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あなたはいつも天才でした  作者: 佐倉 弥生
第1章 「始まりの日たち」
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第1章 第3話 「聖女のこれから」

「えっと…こんにちは。こんな素晴らしい学校の入学式で、新入生代表挨拶をすることになるとは思いませんでした。大変光栄に思います」


 少し気の抜けた、始まり。壇上に立ったであろう男、新入生代表挨拶をするべく話し始めたのはとても少年らしい若い声の持ち主でした。わたし、とても好きな声です。優しそうな、わたしを育ててくださった神父様と似ている声。

 その声に紛れて、周りから「あいつ、騎士団長の家の次男か?」「あの騎士団の期待の新人副隊長の弟?」「にしては、弱そう…」など話し声も聞こえます。どうやら、貴族の方なようですね。しかし男性からの評価に対し、女性からの声には黄色い声も含まれますので、多分綺麗な顔をしている方なのだろう、と想像します。

 まぁ、わたしは目が見えないので、確かめる術はございませんが。


「しかしながら、お詫びさせていただきます。名乗ることは控えさせてください。この壇上で、いや、この学園では私の名前は無意味だからです。平民も貴族も、この学園内ではありませんから。あるのは、生徒と教師、あるいは先輩後輩…そんな関係性しか、この学園内では存在しない。とても誇らしいことだと、私は思います。こんな学園を作ってくださった王国に、私は感謝しています」


 少し間が空いて再開した挨拶で、緊張していることがわかりました。しかも、こういう挨拶で名乗らないとは。王様などのお偉方もいるこの席、不敬にはならないのでしょうか。でも、王国を讃えているから、大丈夫なのでしょう。


「私自身は、大変人並みな人間です。清く正しく生きようとしても、ままならないことも多くある、欲のある凡人です。しかし、恵まれていることに、私の周りには素晴らしい方が多くおり、憧れ、尊敬し、目指そうと思わせてくださる、人生の指針ができるような出会いが多くありました」


 文言だけ取ると、卑屈そのものなのに、この方はこれを本心で言っていられるのだな、と感じました。なんと声に素直に感情が出る方でしょうか。噂話通りに貴族だとしたら、この人はきっと生きにくかったでしょう。それでも、このまっすぐさは、少し眩しく憧れもします。あぁ、この方と話してみたい。ふと、そんな気持ちにさせる人だな、と感じました。


「人は変わります。どのような人間になるかは、関わった人で変わるのです。読んだ本や学んだことで考えが変わったり、理解が早まったりするように…人と人が関わっても同じように成長する。まさしく、人の教科書は人なのです。この学園は、そういう意味でもまさしく叡智の集う場所なのでしょう。しかし、いくら叡智を極めても、最後に決めるのは自分。誰でもない私なのです。そこには家も、立場も、この学園も関係ありません!」


 少し、ピリッとした空気が感じます。ここは、貴族席。平等といえど、入学式までは家族と一緒なため、そこまでは階級で席が離されています。なので、家や学園を貶めてるとも取れるこの発言に、何人か…多分ですがあまり位の高くない、功績もない方達が少し怒っているようです。嫌なところを突かれたんですかね?


「私は、この学園で、自分で自分のことを目指せるよう…自分が自分を尊敬できるよう…努力していくこと。この場でそれを誓わせていただきます。これを持って、新入生挨拶とさせていただきます。ご静聴、ありがとうございました」


 挨拶が終わり、拍手が起きました。平民にも貴族にも受ける、ほどほどに良い挨拶だったのではないかと思います。きっと、差別意識もない方なのでしょう。教会育ちの私からすると当たり前のそれは、貴族では珍しいその考えが大変嬉しく思いました。

 そして私は、他の学園の先生方のお話などは話半分で聞き、この方とどうやったら話せるか、どう行動するか、考えることにしました。

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