娘のものは俺のもの、俺のものは俺のもの
母乳でパンパンになったペットボトルを綾子ちゃんに渡すと、不愉快そうに眉をしかめられた。
親指と人差し指でキャップをつまむ姿は、まるで汚物を処理しているかのようである。
「あーっと。かなり甘いから、シチューやカレーには合わないと思う」
「……お菓子やコーンポタージュには使えるかもしれませんね」
私は食べませんけど、と捨て台詞を残し、台所に引っ込む綾子ちゃん。
なんであんな機嫌悪いんだろ? と思ったが、惚れた男が他の女の乳を吸いまくったあげく、その女の体液を渡してきたのだから、人として当たり前の反応だった。
むしろ今回は俺の方が狂っている気がする。
謝った方がいいんだろうか。
恐る恐る台所に近付くと、血走った目で己の乳房を揉んでいる綾子ちゃんを見つけた。
えっ、昼間から何やってんの? と咄嗟に気配を消すも、面白そうなので観察を続けてみる。
「……母乳……母乳……母乳……!」
どうやら綾子ちゃんは、そんな風なことを呟いているらしい。
母乳?
それにあの手つきは、一人遊びをしているというより、乳搾りをしているように見える。
「なんで……出ないの……っ!」
ああ、なるほど。
アウローラに対抗して、自分も母乳を出そうと思ったのか。
でも綾子ちゃん、妊娠してないし。出るわけないじゃん。つーか妊娠以前に処女だからな、あの子。
俺と同居して以来、様々な変態イベントをこなしている綾子ちゃんだったが、未だに膜は無傷だったりする。
もうとっくに孕ませてそうな雰囲気が漂っているが、これはガチである。
ていうか俺、エルザ以外の女とは肉体関係を持っていないし、地球の一般人は一人も殺してないからな実は。
俺の過去の行動をよーく思い返してみてほしい、セックスと殺人は巧妙に避けているのだ。
まあ……俺ってば正真正銘の正義の味方だし、光属性の勇者様だし?
女子高生を平然とハーレムにぶち込む男だけど、本番行為だけは回避し続ける、模範的なチート野郎なのである。
やれやれ、他の主人公達も見習ってほしいものだぜ……とどこに言っているのかわからないモノローグを繰り広げながら、リビングへと向かう。
母乳の処理も終わったことだし、本来の用事に戻るとしよう。
俺は家のあちこちに散らばる同居女性に声をかけ、居間に集める。最後に台所から綾子ちゃんがやってきたところで、口を開いた。
「俺とクロエが先日仕留めた男――オドリックは、地球と異世界の間に戦争が始まるように仕向けていた。わかるか皆。ここはもうすぐ戦場になるんだ」
俺の言葉に、一同が静まり返る。
「どこまで猶予があるのかわからないが、今は少しでも戦力を引き上げたい。幸い、皆には魔法の素養があるようだし……フィリアやエリン、クロエに教われば、いっぱしの戦士になれると思う」
俺はアンジェリカ、リオ、綾子ちゃんの目を順番に見る。真乃ちゃんは何がなんだが、な顔をしていたが、そういえばこの子には何も説明していないと気付く。まあいいや、女子中学生は可愛くあることが仕事なんだから、時々俺と入浴したりママになってくれたりしたらそれでいい。
「お前らにはこれまで以上に真剣にトレーニングをしてほしい。それとここからが重要なんだが……」
俺はクロエとアウローラに視線を送る。
「異世界の軍隊は、量産されたクロエの姉妹と、飛竜を大量に保有しているらしい」
アンジェリカが息を呑む。
「たくさんのクロエさんが、竜に乗って襲いかかってくるってことですか」
「そうなるな」
一気に場の空気が重くなる。
リオは「それって世界の終わりなんじゃないの?」と肩をすくめていた。既に勝利を諦めているようにも見える。
「このままだとそうなる。知恵を持った戦闘機が、大量に飛来してくるわけだからな」
「でも、お父さんは最強じゃないですか!」
とアンジェリカが叫ぶ。
「ああ。俺なら絶対に勝てる。一対一で負けることはない。多分、フィリアやエリンでも撃退できるはずだ。だが、あまりにも敵の数が多すぎる。日本中の空を守り切るなんて不可能だからな。必ずどこかに犠牲が出る」
どうしろって言うのよ、とリオが髪をかき上げた。
「そのための作戦会議だ。俺達はクロエと飛竜の弱点を、調べ上げる必要がある」
「……なるほど」
エリンが頷く。
「幸い」
俺はクロエとアウローラを指さして言う。
「幸い、ここにサンプルがある」
え、私? とクロエは己の顔を指さす。
「ステータス鑑定だけじゃわからない弱点が、攻略法が見つかるかもしれない。だから俺達は、皆で二人の体を調べるべきだ」
「父上は何を言ってるの?」
「お前の助けが要るんだ」
じっとクロエを見つめると、「……しょうがないな」と頬を赤く染めた。
「つ、つまり今から、私とアウローラの体をまさぐるんだね?」
「ああ」
「父上だけでなく、神官長やエリンさんや神聖巫女も加わって……くんずほぐれつの状態になって!」
「戦況分析だ。何もやましいことはない」
「……わかってるよ」
クロエは上着に手をかけ、「全部父上のためなんだからね、やるなら徹底的にやってよね!」と開き直る。
「……勇者、質問」
エリンが小さく挙手をする。
「……味も見ておいた方がいい? 何か弱点がわかるかもしれない……」
「許可する」
なんで許可するのさ!? とクロエが抗議の声を上げたが、「娘の体は父親の所有物だろ? お前に選ぶ権利はねえんだよ」と昭和の糞オヤジな台詞を発すると、
【パーティーメンバー、クロエの好感度が5000上昇しました】
とメッセージが表示された。
クロエは蕩けた顔で「はい」と首を縦に振り、「私の心も、脳も、おっぱいも、子宮も、全部父上の私物です、お名前シール貼り付けて持ち歩いてくだしゃい」と息を荒くしていた。
リオが羨ましそうにこちらを見ていた。
「じゃ、始めるとするか。戦闘用ホムンクルスと、騎竜のスペック調査を――」
 




