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穢れた聖女


 まさかフィリアが俺を裏切っていて、密かにこの男を呼び寄せた――なんてことはないと思うが。

 一応あいつには前科があるため、念のため探っておいた方がいいだろう。


「フィリアがどうかしたのか」

「……」


 不敵な笑みを浮かべるオドリックに、裏拳を叩き込む。

 瞬間、ビシャッ! と壁に赤い液体が飛び散る。

 

「今は血で済んでるが、次は歯や舌が飛び散るはめになるぜ」


 オドリックは唇の端から血を流しながらも、薄ら笑いを消そうとはしなかった。

 どうやら、痛みや苦痛には耐性があるらしい。

 ……厄介な相手だ。


「悪いな勇者。拷問の訓練は一通り受けてある」

「いつまでその強がりが続くかね」

「無論、永遠にだ」

「ほざきやがる」

「なんとでも言え。私はフィリア様を救い出すまで、屈するわけにはいかんのでな」

「……フィリアを救う?」


 オドリックは血走った目で叫ぶ。


「そうとも! あのお方は女神! 救済の聖女! それが異国の黄色猿に攫われたなど、あってはならぬことなのだ!」

「えっと、ちょっと待ってくれ。誰が女神だって?」

「フィリア様に決まっておられる!」

「……」


 あのオムツマニアのアラフィフ女が? 

 俺に後ろから抱きかかえられてしーしーすると好感度が1000上昇する、排尿に特殊な拘りを持つ年増女が?

 救済の……聖……女……?


「もしかしてお前、フィリアのこと好きなの?」


 オドリックは何も答えない。

 だがその目に宿る光からは、激しい憎悪と嫉妬が感じられた。

 

「なるほどなるほど。そういう動機でこっちに来たわけか。……言っとくけど無理やり誘拐したわけじゃないぞ? あいつも好きで俺ん家に居ついてるわけだし」

「黙れ! フィリア様は貴族の子女にして、王国随一の神官! それが貴様なんぞになびくものか!」


 この分だと、フィリアを絡ませた方が情報を引き出せるかもしれない。

 俺はポケットからスマホを引きずり出すと、オドリックの前にかざして見せた。


「お前こっちの世界に大分馴染んでるみたいだし、これがなんなのかわかるよな?」

「……」

「まさかわかんねえのか? スマートフォン。離れた相手と通信できる道具だ」

「……」

「今からこいつを使って、フィリアと連絡を取る」

「なっ……!」


 わかりやすく動揺するオドリックを尻目に、片手で画面を操作し、アドレス帳を立ち上げる。

 目的の番号を見つけ出すと、親指でコールボタンをタップ。

 しばらくすると、慌ただしい様子でフィリアが声を発した。


『な、なんですか勇者殿? 私まだすまーとふぉんはよくわからないので怖いのですが!? これ勝手に爆発したりしないですよね!?』

「おばあちゃんかよ……ほんと電子機器に弱いよな。せっかく持たせたんだから使い方練習しとけよ」

『失礼な。毎日練習してるのに頭に入らないだけで、学ぶ意欲はあります』

「……そっか。もう若くないもんなお前」


 キーキーと怒り出すフィリアの声に、オドリックが目を開く。


「フィ、フィリア様のお声だ……」


 俺はオドリックに聞こえやすいよう、スマホごと顔を近付ける。


「なあ、今お前を助けに来たとか言ってる騎士を捕まえたんだけど、心当たりある?」

『名前を仰って頂ければ思い出すかもしれません』

「オドリック」

『……誰ですか?』


 お、お忘れですかフィリア様……! とオドリックがむせび泣く。


「謁見の間で! 貴方に微笑みを頂いたオドリックでございます! アヒムの息子の!」

『………………ああ! あのいつも隅っこから私を観てた騎士さんですね。貴方もこちらに来ていたのですか?』

「おお……フィリア様とこうして言葉を交わせるなど、夢のようだ……!」


 俺はオドリックを横目で睨みながら質問する。


「この王宮騎士さんときたら、俺がお前を誘拐したと思ってるんだぜ。なんとか言ってくれよ」

『それはまた、難儀な……』

 

