発掘、激レアさん
ムーンガールの冠番組、正式名称『月面旅行』は、毎週月曜深夜に放送されることとなった。
記念すべき第一回は一時間スペシャルで行なわれ、メンバーの自己紹介にあてられるらしい。
が、そういった概要はどうでもいいのだ。
重要なのは、どんな女の子が揃ったかである。
今日は初顔合わせ兼、打ち合わせ。俺にとっても向こうにとっても、探り合いとなる一日だ。
「「「よろしくお願いしまーす!」」」
ドヤドヤと楽屋に押しかける、総勢三十名ものアイドル達。おっさんの俺にはもはや見わけもつかないが、全員が厳しいオーディションを勝ち抜いた精鋭だと聞かされている。
とはいえ握手券を売りにしたグループなので、歌やダンスの技能を審査されたわけではあるまい。
ルックスと愛想の良さ、あとは健康状態をチェックした程度だろう。
……スキル重視のグループの方が、戦闘向きのスキルを持ってそうなんだけどな。
けれどそういう「本物」の人材は、バラエティ番組なんぞに出ないのである。
出所の怪しい芸人が気軽に近付けるレベルとなると、このあたりが限界なのだ。
俺はあまり期待しないまま、ステータス鑑定に移った。
「私、前々から中元さんのファンでぇー」
媚びた声で営業トークを仕掛けてくるリーダー、桜木桃香。スキルもステータスもボロボロで、戦闘はおろか、芸能界を生き残れるかどうかも怪しい。
次。
「黒澤プロデューサーと仲いいってほんとですかぁ?」
グループトップの長身、鈴木美紀。……なんと、保有スキルは「枕営業」!
俺を見る目が肉食獣なのが心臓に悪い。
こいつもダメ、次。
「自分は、早く踊りたいさー」
――沖縄訛り?
独特のイントネーションに思わず顔を上げると、日焼けした女の子と目が合った。
……どこかで見たような顔だ。だが、思い出せない。
「君……」
「や、やっぱり標準語で話した方がいいですか? 地方の子は、方言出した方がキャラが立つって言われたから」
「いや、そのままでいい。それより君――格闘技の経験でもあるのか?」
「なんでわかったさー!?」
戦場暮らしが長かったせいだろう。物腰や筋肉の付き方で、なんとなく感じ取れるのだ。
この子は当たりかもしれない。
俺は期待を込めた声でたずねる。
「名前は?」
「……具志堅陽子」
この子の持ちネタなのか?
そこかしこでクスクスと笑い声が漏れる中、褐色の少女は恥ずかしそうに俯いた。
「はは。そういうボクサーいたよね。で、本名はなんていうんだい?」
「これ、本名さー」
「え」
「親が再婚したら、苗字が具志堅に代わって。それでこうなっちゃって」
どういう確率だよそれ?
だが、覚えやすい名前というのはある意味最強の武器かもしれない。タレント活動をする上では有利に働くはずだ。
「なるほどね。……ステータス・オープン」
「?」
【名 前】具志堅陽子
【レベル】2
【クラス】女子中学生
【H P】125
【M P】170
【攻 撃】125
【防 御】125
【敏 捷】130
【魔 攻】200
【魔 防】200
【スキル】琉球空手 ユタ
【備 考】幼少期より空手の鍛錬を積んできた少女。沖縄系タレントの復興が目標。
「ユタ?」
無意識に発した声に、陽子は反応した。
「なんでわかったさー?」
「……なんかそれっぽいなと思って」
「へえー?」
苦しい言い訳だったが、「それがわかるってことは、中元さんも霊感みたいなのがあるのかも」と納得しているようだった。
陽子が言うには、ユタというのは沖縄の民間霊媒師――いわゆるシャーマンを指す言葉らしい。
「うちの家系は、お婆ちゃんも曾お婆ちゃんもユタさー。お母さんだけなれなかったけど」
どうりで魔力が高いわけだ。
おそらく彼女の一族は、「ガチ」のシャーマンなのだろう。
おまけに身体能力も一流だし、それに……。
上から下まで、舐めるように陽子を観察する。
沖縄出身らしく、本土の人間より彫りの深い顔立ちをしていて、表情には南国的な明るさがある。
ぱっりちと大きな目。真っ赤な唇。肩のところで切り揃えられた茶色の髪、それより少し淡いブラウンの肌。
身長は一五〇センチ程度だろうが、出るところはしっかり出ているように見受ける。おそらくCカップ前後で、味はソルト系だろう。スポーツ少女は汗の味と相場が決まっている。クロエ含む複数の元気っ娘がそんな感じだったし……いや今は味などどうでもいい、それは後で確かめるべきことであって。
要するにこの子は。
能力・容姿ともに申し分のない、激レア人材というわけだ。
握手券で無理やりCDを売り抜くようなグループにはもったいない、本物の逸材――
「陽子っていったね」
「は、はい」
ガチガチに緊張する南国美少女に、そっと耳打ちをする。
「二人きりで話したいことがある。打ち合わせが終わったら、スタジオに残っててくれるかな」
「……?」
俺は何事もなかったかのように、残りの面々の能力鑑定を行った。
当たり人材は、他には見つからなかった。




