最後の恋 17
一人の少女がもう一人の少女と対面をする。ただの対面ではない、鋼糸が張られるような緊迫感に縛られながら、バスケットボールを持ち、一気に貫通しようとするが、しかし対面する少女が許さない。
対面する少女が腰を落として、突破をかけないようにする。少女も抜くための道をいくつか試みるために体を動かしていたが、勇気がでないのか、相手の守りが堅いた目なのか、ボールを持ったまま奇妙なダンスをし続けていた。
それが少し立ったあと、ボールが飛行した。
「フレイジャーさん!」
バシ!
少女、細田さんからボールを渡されたフレイジャーがボールを渡されるとすぐに相手の少女を追い抜き一気にゴールを掛けようとしたが、その前にさっき攻撃を仕掛けた少女を跳ね返した天使がフレイジャーの前に立つふざかった。
「……………………」
その相手の少女、東堂院さんは完璧に腰を落として、全くキャサリンの視線を完璧に跳ね返した。
「……………………」
ダンダン。
キャサリンも腰を落としたまま、肩慣らしのように後ろでドリブルをして、ボールを右脇へ抱える。
そして、そのまま石になった。
「これはえらいことになってきたぞ」
小泉くんの言葉にクラスの男子が肯く。全く、こんな事になろうとは誰もが想像できなかった。
これは簡単なままごとのような試合になるはずだった。東堂院さんがいかに強かろうと、バスケ部員のがいる白組に勝てるわけがなかった。柏木さんの本来のポジションはポイントガードだが、素人には隙のない守りで完全に防げるはずだった。しかし………………。
東堂院さんが予想以上に強かった。柏木さんの守りを崩し、6点を入れたという獅子奮迅の活躍で紅組の得点12点の半分にまで達する得点へ貢献した。
ちなみに4点ぐらいは美春があっさり抜かれての失点だった。
ともかく、今白組が14点。そして紅組が12点を取っている。この予想外の展開にクラスの男子達も鑑賞の質が確実に変わったし、それにプレイしている女子達の方にこそ、最初はゴムのようにのびのびとプレイするつもりだったが、それは固まり、裂帛の気合いで熱を奮発しつづけた。
そして、そのまま本当の試合さながらの、強烈な熱気を帯びた鋼の刃の空気で固まっていた。
ダムダム。
佐藤さんが腰を下ろしたまま、ドリブルをする。だが。
「細田さん!」
また、細田さんの下にボールをパスした。もう、あれから白組はパスを回し続けている。
「……………ここが重要な所になるぞ」
小泉くんの意見はもっともだ。もう、授業が終わるまでの時間が残り3分を切った。
今は白組の攻撃で、ここを点を入れたら、もはや白組の勝利だ。だからここは一番重要な時間になる。紅組が負けないためにはここはなんとしても守りきって、得点を入れないといけない。
それがわかっているから白組も攻めあぐねて、パスばかりしているのだ。そして……………。
「フレイジャーさん!」
そして、またキャサリンにボールが戻った。
「……………………」
「……………………」
キャサリンは力が圧縮されたバネのように固まるが、しかし、相手の天女の近衛兵も気合いでやっているのか、全く守備が崩せなかった。そのまま数秒が過ぎた。
これは硬直状態が続くな。さすがにフレイジャーも東堂院さんの守備を崩せないのか。まさか、ここまで試合がおもしろくなるとは思わなかった。
ここが重要になる。
ここで決めれば白組の勝利、試合は終わる。ここで紅組がボールを奪えば紅組は負けないかも知れない。
そういう点でこの場面が重要なのだ。そして、それを僕以上に理解しているのアルテミスが誰もが予想できない行動を取った。
「柏木さん!」
『!!!』
そこまで固まっていたキャサリンが右後方に一直線にパスを送る。そして、その先へ、守っていたはずの柏木さんがいた。
当然のことながら、これは公式の試合でなく、20人ぐらいの女子が一斉にプレイしているものだから、もうすでに攻撃班と守備班に分かれていた。
その中で攻撃にも守備にも行かせる人はキャサリンや東堂院さんぐらいにセンスのある人しか両方につかなかった。
その中で当然柏木さんは能力にたいして十分すぎるほど持っていたが、しかしバスケをやっている身なので、じっと守備の範囲を超えることはなかった。
だが、柏木さんは、こんな練習試合に彼女心の闘争心を刺激されたのか、敵陣にまで来て、ちょうどスリーポイントの所まで到達していた。
「あ!」
紅組の須原さんが声を出す。それは柏木さんがスリーポイントシュートをするからではない。キャサリンのパスにみんなが柏木さんの行動に注視したとき、キャサリン自身がすでに須原さんを突破してゴール下にリバウンドするのに良いポジションをキープしていたからだ。
そして放たれる柏木さんのシュート。そのシュートは入らず縁をはじいたが、その時170センチの長身が天に向かって跳ねた。
ダン!
