最後の恋 16
「はい、じゃあ。ジャンパーはこれで良いかな?」
「構いません」
バスケットボールを持った先生が二人の女子生徒を見る。一人金色の長い髪を、今は束ねている長身の女子。もう一人は…………………。
「私も構いません」
やはり長い髪を後ろに束ねている、凛とした姿勢を持つ女子生徒。だが、その女子達は似ている部分もある。長身、長い髪、ある種の男子達にとって魅力的な体型。しかし、対面をすると全く別印象を与えるのも事実だった。
「それでは試合を始めます」
「…………………」
「…………………」
二人の女子が朝霜のように透明感のある視線でにらみ合う。
しかし、似ていない所もある。金髪の女子の方はどこか硝酸のような毒々しいまでの白さを有しているのにたいして、黒髪の少女は力強さはある種の、林に朝生えるタケノコのような形の良い凜とした白さがある。
もちろん前者がキャサリンで、後者は東堂院さんだ。
「1,2,それ!」
ばっ!
先生が高く投げたボールを追って、白の天使が空高く待った。
どちらも同じような高さに見えたが、しかし金髪の天使の方がわずかに黒髪の天使より指が先に触れた。
ち。
キャサリンと同じ組の白色のチームの女子にボールが渡る。そして、白の攻撃が始まった。
始まったな。白の千軍万馬が進撃する。この白の猛攻に赤のチームは耐えきれるか?とにかく目が離せないプレイにになるな。女子達もどこか緊張感が張り付いているように見えるし…………………。
「一樹ー!見てみて!この私がバッチシ活躍するんだから!刮目してみると良いわ!しっかり応援してね!」
前言撤回。一人緊張感を纏わずにぴょんぴょん跳ねている白色のひよこがいた。ほんと緊張感がないな、美春は。そんなんで大丈夫か?
「おおー!応援するする。がんばれよ!美春!」
それに美春は僕のほうに顔を向けてぶんぶん手を振った。
ここで説明しておくと、男子達のバスケの終了タイムがなくなって、今度は女子達がバスケをする番になったのだ。
それで今は女子の側が試合を開始している。男子達はやることもなく友達を応援するか、雑談をするか、気になる人を見るかぐらいなものだ。
しかし、何となく男子達は東堂院さんかフレイジャーの膨らみ(ふくらみ)を熱心に見てる気がするな。
それはともかく、話を戻すと、その女子のなかで紅組と白組に別れて対決しているのだ。
紅組には東堂院さんが、白組には美春とフレイジャーが。そしてある重要なプレイヤーも白組に属している。
まあ、ただの練習試合なのでなにも注意するものがないだろう。
その僕の予感は序盤は的中した。白のボールを奪った紅組のチームの東堂院さんが鷹のような速さで白組のゴールに迫っていく。
「行ったわよ!美春!」
そのキャサリンの言葉に美春は両手を挙げ、棒立ちの体勢で臨戦態勢に入る。
「まかっせて!りンちゃん!この瀬野の颯と呼ばれた寺島美春が相手よ!カスミン!
思えば、私たは戦いが避けぬ事ができない関係だったかも知れないわね。一目見た瞬間から私に匹敵する、できる女だってわかったわよ、だから…………………
あ!ちょっと!カスミン!人の話は最後まで聞こうよ!これから良いとこだったのに!無視して過ぎ去るのはひどいよ!これじゃあ私がバカみたいじゃない!」
バカみたいじゃなくて正真正銘のバカだ。
「バカ!なにやってんの!あんな守りをしていたら突破されるのは目に見えているでしょ!」
一気に自陣に戻ってきたキャサリンが通りすぎざわ美春に言葉をたたきつけた。
さっさと去っていくキャサリンに、しかし美春は名残惜しそうに唇をとがらす。
「ええ〜?ひどいよ〜リンちゃん!私はね、ちゃんと守ろうとしたんだよ?こうかっこよく、カスミンのボールをばしっ!と奪おうとしたんだよ?それなのに非難するなんてひどいじゃない。……………………せめて最後まで聞いて〜」
そんなのは当たり前だ。あのキャサリンが非難しないわけはないだろう。
颯と言うより、児島のような美春のかすかすのガードを通り抜けた東堂院さんはそのまま、白のゴールを守る、センター、柏木さん
のそばにまで詰め寄る。
センターで周りにいろんな指示を与えている少女、柏木さんは背は高くなく、ショートヘアをした一見地味な感じを与える女子だが、東堂院さんが彼女の前に来ると普段のたおやかな彼女からはわからないほどの張り詰めたプレッシャーを掛けてきた。
「!!」
「みんな!東堂院さんを囲んで!一気にボールを奪うのよ!」
しかし、周りに囲まれる前に東堂院さんはさっさとパスを出した。
この東堂院さんをつぶし、白組の守備のリーダーこそが、彼女こそがさっき言った重要なプレイヤーなのだ。本格的なバスケ部の部員で、レギュラーでポイントガードのポジションに着いていると聞いている。そんな彼女は当然普通の生徒よりも格段に強い、さすがに東堂院さんも彼女では太刀打ちできないと思う。
いったんボールを持った三河さんは白組のガードを突破しようと身動きをする。
そして、その時は細枝が折れるようにあっけなく訪れた。
三河さんがあまり、知らない女子のガードをすり抜けたとき、しかし白組のガーディアンがするりと彼女の前にやってきた。
「!!」
バシ!
