第1章 第2話 「賢者に至る少年の嫉妬」
私には、魔法という自信と誇りがある。生まれた頃より魔力が多く、物覚えも良かった。計算や魔力の力の練り方も、同世代の中では飛び抜けていた。周りからは神童と言われ、そしてその評価を下げなよう努力もしてきた。それは、尊敬する父や祖父のようになりたかったから。小さいながらも豊かな領地を治める父や祖父に、恥じない子でありたかった。
そんな父や祖父は魔法は人並み程度だったが、なんでも母は魔力の強い一家の血が流れていたらしく、私はその先祖帰りのようなものだった。その一家は国外の一族であり、母も面識は一切なく3,4世代は前のことだから詳しくは知らないのだと気まずそうに言っていた。そして、そんな母は朗らかな笑顔を絶やさない、優しく、しかししっかりとした人だ。私がここまで努力できたのも、母が「できるわよ」といつでも当然のように微笑んでいてくれたからだ。無理をした時は、いつもの笑顔が嘘のように鉄拳が飛んできて問答無用で休ませられたのも、理由の一つだろう。
そして、歳が3つ離れた母そっくりの妹は、可愛くて仕方ない。しかも私について学んでいたせいか、彼女の天性のものなのか、私とほとんど同じ学力にまで至ってしまっている。それがまた愛おしい。
さて、ここまで説明してご理解いただけたかと思うが、私は家族を大変愛しているし、尊敬している。そして、私と妹が優秀である、ということが少なからず伝わっていただけていると嬉しい。しかし、問題はそこではない。
「何故、私たちではないのだ…」
「そんな風に不貞腐れないでください、お兄様。入学の挨拶は、成績に関係なく選ばれていると学園長先生が先ほど仰られていましたし。ね?」
小さなぼやきを妹にそう励まされる私は、今はこの国の唯一の高等教育機関である学園の入学式にいる。しかし、壇上には入学試験トップであるはずの私ではなく、巷で噂の小説家先生様がご登壇されている。確かに見目は良いし、家柄だって私より上。しかし、ガチガチに緊張しているのが見て取れる顔、それに綺麗な顔であるのにどこか自信なさげな雰囲気がまた無性に腹がたつ。つまり、納得がいかない。そんな気持ちで半ば睨みつけるように彼を見る。気配を感じたのか、小説家先生は一瞬ビクッと肩を震わせた。
「私なら、話す前からあんな無様な姿は見せないのに」
「もう、お兄様、魔力を乗せて彼を睨むのはやめてあげてください。とにかく、機嫌を直して…あ、ほら、挨拶、始まりますよ!」
飛び級…という概念は特にこの学園ではないのだが、同じ学年として入学した私たちはこれからライバルでもある。妹にそう言われたら、頑張るしかない。しかし、妹が密かにこの小説家先生の本のファンであることを知っている私は、はしゃぐ妹が少し中途半端に言葉を切ったことで、壇上に立つどこか頼りない美少年を余計に睨んでしまう羽目になった。