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異世界帰りのおっさんは、父性スキルでファザコン娘達をトロトロに  作者: タカハシ ヒロ
第五章 勇者争奪戦

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レベル上げ


 背中に当たる、柔らかな感触。……齢十七歳の、美少女の乳房。

 それについてはなるべく意識しないよう心がけながら、街を駆ける。

 俺の脚は大概の乗り物より速度が出る。数分とかからず目的地に辿り着くだろう。


「……凄い……自動車より速い……」


 首の後ろで、感嘆の声を上げているのが聞こえる。

 喋るたびにふうふうと吐息が耳にかかって、少しくすぐったい。


「驚いたか?」

「……これ、手品じゃないですよね? どうなってるんですか?」

「鍛え方が違う」


 なんせ違う世界で鍛えたからな、とは言わないでおく。

 

「なんていうか、特別なトレーニングができる場所にいたんだ、俺は」

「特別、ですか」

「ああ」


 EXP制度ってのは酷いもんである。

 筋トレや走り込みで地道に体力をつけるより、異世界で雑魚モンスターを倒す方が強くなれるのだから。

 こちらの世界のアスリートが知ったら、歯ぎしりしそうな不平等だ。

 

「今から綾子ちゃんにも、それを経験してもらう」

「えっ?」

「これから君は、一つ上の段階に成長するんだ」

 

 雑談に興じているうちに、目的の建物が見えてきた。

 灰色の街並みから浮きに浮いた、パステルカラーのお城。ラブホテルだ。


「……あれって……」

「ホテルだ」

「……あそこに入るんですか?」

「ああ」


 俺も驚いたのだが、なんと最近あのホテルの従業員に、人間に化けた亜人が紛れ込んでいるらしい。

 情報源は公安――つまり杉谷さんだ。

 一体どのようにして調べ上げたのかは知らないが、きっと本当にいるのだろう。


 俺は今から綾子ちゃんを連れたままそいつを仕留め、経験値を獲得する。

 そうすれば綾子ちゃんはレベルアップし、魔法やスキルを習得するはずだ。その中に目的のものがあれば、戦いが楽になる。


「……ホテルに行って、その……何するんですか?」

「経験値稼ぎ」

「経験値……」


 妙な誤解をされると困るので、断りを入れておく。


「別におかしなことをしようってんじゃない。ただ単に、綾子ちゃんに強くなってもらいたいだけだ。今から俺は、少々特殊な方法で君の能力を開発する。さっき言った特別なトレーニングを積める場所が、ここなんだ。俺の身体能力もそれに関係してる」

「か、開発されちゃうんですね」


 息が荒い。ちゃんと伝わってるんだろうか?


「性的なことをするわけじゃないぞ?」

「……そ、そうですよね。神聖な行為であって、性的なわけじゃないですもんね」

「君は何もしなくていい。目を瞑ってる間に終わる」

「……動かなくていいってことですか?」

「ただ座ってればいいよ」

「……寝るんじゃなくて、座るんですか。その姿勢でするんですか」


 ホテルはもうすぐそこだ。

 俺は足を緩め、あたりの様子を窺いながら道を進む。

 周囲に異常がないか確認し、自動ドアを通る。

 

「っと。そろそろ自分で歩いてもらうよ」

「あ、はい」


 腰をかがめ、降りやすいようにしてやる。

 綾子ちゃんはしばらく背中でもぞもぞと動いていたが、やがてタトンと足音が鳴ったと思うと、一気に体が軽くなった。


「とりあえず俺の傍から離れないようにしてくれ」

「……」


 無言で首を縦に振られる。こちらの綾子ちゃんは、あちらの綾子ちゃんより口数が少ない。

 この個体差が、良い方向に向かうことを祈る。


 以前フィリアは言っていた。どんなスキルを習得するかは、本人の資質だけでなく精神状態にも左右されると。

 仮に一卵性の双子がいたとしても、それぞれが違うシチュエーションでレベルアップしたならば――異なる能力に目覚めるわけだ。

 

