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異世界帰りのおっさんは、父性スキルでファザコン娘達をトロトロに  作者: タカハシ ヒロ
第六章 JCJK日替わりバイキング

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脅威はすぐそこに


「ただいまー」


 結局、俺とリオは一線を越えたりなどせず、大人しくマンションに帰っていた。

 刃物を持った男に襲われたあとに、そんなことをする気分にはなれなかったのだ。

 リオの方は「全然問題ない」と強硬に主張したが、俺の方が乗り気になれなかった。


 正気に返った、と言っていい。


 リオはスマホゲーのSSRアイドルなんかじゃない。生身の少女だ。性行為はまだ早すぎる。


 二次元と三次元の区別がつかなくなるなんて、いくらなんでも危うすぎだぞ俺――と思ったが、ポリゴンモデルのアイドルってのは、三次元と言ってもいいではないだろうか? 

 しかも最近のアイドル系ゲームは演じている声優さんも綺麗で、髪型や服装を似せてライブなんかもやってるそうだし、そのおかげで2・5次元などと呼ばれてて……。


 んん?

 じゃあアイドル系の二次元コンテンツに限れば、三次元の人間と混同しても不自然ではないのか?

 クール属性のSSRアイドル、加賀谷里保は実質三次元の女の子なのでは?


「俺は何も間違ってなかった。リオと里保を混同してえっちしたくなったのも、自然な現象だったんだ」


 多分あらゆる意味で間違っているのだろうが、そんな正論は全て無視した上で靴を脱ぐ。

 隣では、リオがローファーから足を引き抜いていた。


「……おかえりなさい」


 廊下を進むと、キッチンで野菜を刻んでいる綾子ちゃんとすれ違った。夕食前の、心休まる日常風景。

 俺は後ろ髪を結って剥き出しになった綾子ちゃんのうなじをガン見しながら、リビングへと向かう。


「おかえりなさーい」


 アンジェリカはソファーに寝そべりながら、気怠そうに俺を出迎える。

 おいおい、もう駆け寄って抱きついてくるような、情熱的な「おかえりなさい」はやってくれないのか?

 倦怠期ってやつなのかなあ……と一抹の寂しさを覚える。


 が、よく見るとアンジェリカは額に汗をかき、苦しそうにしているではないか。

 もしや具合が悪いんだろうか?


「どうした。大丈夫か?」

「……ずっと感知してたんです」


 お父さんがスマホで報らせてきたじゃないですか、とアンジェリカは言う。


「もしかしたらこのあたりに潜んでるかもしれないですし、念には念をと思いまして」

「そうか……アンジェなりに頑張ってたんだな」


 それで妙に疲労しているわけだ。

 なら俺に抱きついてくる元気もないか、と安堵しながら頭を撫でてやる。


「ありがとな」

「ふにゃー……」


 アンジェリカは気持ち良さそうに目を細め、脱力した声を出す。

 この金髪っ娘は、俺の指で髪をくしゃくしゃされるのが大好きなのだ。

 猫みたいだよな、と思う。


「それで、どうだったんだ? マンション周辺に危ないのはいたのか?」

「……」

「アンジェ?」


 まさか、ビンゴなんだろうか。

 近所にエミリーないしレベッカと思わしき赤い点を見つけて、元気がなかったりするのか?

 アンジェリカは何も答えず、じっと部屋の隅を見つめている。


「……確かにマンション内に赤黒い点はあったのですが、それは今まさに台所で夕飯の支度をしてる人です」

「ああ綾子ちゃんな。それならいつものことだ。他にはいないのか?」

「……いました」

「何?」

「いたっていうか、正確には「あった」ですかね。なんとこのお家の中に……あったんです」

「なんだと?」


 我を忘れそうになる。

 俺達が入居している部屋に、脅威が侵入していた?


「もう私、どう処理すればいいのかわからなくて……メールでお父さんに相談しようかとも思ったんですけど、また乳児語でお返事が来たら、読んでるうちにムラムラして目的を忘れちゃいますし。そういうわけで、お父さんが帰ってきてから口頭で伝えることにしたんです」

「賢明な判断だ」


 アンジェリアは音もなく立ち上がり、俺に手招きをする。


「ついてきて下さい。……こっちです」


 言われるがまま、俺はアンジェリカの後を追いかける。

 チューブトップにホットパンツという、ほとんど下着じみた後ろ姿を見ているはずなのに、今はなんとも思わない。


「ここって……お前らの寝室じゃないか」

「ですね」


 最悪なことに、敵は我が家の女子部屋に仕掛けを施したようだ。

 的確に俺の弱点をえぐる戦法に、はらわたが煮えくり返る。


 ……許さねえ。


 俺は意識を冷徹な戦闘モードに切り替え、部屋の中に足を踏み入れる。


「……覚悟はいいですか?」

「いつでもオーケーだ」


 アンジェリカは静かに頷き、ベッドの下に腕を突っ込んだ。


「おい、いいのか。そんな無造作に触って。爆発したらどうする?」

「その心配はありません。……ただ、精神的にきついかもしれませんね」

「……呪いか何かか?」

「いい線いってます」


 アンジェリカが引きずり出したのは、一冊の本だった。

 革製の立派なカバーがかけており、かなり厚みがある。


「読んでみて下さい」

 

 俺はアンジェリカかからそれを受け取ると、さっそくページをめくってみた。




『2月21日 天気:晴れ

 今日はアンジェリカさんと一緒に、中元さんが出演する番組を観た。

 中元さんは田中樹里とかいうアイドルに、胸板を触られて喜んでいた。

 死ねばいいのに。

 もちろん、この場合の「死ねばいいのに」は田中樹里に対しての発言だ。

 だって私と中元さんは両想いなのに、中元さんの方からあんな女に迫るわけないじゃないですか。

 そうですよね? 

