勇者パーティーの実態
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意外とあのキャラが人気なんだなあ……みたいな情報が入ったことにより、あの人の出番を増やそうかなとか思ってます(誰なのかは多分読んでるとわかります)
あとツイッターの方で、作品の略称を募集中だったりします。
公式な略称がまだ決まってないのです……長いタイトルなのに……。
そういうわけで、下記のハッシュタグを入れてツイートして下さると、作者が喜びます。
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#異世界帰りのおっさんは父性スキルでファザコン娘達をトロトロに略称
* * *
ダンジョンの最奥で待っていたのは、黄金の神殿だった。
ここがゴール。ようやく今回の冒険は終わる。
俺は神殿の中へ進み、宝箱を開けた。
「ギョオオオオオオオオオオオオ!」
すると突然、天井からリザードマンの群れが飛び降りてきた。
――罠!
俺と先生は前に出て、後衛二人はすぐさま後方支援の態勢に入った。
戦況は拮抗した。
一匹一匹の質はそうでもないが、数が多すぎる。
「……くっ」
やがて一際大柄なリザードマンが、円を描く軌道で矛を振った。
横方向の一線。
駄目だ、避けきれない。
当たる!
次の瞬間、体内を冷たい刃物が通る、嫌な感触があった。
「……あ?」
気が付くと、俺の身長は半分になっていた。
なぜ? 俺に何が起きた?
恐る恐る、己の足元を見る。
……ない。
「足元」なんてものは存在しない。
だって俺の体は、下半身が喪失していたのだから。
今の俺は胴体が直接地面に触れているのだから、足元ではなく腰元と表現するべきだ。
「……嘘だろ」
恐怖に駆られながら、首だけで振り返る。
俺のヘソから下が、呆然と立ち尽くしているのが見えた。
鮮血を噴き上げる、俺の半分。
てらてらと輝く腸は、今もまだ蠢いている。
「勇者殿!? ああああああああああ! 回復魔法! 回復魔法回復魔法回復魔法回復魔法!」
フィリアが金切り声を上げながら、狂ったように回復魔法を繰り返す。
事前に自分でかけていた自動回復魔法も合わさり、見る見る俺の下半身は再生されていく。
「助かる!」
俺はすぐさま態勢を立て直し、リザードマンに斬りかかる。
……人型の敵は相変わらずやり辛いが、自分を真っ二つにした相手となれば別だ。
頭の中は真っ赤に燃え上がり、怒りで染め上げられている。
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
四肢に魔力を込め、咆哮を上げて突撃を敢行する。
気迫に圧されてか、蜥蜴戦士達は一瞬だけひるむような動きを見せた。
――好機!
俺は生え揃ったばかりの両脚で、思い切り飛び上がった。
そんな俺を追尾するかのように、パシュパシュと音を立てて強化魔法が飛んでくる。
「ギョオオオォォォォォ!」
幾重にも強化された俺の剣は、一刀両断にリザードマンを切り伏せた。
続け様に横方向に撫で斬りをし、敵の前衛を崩す。
盾を持った集団が、次々と転倒するのを確認。
「よし!」
俺が右手を上げると、エリンが火炎弾を敵陣の中心に打ち込んだ。
こうなればもう、あちらは総崩れだ。
「覚悟しろよ蜥蜴野郎。尻尾切って逃げるなら今のうちだぜ」
「最初はどうなるかと思ったが、何とかなったな」
ふう、と安堵の息を吐きながら、剣を鞘に納める。
胴体を両断されるのは半年ぶりだが、慣れるものではない。
「ありがとうフィリア。お前の回復のおかげで助かった。……フィリア?」
で。
今回の戦闘で多大な貢献を見せてくれたうちのヒーラーさんに、お礼を言おうと思ったのだが……。
どういうわけかその女神官さんは、両手で顔を覆っているのだ。
よく見ると指の間に隙間があるけど、一体何を見まいとしてるんだ……?
というより本当は見たくて見たくてたまらないけど、頑張って自分を律してるみたいな感じなのか?
「……フィリア?」
どうしたんだよ、と一歩近付く。
よく見ると、エリンや先生も同じように両手で目元を覆っていた。
「いや、どうしたんだよお前ら」
自分の身なりをご確認下さい、とフィリアは上ずった声で言う。
「身なり?」
そこでようやく気付く。
……敵に下半身をぶった斬られて。
それを魔法で再生させて。でも再生されるのは生身の部分だけなわけで。
つまり、妙にヘソから下がスースーする理由は……。
「目の毒ですから、さっさとあっちで棒立ちしてる下半身から服をはぎ取ってきて下さい!」
「……勇者の聖剣を……見てしまった……」
「わ、私はそのままでも構わんぞ。勇者君がどうしてもその格好を気に入ったというなら、受け入れようではないか」
上からフィリア、エリン、リリ先生。
三者三様の反応をどうもありがとうと胸の内で呟きながら、俺は大慌てで衣服の回収に向かった。
「うげー、まだ腸が動いてるよ」
勇者の半身だけあってしぶといなあと呆れつつ、ズボンを脱がせる。
血まみれだけど、この際贅沢は言えない。
……リザードマンが服を着てたらいい感じのを奪い取れたのだろうが、あいつらは裸の上から鎧を着込んだ蛮族なのである。
「酷いなこりゃ。パンツの中まで血でグチャグチャだよ」
勇者君もそれで少しは女心が理解できるようになるんじゃないか、と先生はギリギリな冗談を飛ばした。
フィリアはというと、「このっ! このっ! よくも私の勇者殿を切り刻んでくれましたね!」とリザードマンの死体を杖でバキバキ殴っている。性欲と暴力衝動に満ち溢れた振る舞いで、とても聖職者には見えない。
「……あれでよく神官が務まるよな、マジで」
呆れながら座り込むと、パチパチと何かが焼けるような音が聞こえてきた。
エリンがリザードマンを丸焼きにしている音だった。
小柄な魔法少女は、慣れた手つきで蜥蜴人間に塩を振っている。
「……晩御飯……」
食べる? と少女の青い目が問うている。
……そりゃあさ。
お前は人間族じゃないから、ちょっとばかし倫理観が俺らと違うのはわかるけどさ。
もうちょっと亜人を食うのに抵抗見せろよな、と言いたくなる。
顔が蜥蜴で尻尾も生えてるけど、全体的なシルエットは人型じゃん?
