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援交三銃士を連れて来たよ


 俺はまず、最寄りの警察署に連れていかれることとなった。

 署内の留置場に身柄を置かれ、形式だけの取り調べを受けたあと、東京拘置所に送検されるそうだ。


 ……留置場って要するに、地元の犯罪者が集まる掃き溜めみたいな場所だよな。


 しかも男しかいないのが確定してるわけで。

 ついさっきまで少女達の柔肌を堪能してた身からすれば、酷い落差である。

 まあ少女の柔肌を堪能してるような成人男子は、逮捕されて然るべきなんだろうけど。


 別に偽装逮捕じゃなくても、捕まって当然の生活してるからな俺。


 少女達との添い寝で懲役二年、脱ぎたて下着で体を拭かれた件で懲役三年、舌で体を洗われた件で無期懲役が確定って感じだ。

 今俺の体を詳しく調べられたら、全身から少女の唾液が検出されることにより死刑判決もありうる。


 いや、違うんですよおまわりさん。俺と同居してる女の子達は、垢すりタオルと自分の舌を混同しちゃってるだけなんです。そういう心の病気なんです、性的な要素は一切含んでないんです……。


 心の中で有罪判決まったなしな供述を繰り広げているうちにパトカーは走り続け、気が付けば停車していた。

 前方に見えるは、傲然とそびえ立つ警察署。

 どうやら目的地に到着したようだ。

 あくまで逮捕された芝居を打つだけだってのに、この建物を見てると無性に後ろめたい気分になってくるから不思議である。

 おまわりさんのたむろする場所って、それだけで妙に威圧感あるよな。


「降りて下さい」


 降車を促されたため、「うっす」と返事をしてパトカーを降りる。もちろん手には手錠がかけられたままだし、腰には縄がかかっている。

 これで背中を丸めてフードを被ると、どこに出しても恥ずかしい立派な容疑者ルックの完成だ。

 自分でいうのもなんだが、俺ってこういう格好が似合う気がする。


「それじゃ、俺が出てくるまで猫の世話お願いします」

「は?」

「ペットは中に連れていけないでしょうし」

 

 にこやかに頼み込んでみるが、女性警官達は能面のような表情を保ったままだった。

 やっぱ上司の救出ミッションをやってる最中なだけあって真剣なんだろうなあと思ったが、よく考えたら俺は未成年と淫らな行為に及んだ物証を持ち歩いていた男なので、普通に気持ち悪がっているだけかもしれない。

 というか確実にそれだ。

 ちょっと落ち込んできたぞ俺。


 がっくりとうなだれていると、女性警官達もパトカーを降り、俺の左右をがっりちりと挟み込んだ。

 この状態で署内へ向かうのだろう。

 エリンはしばらくの間お留守番だ。

 ちゃんと餌やってくれんのか? このねーちゃん達。


 多大な不安を感じながらも足を動かし、正面玄関を通る。

 なにやらわけのかわらない事務手続きを済ませると、署内をうろうろと歩き回って留置場のあるエリアへと連れていかれた。


「あれってマジシャン中元だよな」

「何やったんだあいつ……」


 ひそひそと職員達が噂しているのが聞こえるのが、努めて無視の構えである。


「ここから先は男性職員にお任せすることになっておりますので」


 どういうこった? と首を傾げていると、すぐに納得させられるようなイベントが始まった。

 ああなるほど、身体検査ね……。

 尻の穴まで調べられるってマジなんだろうか、マジっぽいぞ、畜生、あとでたっぷり謝礼は払ってもらうからな杉谷さん!



 文字通り隅々まで体を調べられたあと、俺は八畳ほどの部屋に放り込まれることとなった。当然、鉄格子付きだ。

 元々長居するための場所としては作られていないようなので、寝心地に関しては期待しない方がいいそうだ。

 先客もいるみたいだしな。


 ……先客。要はマジもんの犯罪者どもだ。

 そいつらと一緒に何時間も閉じ込められるって、最悪の環境じゃねーか。

 ため息を付きながら腰を下ろすと、聞きなれた声で話しかけられた。


「あれ? 中元旦那じゃねえか。あんた何やったんだよ一体」


 部屋の左隅であぐらをかく、目つきの悪い男。

 権藤だ。


「なんでここにいるんだよお前……いや、ヤクザが留置場にいるのは至って普通のことか」

「そりゃそうだ。俺は犯罪が仕事なんだからな」

「で、何やったんだ?」

「SNSで知り合った女子高生に買春を持ちかけたらよぉ、通報されちまったんだなこれが」

「いつものお前だな」


 これじゃ格好つかねーから司法取引しようと思ってんだわ、と権藤は天井を睨む。


「日本でできるのか? そんなこと」

「わかんねぇ。でもやってみる価値はありますぜ。いくつかの情報を警察に流す見返りに、罪状を殺人未遂にしてもらうんだ」

「……それ逆に罪重くなってねえ?」

「おうよ。ヤクザが援交に失敗して逮捕なんて格好つかねーからな。こんなん絶対ブタ箱で虐められるから、どうにかして暴力事件の犯人にならねえと」


 面子のためにより重い罪にしてもらえないか交渉する輩なんて、初めて聞いたぞ……。

 呆れながらため息をつくと、今度は部屋の右隅から「中元さん?」と声が聞こえた。

 

「中元さん……中元さんじゃないですか!」


 黒澤プロデューサーだった。

 

「奇遇ですなぁ、こんなところで会うなんて」

「……何やったんですか一体」

「いやはや、恥ずかしながらタレントの女の子に枕営業を持ちかけたら、通報されちゃいまして。相手が未成年だったものですから、大ごとになりましてな」


 どうしようもねえ……本当にどうしようもねえぞこいつら……。

 すっかり呆れ返っていると、今度は権藤の方が俺に質問をしてきた。


「で、そういう旦那は何やったんだ?」

「俺?」


 未成年の少女に子宮〇叩き券などを作らせた罪で現行犯逮捕――などと言えるはずもなく、


「喧嘩だよ喧嘩。相手をうっかり殺しかけちまってな……」

「なるほどなぁ。まあ男ならそういうこともあるわな」


 中元さんガタイいいですからねえ、と黒澤プロデューサーが頷く。

 それにしても、俺の知人って男は犯罪者ばっかなのな……キングレオも喧嘩やカツアゲの常習犯だし……。

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