ、居住区には影響なく事件は終わりに差し掛かろうとしていた。


 だが、青年たちは「自分は頼まれただけだ」と口ぐちに言っている。

 2人が2人、同じ容貌の男から頼まれたと証言し、特段嘘を吐いているとも思えない。自分たちのしていることがテロ行為に当たると聞かされると、2人とも震えあがっていたが、結局、頼んだ男の正体はわからず仕舞いだった。


 こいつはバックに何者かがいる。

 杏と九条は早々に病室を出ると、病院から車を走らせ西藤が乗っているバスへと急いだ。

「パトロール車に告ぐ、至急バスに戻れ。パトロール車に告ぐ、至急バスに戻れ」


 倖田・三条組、不破・ナオミ組の車が帰ってきて、皆がバスに乗った。

「公園東側に仕掛けられた爆弾だが、逮捕したのはただの運び屋だった。裏にもっと別の組織があるに違いない」

 九条が手を振る。

「朝鮮国の嘘は日常茶飯事です。この頃は中華国の人間より性質が悪い」

「なるほど。そうすると、自分たちはただの運び屋で他のことは知らないと言っているが、あの2人は絶対に嘘を吐いていると。もう少し締め上げれば吐くんだろうがな。なにせここは毛利市でWSSSの管轄だ。我々が手出しするわけにもいくまい」

 三条が手を上げて話したそうに口元をムズムズさせていた。

「WSSSの無線傍受してみればいいじゃないですか」

「怒られないか?」

「気付かれないようにやりますよ」

 そういうと、無線の機械を弄りだした三条はしばらく顔を顰めていたが、あるときぱっと表情が変わり、九条に無線機を差し出した。

 それを聴く九条の顔にも明るさが見受けられる。


 やはり、犯人グループは毛利市内朝鮮人居住区に身を潜めていた。


 テロ行為の目的とするところは、「移民受入受容要求」。

 受入受容を示さなかったにも関わらず日本に流入していた両国の移民に対し、国民の不満はたまり続け、一方で、移民たちによるテロの下地となる不穏な空気が醸成されつつあったのも最早間違いのないところだった。

 朝鮮国や中華国内では人口増に喘ぐ自治体が相次ぎ破綻しており、ゲルマン民族だけの日本移送では雀の涙程度の政策でしかなく、矛先をアラブ民族へと変えたもののテロ行為が相次いだため断念、自国民を日本に流出させることを閣議決定したと聞く。

 結局、自国を追い出されるような格好で朝鮮国から無断で流入してきた移民たちが、これは不公平な国策だとしてテロを策動したと思われる。


「この内容によるとWSSSでは犯人グループを特定したようですね、あの下っ端が人相を言ったおかげでグループの中心人物が掴めたようです」

「ご苦労だったな、三条。それなら我々が口を出すまでもあるまい。今回はこれで任務終了になるだろう」


 ナオミはI am bored.と低く小さな声で呟いた。

 今回の任務は余程つまらなかったらしい。

 誰もそれに気付く者はいなかったが。



 その後、剛田室長から正式に帰還命令が出てE4は毛利市からオスプレイで飛び立ち帰路についた。

 ナオミは表面上明るく振舞っていたが、時折意地悪な目をして杏を見ていた。

 杏もそれに気付いてはいたが、別段ナオミに何かしたわけでもない。


 “だから女は面倒で嫌いなんだ”


 閉口している杏の気持ちを汲み取ったのは、おそらく九条くらいだろうか。

 西藤は眠ってしまったし、倖田と三条はライフルの話で盛り上がり、不破はナオミの世話係。ナオミはキャッキャと燥いでいるように見せていたので、当の不破は気が付かなかったろう。


 不破に攻撃させるエサを与えてしまうような気がして、杏は九条と話すのも遠慮していた。

 早く伊達市についてほしい。

 杏にとってはある意味地獄の1時間だった。

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