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異世界帰りのおっさんは、父性スキルでファザコン娘達をトロトロに  作者: タカハシ ヒロ
第二章 還ってみれば

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不登校


 朝食をとりながら、綾子ちゃんに話しかけてみる。

 斬りかかられた瞬間について、詳しく聞いてみようと思ったのである。


「……顔は見えませんでした。後ろからいきなりでしたし」

「だよなあ。声は聞かなかったのか?」

「……いえ。それも」


 こちらも駄目か。

 夜闇に紛れて不意打ちを喰らえば、まず対処出来ないものだ。

 ましてや戦闘訓練を受けていない、一般市民なのである。

 綾子ちゃんからの情報は、あまり期待出来ないかもしれない。


「じゃあ何か、最近変わったことって起きなかったかな」


 もしかしたら犯人は、事前に綾子ちゃんに目を付けていた可能性がある。

 近日中に不審な人物の顔を目にしていれば、そいつが怪しい。


「……特に何もないですね」

「そうか」

「……あ、でも」

「思い出した?」

「先週から、うちの店に昔のクラスメイトが顔を出すようになったってお母さんが言ってました」


 それが関係あるとは思わないんですけど、と綾子ちゃんは続ける。


「……これ以外に心当たりはありません」

「クラスメイトね。一年の頃の?」

「いえ。中学時代の」

「……男子?」

「そうです」


 もの凄くそいつが怪しいのだが、と俺は食いつく。


「綾子ちゃんに密かに想いを寄せてたりしたんじゃないか? 歪んだストーカーかも」

「……ありえないですよ」

「なんでだ? 綾子ちゃんモテそうだし、そういう輩がいてもおかしくはないだろ」


 あくまで内面さえ見せなければモテそう、という前提条件だが。


「だってその人、悪いことを出来るようなタイプじゃないですし」

「いいやつなのか」

「そういうんじゃないです」


 弱いんです、と綾子ちゃんは呟いた。


「弱い?」

「はい。……中学に上がってすぐに、イジメられるようになった人なんです。可哀想ですけど……二年になったら、いよいよ学校に来なくなってしまいました。今はもう、家からもほとんど出ないようになってるみたいで」

「引きこもりってやつか」


 どこかで聞いたような話だ。

 中学時代に突如として引きこもりに陥った人間が、ある日活動的になる。

 

 そう、俺のように。


 もちろん、俺は部屋に篭っていたわけじゃない。異世界で散々暴れ回っていた。

 それがこちらの世界では、ずっと家にいたという風に人々の認識を弄られている。


 ……俺と同じなのか?

 

「そいつの名前ってわかるかな」


 俺の質問に、綾子ちゃんは箸を持ったまま眉をしかめる。


「……すいません。私も話したことがないので、下の名前までは。けど名字ならわかります。冴木(さえき)くんです」

「いやいや、ありがたい情報だよ。住所はどのあたりかって……覚えてないよなあ。あ、綾子ちゃん家にもう一回行って卒業アルバム取ってくればいいのか」

「無理ですよ。最近の卒アルは連絡先、載せてませんから」


 そういえばそんな話を聞いたことがあった。

 せちがらい世の中である。俺の学生時代と比べて、個人情報の重みは増しているのだ。


「まあいい。おかげで少しは進展しそうだよ」


 綾子ちゃんの中学時代のクラスメイトで、冴木。

 

 お前も召喚勇者なのか?


 胸のうちで呟いた問いかけに、答えるものはいない。


「でも、ストーカーだなんて……考えられないです。冴木くんと私って、一度も言葉を交わしたことがないんですよ。それでどうやって私を好きになるんですか?」




 電車を乗り継ぎ、テレビ局に到着した。

 本来の打ち合わせでは俺のヒーローインタビューが続けられるはずだったが、どうも局の関心は増殖した人々に集中しているらしい。

 一晩であれほどの人数が増えれば、当たり前なのだが。


 どんどん俺の存在感が霞んでいくな……とげんなりしていると、黒澤プロデューサーが声をかけてきた。


「中元さん、数字悪くないですよ。やっぱり筋肉強調はいけましたね」

「ほんとですか。いや、ナルシストっぽくてどうかと思ってたんですけど、あれで受けるんですね」

「今テレビ観てるのって女の人ばっかだからねえ。男が脱ぐと数字が上がる時代になったんですよ」


 2000年とは隔世の感がある。

 変われば変わるものである。


「でね、今勢いのある中元さんに、同じく勢いのあるニュースを絡んで欲しいと思いましてね。それで相談があるんですよ」

「……どういう仕事なんです?」

「あれですよあれ」


 増殖事件、と黒澤プロデューサーは言った。


「これも注目度凄いでしょ? そこにほら、稀代の天才マジシャンにして肉体美を誇る中元さんを絡ませれば、もう視聴率は爆上がり間違い無し!」

「……俺は何をやればいいんですかね」

「中元さんも人を増やす……のは無理ですよねえ」


 やろうと思えばやれるだろうが。


「無理ですね。人間の限界を超えてる」

「ですよね。でもまあ世間はそう思ってないんで。適当に無名の双子を用意して、中元さんも増やせるように演出かけますから」

「それヤラセじゃあ」

「大丈夫ですよ、海外のマジシャンにも実は双子って人ちょくちょくいるんですから。瞬間移動系のマジックは、大体これが種ですね」


 知りたくなかった現実である。


「えーとじゃあ、俺はテレビの前で、人を増やしてみせればいいんですね。ヤラセだけど」

「そうですそうです。で、犯人を思いっきり挑発してみて下さい」

「……ええ?」

「こんなの俺にも出来るわ! って、テロップでバンバン強調しますんで、よろしくお願いしますよ」


 さてどうしたものか、と思考を巡らせる。


「……一つ注文つけていいですかね?」


 俺の言葉に、黒澤プロデューサーは不思議そうな顔をした。

 片眉を上げ、「ん?」と声を出している。


「もっとガンガン挑発していいですか? メタクソに貶そうと思うんですよ。変態切り裂き魔、とかね」

「……好戦的ですねえ」

「だってほら、相手は通り魔的に人に斬りかかって、その後増殖させてるんですよ? 一応は犯罪者じゃないですか」

「んー……」


 小太りのプロデューサーは、鼻の頭を掻きながら唸っている。


「……いいでしょう。犯人を英雄扱いしている人もいますが、ネット上じゃ殺せコールもそれなりにありますからね。うちネットだと嫌われてるんで、この際そっちの声に従うのもありかもしれませんね。これを気機に融和を図るということで」

「ありがとうございます。頑張ってみますよ」


 もし冴木が本当に増殖事件の下手人なら、この挑発は効くはずだ。

 まあ、無視される可能性も大いにある。

 単に水辺に石ころを投げて、波紋を広げるような感覚だ。

 これをきっかけに何かが起こればいいな、という淡い期待。

 魚が顔を出すか、泉の精でも出てくるか。


 何もしないよりはマシだ。

 

 冴木の住所は、リオの手を借りればいい。

 リオの中学は、冴木や綾子ちゃんと一緒。

 つまりリオの兄貴であるキングレオは、冴木と学園が一緒だ。同じクラスだったことすらあるかもしれない。


 あのライオン兄妹に身元を調べて貰いつつ、俺は電波を利用して挑発する。


 もし冴木が事件と関わっていないとしても、どっちみち真犯人は異世界返りの勇者な線が濃厚なのだ。

 そういう人種が、何を言われたらカチンと来るかは把握している。

 俺にしか出来ないあぶり出しだ。


 吉と出るか、凶と出るか。

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