サンタっていい人
12月24日。
お父さんが赤い靴下をくれた。
片方だけ。
「これ、なに.....?」
「これは靴下だね」
お父さんは自信満々に答える。
「いや、そうじゃなくて......なんで靴下を片方だけくれるのよ」
「ははは、知子は明日が何の日であるか分かっていないようだね」
お父さんは腰に手を当てて、私の表情を窺っている。
私はため息をついた。
中学生にもなって、この演技をするのは辛い。
「あー、そうだった。明日はサンタさんが私にプレゼントをくれる日だったー」
私は両手を胸の前で軽く合わせると、棒読みで告げた。
お父さんは満足げに私を見つめる。
「おう、そうだぞ。だからこの靴下を枕元に置いて今日は眠りなさい。」
「今までそんなシステムじゃなかったじゃん。」
「今年から導入された新システムだと.......サンタさんがお父さんに言っていたよ」
「いや、これは昔からあるシステムだと思うんだけど......もしかして、サンタは靴下にプレゼントを入れるってお父さん知らなかったんじゃない?」
お父さんが痛いところを突かれたのか、顔が歪んだ。
「な......そんなわけないだろ。そもそも、靴下に入らないものをプレゼントしたい場合はどうしたらいいんだ?このシステムには欠陥がある」
「その場合は大きな靴下を用意するか、無理に入れずに横に置いとけば?」
「なるほど、そういうやり方があるのか!知子は賢いなぁ。今回は物がでかいから靴下に入らないしどうしようかと悩んでいたところだ......と、サンタさんが言っていたな」
「......そうなのね。期待して待ってるわ」
私はお父さんから靴下を受け取ると、自室へと戻った。
靴下を枕元に投げると、私はベッドに後ろ向きに倒れ込んだ。
(中学生にもなって......こんな子供っぽいことに付き合ってあげなきゃいけないなんて)
お父さんはとても純粋なところがある。
私がとっくにサンタさんがお父さんであることに気づいているとは思ってもないのだろう。
サンタさんのプレゼントなんて、子ども扱いにはうんざりするが、断った時にお父さんが悲しむのは目に見えていた。
(去年は確か、モグラのヌイグルミだったな......お父さんは私が欲しがるものなんてきっと分かってないんだろうな)
お父さんのくれるものには、センスが欠けていた。
一昨年は確か.......腹話術の人形だった。
(まあ、今年も期待せずに待つとしよう......)
私は眠りについた。
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朝起きると、1mくらいある大きな赤い靴下がベットの横に置いてあった。
その上には、"知子ちゃんへ"と書かれたメッセージカードが置いてある。
靴下はお父さんが作ったのか、雑な縫い目が目立つ。
私はメッセージカードを手に取ると、裏面を向けた。
"儂はサンタじゃ。いつも頑張る知子ちゃんの欲しがってたものを置いておくぞよ"
明らかにお父さんの字で書かれていた。
「ありがとぉ。サンタさん...」
私は感謝より眠気が強かった。
私は靴下の中を覗いた。
すると、そこには私が欲しがっていた"バイオリン"が入っていた。
私は一気に眠気が吹き飛んだ。
(やった。やった。バイオリンだ!)
吹奏楽部で自分のバイオリンを持っていないのは、私一人だけだった。
貧しいうちの家庭事情では、買ってもらえるわけないと思っていた。
私は部屋を飛び出すと、リビングに向かった。
リビングではお父さんがキッチンで朝食を作っていた。
私はお父さんの背中に後ろから抱き着いた。
「うわぁ。火を使ってるのに、危ないだろ。知子」
「あのね、あのね。お父さん聞いて!」
私はこの喜びを伝えたかった。
「サンタさんっていい人なのね!」
サンタっていい人 -終-