よどみなく、瞬速の早さで三河さんがシュートもできず、守れずにボールがコートの中央に転がった。
そして、それを誰よりも早く東堂院さんが拾う。
「みんな!…………いや、良いわ」
東堂院さんはゆっくりドライブをしながら、相手に奪われる(うばわれる)可能背の高い、高いドライブで柏木さんの前に来た。
「……………………」
「……………………」
ダムダム……………。
今度も周りから囲まれるかも知れないのに、気にした素振りを見せずドライブをしていた。
そして、誰も東堂院さんを囲おうともしない。
ダムダム…………。
「………………」
「………………」
ドリブルをしながら柏木さんの前にやってきた東堂院さんは今度はボールを持ち、腰を低くし構えた。
誰も二人の戦いに誰も邪魔立てしようとしなかった。
誰だって、見てみたいのだ。素人が、学園のアイドルがバスケ部員を越えることができるのか。
それは完全に夢物語だった。素人がバスケ部員を越えれるわけがない。しかし、勝利の目は完全にないわけではない。
それは身長だ。柏木さんはポイントガードなため151㎝で、東堂院さんは167㎝であり、諭して10センチ以上の身長差がある。
この身長差は東堂院さんがせめるときにかなり有意に働く。最もそれがバスケ部員である柏木さんにどれだけ通用するのかわからない所だが……………。
「動いた!」
僕の横にいた、小泉くんが叫んだ。
僕が解説をしている間に東堂院さんが仕掛けたようで、東堂院さんから見て左側の方向に彼女は切り込んでいった。
「……………」
だが、その突然の動きにも完全に歩調を合わせるような柏木さんの俊敏なガード。
あれだけぴったり動かれると全く何もできない!
僕はそう思った。周りのみんなも誰もがそう思った。やはり素人は学園のアイドルといえどバスケ部にかなわないのだと、だが、ここで信じられないことが起きた。
「あ!」
いきなり、柏木さんが東堂院さんの前にジャンプしたかと思うと東堂院さんは誰もが驚くほどの自然さで柏木さんの横を通り抜けてレイアップシュートを決めた。あまりにも一瞬のことなのでそれに誰もが目を見張り、彼女を見るしかなかった。
そして、そのあまりにあっけない幕切れにギャラリーもばらばらに興奮した。
「何だ、何だ!どうなってるんだ!」
「なんで、ジャンプしたんだろう?あんなことしなければぬけられることはなかったのに」
「………………」
僕はハイタッチで迎えられている東堂院さんと、何か納得できない表情でボールを拾っている柏木さんを見ながらこう思った。
もしかしたら、東堂院さんはフェイクを使ったかも知れない。
二人にはかなり身長差がある。同時に飛んだら絶対にシュートが入れられる。
だからこそ、柏木さんは早くジャンプをして弾こうとしたのではなかったのか?それを東堂院さんはわかっていた。そのため切り込んだあと、ジャンプのフェイクをするだけで引っかかると思ったのだ。
これは練習試合だ。柏木さんのもちょっと派手なことをしてみんなを満足させようと思っていたのだろう。そして、そのチャンスはすぐに来た。
きたと思われた。まさか素人が巧妙なフェイクをできると思わずにすぐに引っかかってしまったのだ。
東堂院さんはそんなに力を入れずにフェイクをしたと思われる。遠くから見ても全くわからなかったし、ちょっと腰を落としたぐらいで、勘の良い柏木さんが引っかかると思ったのだろう。
まさにバスケ部員の経験の差を利用した東堂院さんの勝ちだった。
男子達はひとしきり興奮したあと、気ままな評論という睡眠剤を飲んで、あとは安心して安眠しながら夢で勝手に思い出を作っていた。
「さすがだな〜、東堂院さん。センスが良い」
「全くいい女だよな〜。きれいだし、かっこいいしなにも言うことはないよな」
「それにいいもの持ってるし。ほんと彼女にしたい女ナンバーワンだよな〜」
本能性のある猿のような笑い声が男子の間に響いた。
ほんとにかっこいいな、東堂院さんは。それに男子からも人気はあるし。すごい人だよな。
僕は縦横無尽に活躍している、鶴の姿に静かに夢中になっていた。鶴はかなり体を酷使していたが、口端がちょっと曲がっていた。




