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マイ フィロソフィ3   作者: 名草宗一郎
28/42

最後の恋 28

スト、スト、スト、スト。

 一心に僕は切り続けていた。いたのだが見覚えのある影がひょこひょこと僕に近寄ってきた。

「よ!」

「ああ、光。そのウェイター姿はぱりっと決まっているね」

 そう僕が言ったら、光は平凡な馬を軽く乗りこなした一流の馬主のような上機嫌な顔をした。

「ああ、そうだろ?かっこよく決まってるだろ?俺自身もかなり気に入っているさ」

 それに僕は肯いてまた切り始めた。

 スト、スト、スト、スト。

 肉を切るのは初めてだったが、肉は切りやすく思うとおりに、なめらかに切れた。

 肉の断面がしっとりと従順に横たえていた。

「ああ、そうだな。ここまでやる気がないクラスをよく東堂院さんはまとめてくれたよな。個人的には文化祭とか盛り上がれないけど、東堂院さんがいなければ、どんなずさんな物がでるかわからなかったよな。適当に鉱石なんか集めて、鉱石の展示会とか、そんな物しかでなかった気がする」

 僕は肉を切りながら、光に商店でさらっと客に品物を渡すように言った。

 光はポンと太鼓を一つ叩くように言う。

「ああ、確かにそうだな。彼女がいなかったらまとまらなかったな。彼女がリーダーシップを発揮してくれてうれしいか?一樹」


 光は一瞬(いっしゅん)光りをする目で僕の目を見つめた。それに僕はやはり気力がでないように言う。

「別にどちらでも良い。正直言って、文化祭とかが本当にやる気がでない。彼女が主導をしていてもなんかやる気がでないんだよな」

 それに光が納得したように肯いた。

「なるほど、それは大変だな。彼女になったら彼女だけやる気があるのに、本人はでないというのはカップルの危機だ」

「ははは、確かに。それは言えてるな!でも、僕は団体行動がとにかくいやだから文化祭はだめだけど、彼女と二人ならたいていのことなら大丈夫だと、思う」

 そう僕達がふざけ合ったときに、その時教室の扉が開いた。

「!」

 それは天使だった。光りの砂を身に纏い、一歩ずつ歩くたびに、その優美さのミントの香りが蒸していた。

 その天使が皆を見渡して言う。

「みんな!文化祭が始まるわ!今日一日頑張りましょう!」

 それにういー、と言う甘みがないパンパン菓子のやる気のない声が上がった。クラスの人たちは本当にやる気がなかった。

 東堂院さんはクラスのみんなにいったあと、くるっとこっちを向い手、赤子のように無邪気でこちらを無条件に信頼していて、少女のように可憐(かれん)な笑みを僕に向けた。

「笹原君も頑張ってね。私、笹原君のがんばりに期待しているから!一緒に文化祭を盛り上げよ!」

 そう言った後、東堂院さんはクラスの人たちにいろんな指示を出していく。ポンと光が僕の肩を叩く。

「よかったじゃないか。彼女のことは一樹を悪く思っていないみたいだ。これからアタックをすれば、もしかしたら好感触をえられるかも知れんぞ」

「よせよ」

 僕はさらっと光の手を払った。彼女とは。

 彼女とはこれからも何ともない。彼女が僕に確実に好意があるとはわからないし、だからこそ、僕は動かない。彼女になにもアタックをする気がない。

 赤い肉をすさすさっと切り分けてトレイに盛っていった。赤い肉がもたれつつ、赤い汁をじわりと出していた。




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