最後の恋 11
「はい、じゃあ今日はここまで。宿題として今日やった英文を全訳してください。じゃあ、解散」
英語の先生がそう言うとクラスの人達は泡がぬけ炭酸飲料のようにしぼんだ。
そして、しぼんだあとまた何事もなかったかのように黄色い雑踏の混沌としたリズムに満たされていった。
「……………………」
僕は何事もなかったかのようにシャーペンを筆箱にしまい、ノートを机の下にしまって、辞書を机にぶら下がっている鞄にしまおうとしたときに、美春の顔がぬっと視界から現れた。
「おお!!」
いきなり現れた美春の顔に僕は驚いて一気に後ずさった。
よくよく見ると美春の顔が現れたのではなく、僕の机のそばで美春がしゃがんで僕を見上げていたのだが、その美春は起き上がって、露骨な好奇心をむき出しにして僕に詰め寄った。
「一樹〜。お昼にしようぜ〜。そして、東堂院さんとなんか進展があった?聞かせて、聞かせて」
「おいおい!その前になんでお前がそこにいんだよ!まだ、授業が終わってそんなに時間が経ってないだろ!早すぎ、おまえはほんとに妖怪になったのか?それともテレポテーションでも使えるようになったのか?」
それに美春はきょとんとした表情になった。
「は?妖怪?別にそんなんじゃないよ。ただ、授業が終わったからダッシュでここに来ただけ。それより〜」
最初はきょとんとした美春もすぐにぐへへと醜く(みにくく)笑ってぐいぐいと体を僕に向けて詰め寄ってきた。
「香澄ちゃんと何か進展あった?」
「なにもないよ」
好奇心をむき出しにしてぬるりと絡みつこうとしているスライムに一撃を加えた。
スライムはちょっとへこんでいたが、しかしめげずに起き上がって詰め寄った。
「いや、なんかあるでしょ?具体的な進展はなくても挨拶をしたとか、すれ違いざま良いにおいを嗅いだ(かいだ)とか!……………ちょ!
一樹なにしてんのよ!臭いを嗅ぐなんて犯罪よ!いくら好きでもやって良いことと悪いことがあるわ。でも、燃え上がる恋心が押さえつけられなかったのね!わかる、わかるわ!一樹!私も一人のラブソルジャーであったからその気持ちはよ〜くわかるわ。恋をすると周りがみれないものね!………………って、あれ一樹は?」
美春は手振り身振りを交えながら一人で歌舞伎をやっている最中に僕はこっそり抜け出した。
幸いなことにもう教室に東堂院さんがいなかったので聞かれなくてよかった。バカの相手をするのはもうこりごりだ。