「入った!」
歓声の声を上げる男子達、そして肩を落とす紅組のチーム。キャサリンが誰もが追随できない高さでボールが縁をはじいたとき、ダンクを決めたのだ。
そのダンクを決めた瞬間、白組はこれまではられていた闘争心の糸が緩み、紅組は完全に心がくじいた。
そして、そのまま試合が決まった。これで終わったのだ。
それは誰もがそう思った。紅組の越さんがよろよろと全く生気がない仕草でボールを回収する。もうすでに柏木さんは自陣のセンターにまで戻っている。越さんも相手を速攻で攻めるつもりがなく、ドリブルをしなが白組の陣地に向かっていく。越さんは生気のない仕草でドリブルをしていた物の、奇跡が起こせる唯一の人にボールをパスした。
「東堂院さん」
バシ!
それは変わらなかった。いくら、あの東堂院さんでもこの点差をひっくり返せれるとは誰もが信じなかった。
もはや時間は2分を切っており、白組も、紅組でさえも、あの東堂院さんといえど柏木さんを振り切って4点を決めることは不可能だと思ったのだ。
東堂院さんはその空気を知らないように、落ち着いた優雅な女神のようにゆっくりドリブルをしていたが、しかし、どこか鉄の蜘蛛の糸のように、不要心に糸に触れたら小さな切り傷になってしまいそうだった。
「美春ー!腰を落とせよ!ボールは見ずに自分がマークする人を見るんだ!」
しかし、僕の言うことがわかっているのか、どこか不格好であるが、鉱石のような熱意で美春は自分のマークの相手白井さんの前に構えた。
今、ボールを持っているのは東堂院さんだ。東堂院さんはどうするか。前に楠木さんがいるけど、彼女はそんなに運動神経は良くない。それを抜くのはそんなにたいしたことではない。
だが、その後ろに強力なガーゴイルがいる。
柏木早百合。バスケ部所属の少女。うちの部はそんなに強いわけではないが、スタメンであり、当然素人からしたら太刀打ちできない相手。
そんな相手に東堂院さんは点を奪ってきた。東堂院さんが抜群に運動神経がよいから得点を取れたわけではなく。ただ、二人の間に身長差が10センチぐらい開いているから、高さで倒すことができたに過ぎない。
もう2分を切っている。ここはこれまでのことと同じように切り込んで無理矢理得点をするしかないだろう。
そう僕が想像をしているときに、東堂院さんは腰を落としてドライブしたまま、ちょっと予想外の行動を取った。
「白井さん!」
そして右翼にいる白井さんにパスをした。
「!美春!落ち着けよ!」
「ほ!」
白井さんのマークは美春。白井さんはそんなに運動神経は良くないが、しかし、度がつく音痴の美春に比べれば優秀な部類だった。それで白組の失点は美春が抜かれて、東堂院さんにパスをして決めるというのがだいたいの流れだ。だから、これは正常な方法かも知れないが、ちょっと物足りないような気もする。
「美春!腰を落とせよ!抜かれないことを最優先考えるんだ!」
「…………………」
美春は僕の言葉に少しも体のノイズを発しなかった。うん、集中している証だ。これで良い。
だが、白井さんも本気で集中していた。おそらく言い感じの時間で試合をしてきて、集中力が完全に達していたのだろう。全く動きに雑念が入っていない。
……………………。
白井さんの体が右の方向に意識を飛ばす。
美春は完全に集中していたが、それがいけなかった。わずかな静電気にサンショウウオが目の前に来た小魚に飛びつくようにそれに飛びついた。
「!あ!」
一気に美春の左をぬけた白井さんは、今日は体の調子が切れていたのか、そのまま東堂院さんの方を見ずに速い矢風のようにシュートをした。
だが……………。
「!」
白井さんがシュートするためのジャンプをしたときに、それが頂点に達する前、かまいたちの影がふっと現れた。
バシ!
