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*父の日記念番外編:リオの贈り物


 斎藤理緒はある悩みを抱えていた。


 それは自力でどうにかできるものではないし、理緒自身にはなんの責任もない。

 にもかかわらず、人生の様々な場面でハンディキャップとしてのしかかってくるのだからたまらない。


(……あたしだって悔しいよ)


 カレンダーを眺めながら、ため息を一つ。


 今日は六月の第三日曜日――父の日である。


 世間の子供達は大好きなパパにプレゼントを渡し、幸せな時間を過ごしていることだろう。

 理緒だってできるならそうしたい。男親とイチャイチャしてみたい。


 ……なのに、自分には父親がいない。


 そう。

 彼女が抱えている悩みとは、


『ファザコンなのに母子家庭』


 なことである。


 理緒は現在、母親と兄と三人暮らしをしている。

 実父がどこに行ったのかは誰にもわからない。理緒がまだ小さかった頃に家を出て行き、消息不明となってしまったのだ。

 実父はホスト崩れのチンピラで、暴力団と交流があったと聞いている。

 今頃はどこかの組で世話になっているのかもしれない。あるいは刑務所の中かもしれない。


 なお、そんな男と夫婦をやっていただけあって、理緒の母親は典型的なヤンママである。名前を美咲(みさき)というのだが、恐ろしいことにまだ三十三歳だった。

 計算すると十七歳で理緒を産んだことになるし、兄の獅子王(キングレオ)に至っては十六歳で産んでいる。

 

 こんな肥溜めじみた家庭環境で育ってきたせいか、いつしか理緒は「まともな家庭」に対して強い憧れを抱くようになっていた。

 

 家にちゃんとした父親がいるって、どんな感じなんだろう。

 経済的にも精神的にも支えになってくれるような、強くて優しいパパがいたらどんなに安心するだろう。

 

 入学式や卒業式に、両親が揃って出席するクラスメイトが羨ましかった。

 父親に我侭を聞いてほしかった。支えになってほしかった。

 やり場のない反抗期のエネルギーを受け止めてほしかった。

 ウザいんだよ糞親父! とスマホをブン投げ、平手打ちを食らいたかった。そして大雨の中を飛び出したところを、全力で追いかけてほしかった。追いついたところで「二人ともズブ濡れだから休もう」とラブホに連れ込まれ、乱暴に押し倒されたかった。「駄目、あたし達親子なんだよ……?」と抵抗して見せるもパパの力の前には無力で、純潔を散らされたあたしは自分が女であることを実感し、母さんにこの人を渡したくない、と濡れた瞳で見上げ……。


「あーいい……」


 お気に入りの妄想を繰り広げていると、少し元気が出てきた。

 理緒は布団から這い出ると、のろのろとパジャマを脱ぎ捨てた。

 

 もうお昼前だ。

 いくら父の日だからって、いつまでもウジウジしているわけにはいかない。


 父親がいないなら、年上の彼氏を作ればいいだけの話なんだし。その人からたっぷりと父性を補充すればいいだけだし。


 スカートのファスナーを閉めながら、理緒は一人の男性を思い浮かべる。


 ――中元圭介。

 三十二歳の鬼畜で、出会ったその日のうちに兄を暴行した外道おじさんだ。

 翌日にはヤクザの事務所に殴り込みをかけ、兄を救出してくれたので悪い人ではない。……と思ったけど、ちょくちょく現役JKの自分と猥褻行為に及ぶので、やはり本物の畜生なのだろう。

 しかも最近は逮捕歴まで加わったので、子供部屋おじさんなんかよりよっぽど酷い、豚箱おじさんになり下がったらしい。


 まさに理緒好みの、ワルな男と言える。

 女の子は自分の父親に似た男を好きになるとはよく言ったもので、理緒は反社会的な男性に惹かれる傾向があった。


 そして嬉しいことに、最近の理緒は中元といい感じである。何を考えているか知らないが、婚約までしてくれたのだから。


(せっかくだし、中元さんに父の日の贈り物をあげよっかな……)


 とはいえ中元はどちらかというと彼氏に近い存在なので、父親扱いはちょっと違うのかもしれないが。

 ……中元さんがあたしのパパだったら、幸せな父娘姦ができたのに……。


「――!」


 と、その時。

 理緒の中で電流が走った。

 それは悪魔の閃きであった。


 自分が求めていたものを全て手に入れるには、どうすればいいだろう?

 もちろん、答えは決まっている。


「母さん!」


 階段を駆け下りた理緒は、居間で昼寝していた母親――美咲を叩き起こす。

 

「……何? リオ? 眠いんだけど……」


 美咲は現在、六歳ほどサバを読んでキャバクラ店に勤務している。

 そのため昼夜逆転の生活をしており、明るいうちに起こされると使い物にならなくなってしまうのだ。


「母さん母さん、これ」


 だがそんなん知るかとばかりに、理緒は先日買ったばかりの化粧品を美咲に手渡す。


「……なんなのよ一体?」

「使って。父の日のプレゼントだから」

「はあ? 私のどこが父親に見えるわけ……? あ、もしかして一人でお母さんとお父さん両方こなしてるからってこと? やだー泣けてきちゃう!」


 一人で納得すると、美咲は年齢を感じさせないテンションではしゃぎ始めた。

 元々実際の年齢より若く見えるタイプだが、こういう顔をすると十歳は若く見える。

 股が緩いのは頂けないが、同級生の母親より若くて綺麗なことだけは昔から自慢だった。

 理緒とはまた系統の違った美人で、二人が並んで歩くと姉妹にしか見えない。


 だからこそ、父の日のプレゼントに相応しいのだ。


「ほら急いでよ。さっさとそれ使っておめかしして?」

「どっか連れてってくれるの? レストラン? 遊園地?」

「芸能人に会わせてあげる」

「まじ!?」


 ミーハーな美咲は大喜びでメイクを済ませ、勝負下着まで身に着けた。清々しいほどの肉食っぷりである。


(そうでなくっちゃね)