そこんとこ平気なのかよ? と聞こうとしたが――
「あはははははははは! 死んで食われて、いいざまですね! あはははははははは!」
……聞こうとしたのだが……。
俺と同じ人間族なはずのフィリアが、高笑いしながらリザードマンの丸焼きにかぶりつくのが見えたので、なんかもう全部どうでもよくなってきた。
「俺も腹減ったし、頂くとするか」
そうして俺達は、少し早めの夕食を摂ることとなった。
この世界にいると、正義ってなんだろうみたいな哲学的な思いに囚われることが多々ある。
俺の感覚だと人型で知能のあるモンスターをガブガブやるのは悪寄りの行為なのだが、こっちの世界の冒険者は大喜びでそれを行う。
敵は殺してもなお憎い、という感じなんだろうか。
まあ王族や戦士はともかく、普通の村人やエルザはそういうことやらないんだけど。
なんとなくだが、適性のある人だけが戦場に立ってるから、どんどん残酷な方向に向かうのかもしれない。
先鋭化してるというか。
地球だと、徴兵みたいな形で気質が戦い向きじゃない人も前線に出てくるから、逆に戦い方にある程度ブレーキがかかるのかもな……いや地球人も地球人で結構過激なことしてたか?
などと物思いにふけってると、じりじりと俺ににじりよってくる女がいた。
フィリアだった。
何を考えているのか、綺麗なお姉さんスマイルを浮かべながら、四つん這いになって近付いてくる。
フィリアが今着ているのは、薄手の法衣だ。
ブラジャーなんてしゃれたものを着けちゃいないので、大きな乳房がぶらりと下を向いているのが服の上からでもわかる。
それはとても艶めかしいと思う。
でもリザードマンの返り血だらけだと、途端にホラーな印象になるのはなぜだろう。
なまじ美人なだけに、得体の知れない迫力がある。
「……あのー、フィリアさん? 何をするつもりで?」
「私が食べさせてあげようというのですよ、このお肉を」
フィリアの手には、リザードマンの肉片らしき物体が刺さったナイフが握られている。
「……亜人の死体で、あーんするってこと?」
「嬉しいでしょう」
こえーよ。
さすが三十歳を過ぎてなお処女なだけあって、男心を理解してらっしゃらない。
いやこれは男心でいいのか、そもそもこいつは人の心がわからないのではないか。
俺が硬直していると、フィリアは「そうでしょうそうでしょう、言葉も出ないほど嬉しいでしょう」と微笑んだ。
「はい、あーん」
フィリアはハイハイのような動作で俺と距離を詰めると、ぽとりと口の中に肉片を落としてきた。
「……美味いっちゃ美味い」
リザードマンの肉は、鶏肉に近い味がする。
というかドラゴンっぽい生き物は大体皆そうかもしれない。
「でしょう? でしょう? さあさあ、今日は全部私が食べさせてあげます」
フィリアは危うげな笑みを浮かべながら、次々に俺の口内に肉を放り込む。
……よく見ると瞳からハイライトが消えている。
この女、俺がエルザと交際を始めてからというもの、ずっとこの調子なのだ。
「ね? ね? エルザ殿より私の方がいいでしょう? 私の方がいい彼女になりそうでしょう? エルザ殿はこんなことしてくれますか? しませんよね? でも私はしてあげるんですよ? 女性の手で食べさせてもらう食事は格別でしょう? なんなら口移ししてあげましょうか? おやおや、口元に汚れがついてらっしゃる。布で拭きますか? それとも舐め取った方がいいですか? ねえ勇者殿? ねえ? どうして怯えてるの。勇者殿。私を見て。見て下さい。勇者殿……勇者殿勇者殿勇者殿勇者殿……好きぃ……好きなのぉ……こっち向いてよぉ……。勇者殿ぉ……エルザ殿と別れてよぉ……っ! うううっ!」
俺が返事をする前に、舐め取って綺麗にする方を選んでるし。
こいつはもう駄目だろ。
神官としても人間としてもアウトだろ。
遠い目で金色の壁を眺めていると、先生がぼそりと言った。
「ところで勇者君。あそこで放り出されてる君の下半身だが、まだ息があるようだ」
「あの、パーティーメンバーにベロベロ顎を舐め回される少年を見て、言うことがそれっスか」
「私の見立てだと、むしろ舐めさせない方が危険だからな。しばらくフィリアの好きにさせるといい。……あの下半身、私がもらってもいいだろうか?」
なんに使うんですか、と死んだ声で俺はたずねる。
「なに。意外かもしれないが、私の実家は錬金術をやっていてな。召喚勇者の半身ならば、いい研究材料になりそうだ」
俺は泣きじゃくるフィリアをなだめながら、「別にいいんじゃないですかね」と答えた。




