調査報告
一時間ほどクロエの体を弄り倒した結果、わかったことがある。
十五歳の女の子は、可愛い。
あと、舐めると美味しい。
しかし肝心の弱点はというと、何一つ解明できなかった。
いやある意味全身が弱点というか、凄く敏感な肌を持っているのは理解できたのだが、それが事態を好転させるとは思えない。
女子の服を脱がせ、体をペロペロしたら無力化できる。そんなのは当たり前だ。
なによりその状態に持ち込めてる時点で勝ってると思うし、それができるのは俺くらいのものだ。
クロエ軍団は万単位で攻め込んでくる。地球の一般人でも模倣可能な、簡易な攻略法でなければ意味がない。
最悪、俺を細かく刻んで魔法で再生し、物理的に分身しまくるしかないのかもしれない。
……いや駄目だ、俺とクロエの集団が全力でドンパチしたら、この星が亡びてしまう。
戦闘に持ち込む前に無力化できるような、そんな方法を見つけなくては。
俺は再びクロエに視線を向けた。
最強のホムンクルスは、エリンに腹を舐め回され、「ひゃううううううう」と妙な声を上げている真っ最中だった。
「もうやめてやれよ。ヘソの味で何がわかるってんだ」
エリンは口元から糸を引かせながら、淡々と告げる。
「全部わかった」
「マジで?」
「……このホムンクルスは戦闘用に調整を受けている。基礎スペックを引き上げるため、体内に魔力路が作られている。だから、内臓が活性化してる。ホムンクルスなのに生殖能力があるのは、それの二次作用。また、勇者から受け継いだ神聖剣スキルを使いこなすために、光属性との親和性が強化されている。本来の属性は水属性だった可能性が高い。弱点属性はおそらく闇魔法。あと、五感も常人を上回っている。やたらくすぐったがりなのはそのせい。不快音や閃光、悪臭などで攻めるのもいいかもしれない」
「ヘソの味でそこまでわかんの!?」
「わかる」
エリンは猫耳をピコピコと動かしながら、深く頷く。
「……今の私は、猫の体を使ってるから。味覚や嗅覚が、前より鋭い。舐めたり嗅いだりすると、色々なことがわかる」
「猫ってすげえな」
五感が鋭い少女、か。
モスキート音なんかで攻めるのもいいかもしれない。
あれこれ考えていると、ぐったりとした顔でクロエが言った。
「女の子をやっつけたかったら、飴と鞭が一番だと思うよ……」
そりゃあそうかもしれないけどさ。
俺はこんがらがってきた頭を整理するため、一旦リビングを離れることにした。
ベランダに出て、欄干にもたれかかりながら風に当たる。
「クロエのやつ、綺麗な体してたな」
初戦闘の時は夜間だったし、風呂場で洗いっこする時はなるべく裸を見ないようにしていたため、明るい場所でまじまじとあいつの体を観察したのは初めての経験だった。
勇者と女騎士の間に生まれた子供なのだから、当然かもしれないが、引き締まった体をしていた。
白い腹はうっすらと縦線が走り、尻や太ももは脂肪がほどよく乗っていた。
陸上の短距離選手を想起させる、アスリート体型の少女なのだ。
敵兵とはいえ、あの美しい体に傷を作るのは気が進まない。
ましてや己の血を引いているとなると……戦意は萎える一方である。
これが狙いでクロエを量産したのだとすると、異世界の連中は中々の策士と言える。
「……どうやら俺は、思ってた以上にあいつが可愛いらしい」
それは本能に裏打ちされた、原始的な愛情だった。
異性よりも両親に抱くタイプの、あたたかな感情――それが疼くせいで、俺はクロエシリーズとは戦えない。
こうしてクロエの一体と同居しているせいで、あいつへの愛着は日々増していく一方なのだから。
どうすりゃいいんだろうな、と首を振りながら居室に戻ると、クロエが真っ赤な顔をして俯いていた。
「おいおい、俺の娘になにしてんだよ」
エリンは一体どこを舐めたんだ? と問い詰める。
「……私は何もしてない」
「どういうこった?」
「……わからない。この子は急に恥ずかしがって、赤くなった」
クロエはもごもごと呟く。
「だって父上が変なこと言うんだもん」
「――」
まさかこいつ、俺がベランダで漏らした独り言を、聞き取ってたというのか?
部屋に背中を向けた状態で、小声で発した言葉を。しかもあの時、割と強めの風が吹いていたように感じたが。
視力が化物なのはわかっていたが、聴力までこれとは。
ますます頭痛の種が増えたじゃねえか……ため息を付いた瞬間、脳裏を悪魔めいたアイディアがよぎった。
「――ああ、そうか、なるほど」
「父上?」
俺はクロエに礼を言う。
「ありがとよ、おかげでお前の攻略法はわかった」
「ほんと?」
「任せろ。お前が大軍団を編成しても、多分、なんとかなると思う。互いに犠牲を出さずに、平和的にやり込めるはずだ」
「そっか……それならよかった」
しかし敵はクロエだけではない。
おそらく異世界の連中は通常戦力も投入してくるだろうから、こいつらを鍛えておいて損はあるまい。
俺はアンジェリカを呼び寄せると、法術のレッスンを開始した。
若い脳は覚えが良く、スポンジのように知識を吸収していく。
ご褒美にベロチューを用意したのが良かったのかもしれない。
下級法術を一つ覚えるたび、ベロチュー五分。
中級法術を一つ覚えるたび、全身リップ一回。
上級法術を一つ覚えるたび、密着ローションマット本番なし一時間。
超級法術を一つ覚えるたび、相互赤ちゃん返り保育カプセル増し増しエアヘソの緒がんじ絡め母乳ガンギマリ一時間。
そして禁術を一つ覚えたら、本番も検討する。
この条件を提示したところ、アンジェリカは血眼になって法術の鍛錬を始めた。
綾子ちゃんとリオも同様である。
彼女らの戦闘力がフィリアに追い付くのは、時間の問題かもしれない。