 帰宅した中元さんにこの件で詰め寄ってみたら、

「俺もあの樹里って女にはうんざりなんだ。俺は黒髪で読書好きの女の子以外は生理的に受け付けない体質なんだよ。見てくれ、その証拠にあいつに触られたところに蕁麻疹(じんましん)が出てる」

 と言って、服を脱ぎ始めた。私は恥ずかしさのあまり、目を覆ってしまった。

 するとその仕草が中元さんの中の獣に火をつけてしまったらしく、私はその場でレ〇プされてしまった。

 嫌だって言ったのに、中元さんは何回も何回も私を犯してきた。

 私は泣きじゃくりながら許しを請うしかなかった。絶対、妊娠してると思う』

 


 もちろん、そんな鬼畜めいた行為に及んだ覚えはない。

 綾子ちゃんは今も、処女のままである。

 俺は一度深呼吸をして、それからまたページをめくった。

 


『2月22日 天気:晴れ

 今日は大根が安かった。おでんを作るのがいいかもしれない。

 そんなことを考えながらマンションに戻ると、中元さんが私をレ〇プしてきた。

 絶対、妊娠してると思う』


『2月23日 天気:曇り

 今日は天気が悪いので、中元さんが私をレ〇プした。絶対、妊娠してると思う』


『2月24日 天気:レ〇プ

 うなされている中元さんを起こしたら、その場で激しくレ〇プされた。絶対、妊娠してると思う』



 もう天気の項目まで「レ〇プ」になってんじゃねえか。なんだこれ!?

 俺は震えながら次のページに目をやった。



『2月レ〇プ日 天気:レ〇プ

 今日は中元さんがおはようのレ〇プをしてきたので、朝から調子が良かった。

 苦手だった生魚の調理もできるようになってきたし、順調に中元さんの妻になる準備が整ってきたと言わざるを得ない。

 お魚料理はいい。もしも誰かが抜け駆けして中元さんと関係を持ったら、アニサキス入りのシメサバを出してお仕置きすることもできるし。

 それはさておき夜も中元さんにレ〇プされたので、絶対に妊娠してると思う』



 なぜだ……?

 なぜここまで妄想を書けるんだ……?

 内容が100%作り話な日記をつける意味ってなんだ……!?


 俺はカチカチを歯を震わせながらページをめくり続け、最新の日付に近い箇所に目を通す。



『3月24日 天気:曇り

 中元さんがまたリオさんとイチャイチャしてる。-20点』


『3月25日 天気:曇り

 中元さんがまたリオさんとイチャイチャしてる。-30点』


『3月26日 天気:晴れ

 中元さんがまたリオさんとイチャイチャしてる。-40点』


『3月27日 天気:晴れ

 起き立ての中元さんに、思い切り胸を押し付けてやった。明らかに動揺してて楽しかった。

 確かにリオさんの髪の毛は綺麗だけど、胸囲なら私の完勝なんですよ?

 中元さんにレ〇プされるべきなのは誰なのか、よーく考えることですね。

 それから数分後、挙動不審でトイレに駆け込んだ中元さんの後を追って、ドアの外で聞き耳を立ててみた。

 すると「あの弾力は反則だろ……!」と言いながらカラカラと紙を巻き取る音が聞こえてきた。

 これはもしやと思い、中元さんが出た直後にトイレへ侵入し、匂いを確かめてみた。

 ……間違いない。中元さん、私でシてくれたんだ。+400点』


『3月28日 天気:晴れ

 中元さんがリオさんの髪の弄びながら、「本当にエルザそっくりだ」と熱いまなざしを送っていた。-200点』


 

 おい、三月二十四日以降は妄想じゃなくて事実を書いてるじゃねえか。

 そんなことまで把握してるのかよ!? と恐ろしくなると同時に、トータルだと加点されてるのかセーフなのか? と安心する。

 ……いやセーフも何も、この点数が何を意味するのかわからないのだけれど。


「ふむ」


 俺は日記帳を閉じ、アンジェリカと視線を合わせる。


「……この日記を感知スキルで見たら、生き物でもないのにドス黒い点で表示されてました」

「……そうか。……もはや呪いの書物と化してるんだな……非生物にそこまで魔を込めることができるとはな」

「実は微妙に非生物じゃないですし。よく見て下さい、しおり代わりに黒い紐が使われてますよね? それ多分、お父さんとアヤコの髪の毛を編んで作ったものです。そこは人間由来のパーツなので、ある意味生き物です」

「ひっ!?」


 俺は女子のような悲鳴を上げながら、本を床に投げ捨てた。


「と、とりあえず、いつか綾子ちゃんのご機嫌取りをしてあげないと、爆発しそうなのは理解した」

「……」

「アンジェ?」

「私思うんですけどね」

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