 理緒も負けじと身支度を済ませると、美咲と共に家を飛び出した。

 向かう先は中元のマンションである。


「あ、やっと中元さんに会わせてくれるの? だよねーそろそろ挨拶しなきゃだよねー。うちの娘をよろしくってさー」

「今日よろしくやるのは母さんの方かなぁ」

「どういう意味?」


 親子水入らずでお喋りに興じているうちに、あれよあれよという間に中元のマンションに到着。

 インターホンを鳴らすと、十秒と経たずに目的の人は現れた。


「リオか。何の用だ?」


 中元は玄関を開けるなり、怪訝そうな顔でたずねてきた。視線が左右に動き回っているので、理緒と美咲の顔を見比べているのがわかる。


「えっと……隣のお姉さんは誰?」

「あたしの母さん」

「母親!? めちゃくちゃ若えなおい!? いや話には聞いてたけどよ、実物を見ると驚くわこれ……」


 中元にお姉さん呼ばわりされたせいか、美咲は嬉しそうに身をよじらせていた。

 この人は息をするように女をたらし込むから凄い、と理緒は感心する。


「どうもー。うちのリオがいつも世話になっておりますー」

「あ、いえいえこちらこそ」

「そういや今日はどういったご用件で?」

「えー? リオから連絡入ってるんじゃないんですか?」


 大人二人が和やかに挨拶を始めたところで、理緒はさっそく計画の実行に移った。

 

「続きはベッドでやりなよ」


 えい、と美咲の背中を蹴り飛ばし、中元の上に蔽いかぶさる形で転倒させる。

 間髪入れずに玄関内に侵入し、後ろ手で扉をロック。

 これで邪魔は入らない。

 

「リオ!? どういうつもりだ!?……ってお母さん、変なとこ触るのやめてくれませんかね!?」

「芸能人の腹筋! 芸能人の腹筋!」


 母さんも喜んでくれてるようでなによりだよ、と理緒は満足げに頷く。


「それ、プレゼントだから。よーく味わって食べてね」

「何がどうなってるのか説明しろ!」

「今日って父の日でしょ? でもあたしには父親がいないからさ。このままじゃ贈り物をあげたくても相手がいないんだよね」

「それがどうして俺に実母を叩きつけることに繋がる!?」

「簡単なことだよ」


 理緒は両手を広げ、満面の笑みで告げる。


「――父親がいないなら、自分で作ればいいだけじゃん? 中元さんが母さんと結婚すれば、あたしの父親になるでしょ?」

「何言ってんだお前……?」

「だからそれ、あげる」


 それ、と言いながら指さしているのものは、もちろん母の美咲である。


「あ……あげる?」

「そ。父の日のプレゼントとして、母さんをあげる。ほらほら、鮮度が落ちないうちにさっさと抱いちゃいないよ」

「ふざけるな! お前俺のことが好きなんだろ!? 惚れた男に母親をあてがうって正気か!?」

「あたしだって苦しいよ! 中元さんを肉親に寝取られる辛さで目がチカチカする! でもこの辛さが逆に気持ちいいっていうか……なんか新しい世界が見えてきたような……」


 ぶるる、と身震いをする理緒を、中元は怪物でも見るような顔で眺めていた。


「でさ、戸籍上の父親になった中元さんとえっちすれば、パパと結ばれるっていうあたしの悲願が達成されるわけじゃん? 母さんはやっと真っ当な旦那を見つけることになるし、斎藤家は全員ハッピーエンドだよ」

「つまりお前は、俺に母娘丼をやれと言うのか……!? 三十三歳の若作りで派手めなママと、十六歳のJK娘を両方味わえと、そう言うんだな……!?」

「それも悪くねえな、って思ってるでしょ今」

「……」


 中元は気不味そうに目を逸らした。どうやら図星らしかった。中々認めたがらないが、本質的に女好きな男なのである。

 頑張って理性で耐えているようだが、それもいつまで持つことやら。


「母さんってばすっかり中元さんの筋肉にやられちゃったぽいし、ノリノリじゃん? 女好きな中元さんと男好きな母さん。二人の相性って悪くないと思うけど」

「ゲーノー人の筋肉ぅ……」


 美咲はとろんとした目で中元の腹部に顔を埋めている。

 

「じゃ、そろそろあたしもヘルプに入ろっかなっ」

「リオ!? おい待て脱ぐな! リオ!」


 理緒は下着姿になると、迷うことなく中元の上に跨った。迷うような倫理観は元々持ち合わせていなかった。それは美咲の方も同じらしく、怒り狂ったアンジェリカに引きはがされるまでの間、たっぷりと母娘の連携を見せつけたのであった。

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