ホワイトシャワー
「おかえりなさい、お父さん! 飛竜はどうなりました?」
玄関を開けるや否や、裸パーカーというあられもない恰好をしたアンジェリカが、勢いよく抱き着いてきた。
ファスナーはヘソのあたりまで下げられており、乳首が隠れてんだからそれでいいじゃん、と開き直りもいいところなバストが、もにんと押し当てられる。
盗み見るようにして観察を続けたところ、パーカーの下はパンツとニーソックス以外、何も着用していないのが確認できた。
割といつものアンジェリカである。
何も驚くことはない。
この格好の美少女が連日性行為をねだってくるというのに、未だ処女を奪わずにいる俺って実は凄い奴なんじゃないだろうか?
「こらこら、歩きづらいから離れなさい。今日はお客さんもいるんだから」
「ふえ?」
アンジェリカは俺に抱き着いたまま背伸びをし、肩越しに後方を覗き込んだ。
当然、俺の腹部に押し付けられている乳房も持ち上がり、上に向かって移動する。
そう……十六歳のノーブラおっぱいが、ズリズリと腹の上を滑っていくのだ。
この世に触覚があって良かった、と感謝せずにはいられない瞬間である。
「ありがとう人体……」
「誰ですか、あの女の人」
アンジェリカは踵を下げ、元の高さに戻る。その拍子にまた乳房が俺の腹を滑った。
「紹介するね。この子はアウローラ。私の軍用飛竜だよ」
上がり框に足を乗せながら、クロエが言う。
「飛竜……? あ、もしかして人化の術を使ってるんですか」
「そういうこと」
そっけなく頷くと、クロエは足早に廊下の奥へと進んでいった。
今のところ順調な滑り出しである。そうそう、こんな感じですんなりと受け入れてくれりゃいいんだ。
俺はアウローラをエスコートしながら、軽快な足取りでリビングへと向かった。
するとエプロン姿の綾子ちゃんと出くわしたのだが、
「……もう。また新しい彼女を拾ってきたんですか?」
意外や意外、あっさりと許してくれた。
日常的に女の子を連れ込んでるせいで、感覚が麻痺しているのだろうか。
「……駄目ですよ、ちゃんとお世話しなきゃ。餌やりやお散歩は中元さんがやるんですからね」
まるで子犬を拾ってきた時のような反応をしているあたり、実は腸が煮えくり返っているのかもしれないが、顔は笑っている。
まだ本気で怒っているわけではないようだ。
綾子ちゃんは完全にキレると瞳のハイライトが消失し、俺を犯そうとする。今はまだ、怒りゲージ三割といったところか。
まあ今晩あたり風呂場で体を弄ってやれば機嫌も直るだろ、と舐め腐ったことを考えていると、
「はあ? また女拾ってきたわけ?」
と、険のある声が聞こえた。リオの声だった。ソファーの上でふんぞり返り、アウローラを睨みつける姿は敵意に満ち溢れている。
ちょうどいい、最も気難しい三名が揃ってることだし、本題に入るとしよう。
「実はかくかくしかじかで――」
俺はさきほど山で起きた出来事を語った。
アンジェリカ達は未亡人という境遇には同情を見せたものの、母乳の美味さを熱弁し始めたあたりで黙り込み、これからは毎日俺が乳を吸い出してやるつもりだ、と宣言したら泣き出してしまった。
「お前らどうしちゃったんだよ!? この人はなあ、子供もいるってのに夫に先立たれちまったんだぞ!? 皆で助けてやらなきゃ駄目だろうが!?」
「それはわかるよ。でもさ、わざわざ中元さんがおっぱいを吸ってあげる必要はないよね」
リオはつーんとした顔で言った。
「母乳が溢れる体質なんだっけ? だったら哺乳瓶にでも搾っとけばいいじゃん。わざわざ男にしゃぶらせる意味って何?」
ヤンキー睨みをするリオに、アウローラはあらあらと答える。
「もちろん、気持ちいいからですわ」
戦争になった。
アンジェリカ、リオ、綾子ちゃんが一斉にアウローラに詰め寄り、キーキーと騒ぎ立てる。
このままではキャットファイトが勃発するのではないか、とハラハラしながら見守っていると、アウローラは右頬に手を当てて呟いた。
「あらあらまあまあ。ご心配なく、ちゃんと皆さんにも飲ませてあげるつもりですわ」
「はあ!? 何言ってんのこいつ!?」
「大丈夫、ママはわかってるんですよ。ナカモト様におっぱいを独り占めされるのが、嫌なんですよね?」
「全然違うし……ちょ、待ってなんで胸元はだけてんのこいつ!? あたしそんな趣味な――」
「そんなに焦らずとも、今飲ませて差し上げますわ」
「中元さん!? 黙って見てないでこいつ止めてよ!……ってわぷ!?」
そして、それは起こった。
ちょうどアウローラは俺に背中を向けていたので、バストトップを見ることはできなかったのだが――
――白い液体が孤を描いて飛び散り、リオの鼻先を濡らす瞬間は、しっかりと視認できた。
「あ」
「あ」
「あ」
続いて隣のアンジェリカ、そして綾子ちゃんの顔にもドピュドピュと白いシャワーがぶっかけられ、少女達の柔肌が、白濁液で染められていく。
「……」
「……」
「……」
三人の前髪から、ポタポタと白い雫が滴り落ちる。
……なんという強硬策……!
……恐るべき行動派……!
アウローラは、小うるさい娘達を黙らせるため――真正面から母乳を浴びせかけたのである――!
「な、何考えてるんですか!? おっぱいをかけるなんて!?」
「うう、口に入った……えっ、なにこれ超美味しい!?」
「……いけませんね。中元さんの本来の性癖は、人妻属性。これに母乳要素まで加わったら、本命彼女の座を奪われちゃいます……!」
三人のキチガ……ファザコン娘は顔を寄せ、ひそひそと話し合いを始める。
こいつらがこんなに連携している場面を見るのは、初めてかもしれない。
共通の敵が見つかると、普段は競争関係にある相手とも手を組むということか。
「とりあえず、アウローラさんと同じ土俵に立たなきゃ駄目だと思うんですよ」
「だね。あたしらも母乳が出るようにならなきゃ、勝負になんないし」
「……やっぱり速やかに中元さんを強姦して、妊娠する必要がありそうですね」
うんうん、と三人の少女達は頷き合っている。
言っとくけどその会話、こっちにも筒抜けなんだからな。
「もう手加減してらんないですよ! 一刻も早く受精しないと!」
「あんなの連れて来られたら、ねえ」
「……一時休戦して……しばらくは共同で中元さんを誘惑するしかないですね……」
果たして俺の生活は、どうなってしまうんだろうか……。
本日はコミカライズ第一巻の発売日です。レーベルは『電撃コミックスNEXT』様となります。