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少女、僕、雇い主、それと  作者: 博多鉄郎
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今日は何もない日だったはずだ

空の色が少し、黒ずんできたお昼頃。僕は河川敷の堤防の坂になっていて、草が生えているところに横になって、仰向けになって寝転んでいた。空の様子は僕の頭側にある白い雲が風に流されて、ゆっくりと僕の足から頭に向かう方向に進んでいき、その後ろを黒いくもが追いかけている。午前中には晴れていた天気もこのままだと雨が降りそうだ。ときどき、風が僕の足元から吹いてきて僕の顔に触れてくる。真冬の寒さはないが、まだ春の陽気を感じるという時期でもないからその風は少し肌寒い。川辺にはいくつもの自作の家が乱立している。その近くにホームレス達がドラム缶を横に半分に切った椅子に座って、たき火に当たっていた。大体のホームレスは頭にニット帽をかぶり、手には手袋をつけたままだ。

僕は暇人ではない。ちゃんと仕事をして給料をもらっている、十八歳の男だ。ただ、今は仕事の合間の昼休みの時間を使って精神を安定させているのである。僕の仕事はまともかと言われれば、まともではない部類に入るのだろう。でも、僕は今の仕事の現状に不満はなかった。楽な仕事ではないが、自分に適正のある仕事ではあると思うのだ。

また、空を見た。

昔から、空の雲を見るのが好きだった。空の雲の形は様々な形をしている。空の雲を見ていると、その形から自分の頭のなかで一番しっくりするものが自然と浮かんでくる。そうやっていると心が落ち着いた。堤防の上の方から時々通りがかる人が僕を見下ろしているのがわかる。僕の近くに置いてある、リュックと傘を見て少し不思議そうな顔をしている。今日の天気予報では雨の予報はなかったからだろう。それとも、不思議な顔をしているのではなく、それは奇異なものを見る顔なのかもしれない。こんな時間に寝転んでいては、職についていない暇を持て余した青年にしか見えないのだろうか。

 ふと、腕時計に目をやるともうあとちょっとで昼休憩が終わりそうだ。いつまでもこんな風に寝転んでいるわけにはいかない。僕はそばに置いていたリュックと傘を持って、立ち上がって、深緑色をしたコートについた雑草を払った。

二千三百四年、四月九日。都心から少し離れたこの場所は川に沿って民家が並び、堤防と民家に挟まれたところにある道路を走る車の音を除けば、人の声もあまり聞こえず静かな場所である。

僕は堤防の上のアスファルトで舗装された道を歩いた。時々、自転車が僕を追い越していく。この時間帯になると、朝方会社に通勤するためにロードバイクに乗り猛スピードで自転車を操縦する人はあまりいない。せいぜい暇を持て余した主婦か、どこにでもいそうな老人が、えっちらおっちら、のろのろマイペースに自転車を漕いでいる。

 事務所に向かって歩いていると雨が降り出した。急な雨に対応できているのは僕だけだ。いわゆるゲリラ豪雨というやつなのだろうか。自転車のライダーは雨の中を全力で漕いでいるし、堤防の下にいる人達もあわてて雨宿りをしていた。僕は持っていた傘をさしているから、たいして急ぐこともなくそのままのペースで歩き続けている。雨はだんだんその強さをましていった。

 昔から僕には夢の中で未来の様子が見えることがあった。未来の様子を見れるといっても自分の見たい未来のことなんかは見れなくて、大抵は明日の天気のようすとか、自分が歩いているとき転びそうになる場所とか、そういうとてもつまらないものをよく見た。でもときどき自分の身に危険が迫っている未来とかも見たりする。

 僕の見る未来は変えられることがある。その夢で自分がしている行動を自分がその通りしなければ変えられることが多い。もちろんいろんなことがあって、僕の思った通りの未来になってしまうことがある。でも行動すれば変わることが多い。

 僕はそのおかげで今こうして生きている。

 十年前の三月十一日、僕の家族は何者かによって惨殺された。


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