「拾って!」
白井さんがシュートに達する前に、俊敏に柏木さんが前に出て、シュートをはじいて、はじいた瞬間声を上げた。もう、時間がない。ここで白組が拾ったら勝ったも同然だった。
だが、白組の佐々木さんが追うが、その前に疾風のごとき早さでボールを拾った人がいた。東堂院さんだった。
ボールは予想以上に転がって東堂院さんの少し前方に来たのを疾風の速さで東堂院さんが拾ったのだ。
白組の選手はもはやほとんどやる気を見いだせず、もう意識は次の休み時間に向かっていた。そんななかで東堂院さんはハーフコートの中央に自然な形でやってきた。
選手の数がかなり多いが、もはや白組でやる気のある人は5人ほどしかなかったので、中央まできた東堂院さんにプレッシャーを掛けようとする女子選手は当然いなかったのでここまで大胆なことができたのだ。
最も試合の中盤でも本気でプレッシャーを掛けようとす女子なんていないし、何となく流れていく熱意でプレイしているのだ。
白組でさえ勝利を確信していたので、紅組のチームは全く勝負を諦めて(あきらめて)いた。しかし、東堂院さんは意外な言葉を天上の琴のような澄んだ言葉を漏らした。
「みんな、落ち着いて。一本確実に取ろう」
ここに来ても東堂院さんは冷静に小鳥のさえずりのように柔らかい口調で言った。
だが、その言葉を全く僕達、選手も観客も信じてなかった。もう時間がない。この点数差で追いつくというのは不可能だ。だから、これはもう無理だと言うことは誰にもわかることだ。
そう思っていたが、しかしそう思っていない人がいた。鶴はみんなを見渡して、孤高のなかで屹然とした表情をした。
「大丈夫。ちゃんと追いつけるから。みんなが集中したら必ず、勝てるから。まず一本取ろう。三河さん」
東堂院さんは腰を低くして、ドリブルをしていたが、それを止めて左方にいた三河を見たままボールを構えた。
それに三河さんも東堂院さんの言葉を理解して、また集中し直した顔つきになって肯く。
「オーケー。まず、一本取ろう」
シュ。
それは誰もが予想できなかった。観客と選手が当然東堂院さんがパスをするだろうと思って、終わったゲームを見ていた。そうしたら、予想外に敵の、見方の虚を突く形でそのままシュートをした。
「リバウンド!」
その虚の動きに、シュートを打った直後に誰よりも早く頭を切り換えみんなに指示を与え、柏木さんはすぐにリバウンドのポジションを取った。
確かに全くの素人が中距離からシュートを打っても入るはずがない。それは確信を持った予想だが、しかし現実は稀にその予想を超える。
がごっ……………どんどん。
「!」
まさか、まさか。素人が放ったシュートが入った。確かにきれいではなく縁に当たったが、それでも入ったことが脅威だった。
ダーン、ダンダン…………………。
その慄然とも言える奇跡に周りの誰もが言葉を無くす。
そして、それに最も理解できない人が、柏木さんが、それを表情に出しつつ、ボールを拾いしばらくうつむいていたが、すぐ切り替え佐々木さんにパスを出した。
「佐々木さん」
バシ!
「!」
また、予想という進路が脱線して、隠された線路を現実が爆走していった。
あろう事か、柏木さんが出したパスを東堂院さんがスティールをしたのだ。もう鐘が鳴るまで10秒を切っている。柏木さんも含めて誰もがもう終わりだと思った。それを守備に向かわずまだ紅組の陣地にいた東堂院さんが取り、そして瞬速の速さでゴール前で飛び上がった!
「ハアッ!」
それにイフリートのような人をやけどさせるような熱意で立ち塞がる(ふざ)柏木さん。僕達は素人とは思えない、センスの良さに観客も選手も意識が脱帽して、帽子が戻らなかった。
シュ!
柏木さんが早く意識が戻ってもこの身長差ではいかんともしがたく、ジャンプをしたタイミングが同じで、だからこそ柏木さんはボールをはじけなかった。
がごっ。
そして、放たれたボールは円を描いて、ゴールの縁をはじく。
誰もが呆然とそのボールの行方を見た。そして、そのボールは……………。
…………………だんだん………………。
ピーッ!
「はい。試合終了だ。みんな集まれー!」
女子の面々が先生に言われ集まっていく。誰もが試合の熱気に冷めないのか、まだ興奮の渦を纏い風として発生し続けていた。
「じゃあ、礼をしろ」
『ありがとうございました!』
そのまま礼をしたあと、女子達は一つの固まりを残してばらばらな小集団を作った。
紅組のみんなは東堂院さんの下へ集まっていた。何を話したかは良く聞き取れなかったが、ただ、東堂院さんは許すかのように牡丹の花を咲かせていた。