 俺と同居している方の綾子ちゃんは、主に筋力や耐久など、身体能力を下げるデバフに特化している。

 ならこっちの綾子ちゃんが別方向のデバフに開眼してくれれば、エリン対策として機能するはずだ。

 

 期待の眼差しを向けつつ、廊下を歩く。綾子ちゃんは俺に見られてるのに気付くと、恥ずかしそうに俯いた。

 

「……中元さんって、よくこういうことしてるんですか」

「まあな」


 レベル上げなら向こうでしょっちゅうやっていた。ライフワークと言っていい。勇者にとっちゃ義務みたいんもんだ。


「色んな奴と手合わせしたな。町のゴロつきに盗賊、荒くれ物の傭兵……」

「……なんだか男の人が相手に聞こえるんですが」

「そりゃそうだ。俺と取っ組み合う相手は、毎度のように屈強な男達だったからな」

「……屈強な男達と……」


 別に相手を殺さずとも、戦闘に勝利するだけで経験値を獲得することができる。

 なので強面の賞金首どもを捕まえることで、レベル上げと資金稼ぎを同時にこなせたのだ。


「ガキの頃は返り討ちに遭うことも珍しくなかった。気を失うまでやられちまったこともある。だがそれを繰り返して俺は強くなった。今じゃ強すぎて困ってるくらいだ」

「……失神するまで……無数のたくましい男達と……」


 杉谷さんが言うには、このホテルは人食いオーガが清掃婦に化けてうろついているらしい。

 俺がこれまでレベル上げで追い回した奴らは酷い荒くれものだったが、少なくとも女に化けて逃げ回るほど腐っちゃいなかった。

 よほどの小心者なのだろう、おそらく大した腕ではない。


 俺は綾子ちゃんの方を向き、声をかける。


「なに。一発で昇天させてやるさ」

 

 安心していいぜ、と笑いかける。

 ひきつった笑みを返されるが、緊張しているだけだと思いたい。


「……テクニックに自信があるんですね、中元さん……そうですよね、凄まじい意味で経験豊富ですもんね……」

「まあな。今回みたいなパターンなら、指一本でなんとかなるかもしれないな」

「だ、駄目です!」

「え?」

「……指だけじゃ、嫌です……」

「なんだ? もっと大技が見たいのか?」


 こくこくと小刻みに首を振られる。

 女の子にねだられたら仕方ない。

 たかが鬼退治なら素手でなんとかなりそうだが、光剣でも抜いてみようか。

 それとも派手目な魔法をぶっ放した方がいいんだろうか?


「綾子ちゃんは剣と飛び道具だったら、どっちが好みなんだ?」

「……中元さんの言う大技って、物を使うんですか?」


 怪しげな色合いの照明を浴びながら、俺達は廊下を曲がる。


「物って言っても、どっかから得物を持ってくるわけじゃない。俺の体から出てくるもんを使うわけだしな」

「……で、出てくる物を使う……? ……私には難易度が高いかもです……」

「綾子ちゃんはただじっとしてるだけでいいんだから、大丈夫だって」

「……じっとしていられないかもしれません……」

「ほんの数秒で終わるんだから、動き回る暇自体ないと思うが」

「……数秒ですか……? 体から出して、使うまでにほんの数秒しかかからないんですか……?」

「もっと早いかもな。場合によっては一瞬かも」

「……中元さんって凄いんですね」


 呆れたような声でため息をつかれる。

 

「言ったろ? 鍛え方が違うって。俺は酷い時には一日に二十連戦、三十連戦とこなしたからな。一戦一戦は短くがポリシーなんだ」

「……二十連戦……」

「場数を積めば、君もこれくらいはできるようになるんじゃないか。っていうか、そうなってもらいたい」

「……え?」


 綾子ちゃんは青ざめた顔をしていた。

 不安なのはわかるが、デバフの使い手は貴重なのだ。連発できるようになってくれなければ困る。


「さ、着いたぞ。確かここが従業員用の事務所だ」

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