 画面の向こうで、フィリアが戸惑ったように息を呑む気配を感じた。


『オドリックと仰いましたか? 申し訳ありませんが、私は自分の意思で勇者殿と同棲しているのです。私は哀れな人質などではなく、勇者殿の側室なのです』

「嘘だ!」


 オドリックは狂ったように喚きたてる。

 この男にはこういう方向の拷問が効きやすいようだ。

 俺はスマートフォンを口元に近付け、囁くような声で告げる。


「こいつ、お前のこと好きなんだってよ。それでわざわざ追いかけて来たってわけだ」

『……そ、そうなんですか?』

「こういうの困るよな? お前は俺の女なんだからさ」

『ちょっと! いくらケイ君でも人前でそういうのは』

「は? お前は俺の女だよな?」

『……はい』


 フィリアが照れ臭そうに肯定するのと、オドリックが便器に額を打ち付けるのは殆ど同時に行われた。


「フィリアはさ、俺のどういうとこが好きなの?」

『え、な、なんですか急に』

「聞かせてくれよ。物わかりの悪い騎士様に現実を見せてやろうぜ? 俺はフィリアの髪と乳が好きだな。あとはたまに見せる乙女なところ」

『は、恥ずかしいんですけど……』

「俺も言ったんだからお前も言えって」

『……あ、あの……たくましい体と……黒髪黒目なところが好きです。なんだかミステリアスな雰囲気があるんです。あ、あと、彫りの浅い顔も歳より若く見えるので気に入ってます。そ、それから匂いも好きで……普段は繊細そうなのに、たまに見せるオラオラした男っぽさもツボで……だから今ちょうど、勇者殿の鬼畜な態度が凄くキュンキュンきてて……な、なんだか興奮してしまうのですが』

「なんだ喜んでんのかよお前」


 殺せえええええええええ!

 殺してくれえええええええええ!

 とオドリックが絶叫する。


「そういえばさ、金髪碧眼の男ってどう思う?」

『え? 生理的に受け付けませんけど。私の地元ならそこら中に転がってる風貌ですし、全然面白みがないっていうか』


 金髪碧眼のオドリックは、もはや息も絶え絶えといった様子である。


「どうするよ騎士様。お前が情報を吐かないなら、この地獄はずっと続くぜ?」

「……殺せ……」


 まだ口を割る気にはならないらしい。

 しょうがない、最終手段といくか。


「あのさフィリア」

『は、はい、なんでしょう』

「お前の声聞いたらムラムラしてきたから、一人えっちしてくんない?」

『――――――は?』

「可愛い声聞かせてくれよ」

『えっと、勇者殿?』

「俺のことを考えながら、俺のどこが好きなのかを口にしながら、オドリックにも聞こえるように」

『……』

「わかるだろ? 俺は今イラついてんだよ。お前に他の男が言い寄ろうとしてるのが許せねえ。お前が誰のものなのか思い知らせてやりたいんだ」


 この頼み方なら喜ぶかと思ったのだが、フィリアの反応はというと――


『ご、ごめんなさい勇者殿。さすがにそれは……』

「んだよ、できねえのかよ」


 まあ仕方ないよな、と引き下がろうとした矢先、フィリアは無造作に爆弾を放り投げてきた。


『いえ、その……実はついさっき、シたばっかりで……続けて二回目をするのはちょっと……』

「へ?」

『申し訳ありません! 勇者殿の枕を抱いてたら……我慢できなくなって……』


 オドリックが白目を剥くのが見えた。


「ふーん。つまりお前は、俺の枕を使って一人遊びしたばっかなんだな?」

『……怒りました?』

「どんな風に遊んだのか教えてもらおうか」

『べ、別に普通ですよ?』

「だからその普通ってどんな感じなんだよ」

『……えっと、擦ったり、とか』

「擦る? どこを?」

『……敏感な所は、一通り全部……』


 フィリアの声は熱を帯び始めている。

 己の痴態を報告しているうちに、興奮してきたらしい。

 聖女の風上にも置けない痴女だ。


「擦っただけ? 他には?」

『……嗅いだり、キスしたりしました』

「俺の名前を呼びながら?」

『は、はい。なんでわかったんですか?』

「気持ちよかったか?」

『……凄く』


 オドリックはもはや、微動だにしなかった。

 もしかしたら精神崩壊してしまったのかもしれない。

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オーバーラップ文庫様より、第三巻発売中!
今回もたっぷりと加筆修正を行い、書下ろし短編は二本収録! そしてフィリアのあのシーンにも挿絵が……!?
↓の表紙画像をクリックでサイトに飛びます。
i358673
― 新着の感想 ―
[一言] こいつはハードですわ 効き目半端ない
[一言] これが現代式拷問方か……
[良い点] これはひどい…… [気になる点] 誤字報告 俺ことを考えながら、 → 俺のことを考えながら、 [一言] 更新お疲れ様です。
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