最後の恋 22
「痛い!痛いよ!一樹!放してよ!」
屋上までどたばたと美春を引きずった僕に美春はきつい感じの黄色い声で言った。僕はぱっと美春を放す。
「ああ、痛かった。一樹って時々すごく乱暴にするよね。そういうのって女の子にもてないよ」
「お前しか乱暴に扱ってないよ。あと、もてないのは余計なお世話だ」
僕の言葉を聞くと美春はかなり本気で不機嫌そうに頬を膨らまして、横に向いた。
「なによそれ。それじゃあ、私が一樹に好感度が上がらなくても良いってこと?一樹は私を女の子としてみてくれないってこと?」
「お前のどこに女の子としての要素がある?」
蟹が泡を吹くように、美春の頭上に不機嫌の泡がぶくぶくと発生していた。
そんな自身が被害者ぶっている美春に僕は一言言わなければ気が済まなかった。美春の行動で僕がどれだけ驚いたか、そのことを示したい白い炎の怒りが僕の頭をくすぶっていたのだ。
「それより、今のはなんだ!あんなの全く僕は、いや誰もあんなことを望んでいない!それなのになんであんなことを言ったんだ!全く迷惑だ!」
そう僕が言ったら、美春は影がべったり床に張り付くように顔をうつむかせていた。
影は黒いその色を床にぬかるみじめじめとくすぶっていた。その影が聞こえない家ぐらいの小声でささやく。
「そんなことない。迷惑なんて思わない」
「うん?なんだって?」
そう僕が言ったら、きっ!と美春は顔を上げて目の奥に意志の強さを秘めた炎の光を見せた。
「そんなこと無いよ!だって、このままじゃあ、一樹達の中が進展しないじゃん!私はよかれと思って、二人の中を進展させようと思ったんだよ!香澄ちゃんが一樹のことを実は好きだった、と言うことがわかれば告白もしやすいでしょう!?」
その言葉に僕は動揺した。それは自分が思ってみてもなかった方向から急所にブズリと矢が刺さ去りその衝撃でふらついた。
「そんなのお前には関係がないことだろ!僕と東堂院さんがどうなろうが美春には関係がないよ!それより、お前はさ、自分の事はどうなんだ!ずいぶん佐藤君を困らせているようじゃないか?恋人同士、相手を思いやることも大事だぞ?ちゃんと、美春はしているのか?あんましわがままばかり言うなよ?」
それに美春はふつふつと内に燃え上がる貝の怒りのように口を閉ざした。
「そんなの………………」
「ん?」
そう僕が問い返したら、美春は大きく口を開いて叫んだ。
「そんなことこそ、関係がないよ!彼女もいないのにわかったことをいわないでよ!何よ、何よ!せっかく人が親切心でしたのに!もう、一樹とは絶交だ。私に金輪際話しかけないで!絶対、ぜえええええっっっっっっったい!私は一樹とおしゃべりしないんだからね!!!!!!」
そういって、ぴゅーっと木枯らし(こがらし)が吹くように瞬く間に美春の姿が屋上と校舎をつなぐ階段に消えていった。
「あ!待て!」
僕が言っても時すでに遅し、美春の気配が全く跡形も無くなくなっていった。
「なんだかな………………」
台風が過ぎ去った林のような、カーキ色の微風があたりを吹く。
いたらいたで迷惑だけど、いなくなったらいないでちょっとあるべき物がない空白感を感じるな。自分の発言はまるで後悔をしていないけど、でも、できるならまた美春としゃべってみたいな。
僕はちらりと校庭を見たあとで、屋上を去った。校庭はちらちらと貝の光があたりに散らばっているのが見えた。




