子供になにが分かる!?
ゲッソリと憂鬱になる。
そんな日は必ず来る。
「超気まずい」
蓮山銅也は気まずかった。
なぜなら今日。家族だけでなく、親戚まで集う行事に来ているからだ。俺、忙しいからと言ったのに、そうはいかんと、家族から文句を言われる。
お前、忙しくないだろ?って絶対、内心思われている。事実そうだ。なんて言うわけねぇだろ!会いたくないんだ!そーいう気持ち!分からないだろ!
「大丈夫、銅也。お前は今、働いているじゃないか」
父はそう言うが。それって凄く傷付く。働いていないよりかはマシになったけれど、働いている以外の事は特に語られないし、ぶっちゃけ親父も、家族も何も分かっていない。語って欲しくもない。分かり合えない事だからだ。
俺自身、分かっていない時もあるさぁ。
「義妹さんは大学生になられたんですね」
「ええっ、そうです。彼氏との付き合いも長く、友達も多くてですね」
しかし、それ以上の苦味というのはある。
比較対象がいることだ。それも家族という一点からではなく、親戚という多方面から見られる仕打ち。義妹は充実した生活を送っているからこそ、こんな時の親父は饒舌になって。俺はまったく分からないから、相槌しかできない。そして、もっと人らしい生活を強いてくる。意味を分からずに。
「私達と血は繋がっていませんが、本当の家族として付き合っています」
それは親父だけだ。俺は絶対、義妹なんて認めない!なんで再婚なんかしたんだと、今でも怨む。クソ。クソ。クソーーー。
「え、ええ。妹は、トッテモ、デキルヒトデス」
すっごく、カタコトになってそれを認める。事実。そうじゃないか。
友達が沢山いて、彼氏までいて、大学はそんな有名じゃないけれど、武道の達人でもある。儀兄をサンドバックにするだけでなく、大人どころか、ヤクザ的な存在にすら喧嘩を売って、ぶちのめす最強の義妹だ。プロフィールだけの説明ならメスゴリラだ。
義妹は今な、親戚の子供達と遊んでいるけれどな。ゴリラだからな!メチャクチャ力があるからな!支柱を素手で砕く女だからな!騙されるな!あいつの方が人間じゃねぇ!!超人だ!
そんな義妹であることを知っているのか、それとも知らんふりをしているのか。
親戚という連中は事情を知らずに、自然に俺に尋ねてくるのだ。
「銅也くんはどーいう仕事をしているの?」
訊いてくる。以前だったら、『どーいう仕事をしたいの?』って、……その、ねぇ。
辛くないよ。だいぶ、辛くないよ。働いているからさ。バカにするなよ。訊かれる前より成長しているんだ。
「コンビニ店員です。バイトです」
「あ。そーなの」
「はい。大変です」
バイトって言った瞬間。親戚の顔が、『それはそれで大丈夫?』『給与低くない?』『ブラック企業じゃない?』みたいな面になる。目線が俺の下に行っているから分かるぞ。
そもそもな、働いている事を馬鹿にするなよ。誰だってできるような仕事に見えても、誰かがやってんだ!テメェが馬鹿にするような仕事をする、そんな人を笑ってんじゃねぇ!!
「これからご縁があるといいよなー」
「専門学校に行ったのにコンビニバイトになるなんて」
「現実って辛いよなぁ」
「上手くいかないのか」
笑えよ。そりゃダメでしたよ、俺。ニートになりました。アホだなーって事でしょ。良いですよ。それで。アホにしか務まらない事があるんだよ。生まれた命もあるんだよ。
キッとした顔で話をこれ以上しない事を伝える。分からないさ。わかんねぇだろうが。
あんたの苦しみが、俺にはまったく理解できない事と同じく。俺の苦しみが、お前等にはまったく理解できない。好きで仕事はしねぇさ、好きで人生やるさ。
長いことある時間、成功ばかりを楽しむわけねぇさ。
そんな強がり。そんな虚勢。悲しいし、虚しいし、悔しいし、嘘であると蓮山は自覚する。この自覚が崩れ去った時、自分は意味を失う。なにも戻らないのに、彼女を作れ、誰かと遊びにいけ、友達を作れだー?今更、バイトするような歳になって、作りも出来なかったことができるのなら。俺は夢を捨ててる。当に捨ててる。ちっとも分からない。
誰かと付き合う事は、まるで、意味のねぇことだ。俺は誰かの顔色や態度で一喜一憂する人格じゃない。
「ねーねー、おじちゃーん」
「ん?」
そんな自分の世界に入っている俺に、子供は尋ねる。丁度、知性も宿し始める年齢の子が、なーにも知らず。こんな落ちこぼれを嘲笑うように
「生きてて楽しいのー?」
こいつはホントに子供か!?そう思える、激怒したくなる発言をしてくる。きっと子供には、働いている仕事で格付けをしたくなるんだろう。チャラそうで学生さんがやっているような、いや。すでに僕でもできそうな事(笑)みたいな表情でコイツ、尋ねて来てやがる。
俺がいくら喧嘩が弱いからって、お前くらいシメられるぞ。たぶん、カッターナイフがあればいける!
「ふっ」
しかし、俺は働く大人だから。一笑する。
「坊主。まだ、わかんないだろう」
「うん。おじちゃんの存在が分からない」
話をもう纏めるな。ついでに人生も纏めるな。このクソガキ。俺が言いたいのはな。おじちゃんは止めてくれって、こととだな。
「人生はな、辛いことばかりだ。その中にある楽しみを感じるのが、人生なんだぞ」
「へーっ」
俺の言葉を、理解したかのように……
「おじちゃんの人生に楽しみなんてあるんだー」
「……あるんだよ?口には気をつけた方がいいな、君」
◇ ◇
家に帰って床に蹲る蓮山。だから、親戚連中と会いたくない。なにが親族だ。どいつもこいつも、……いや誰だって、馬鹿にされるのはコリゴリだ。馬鹿にされるような事をしている俺が悪いんだろうけど。そこは否定しねぇよ、俺自身にもだ。
「あーっ、あっ」
仕事なんか好きじゃねぇさ。辞めてやりたいよ。好きな事して生きていきたいよ。
「くっそー……」
みんなそうしてるから、みんな好きに生きられねぇーんだよ。多くは王様の休日みたいに、飯が出てきて、理解のある奴が隣にいて、幸せに笑える出来事が起きてるんだろ。俺もそうしたいが、少しの+αを入れる。
「のんちゃん」
その幼女が、生きる俺にとっての夢であり、希望であり、矜持であり、意味であり、嫁であり、娘であり、仲間であり、
「のんちゃん、のんちゃん、のんちゃん、……ごめんよぉぉっ」
決して、出てくる事のない現実。しかし、それだからこそロマンがある。笑っちまう頭の馬鹿さ。
「俺が、漫画家になれねぇから、……惨めな思いさせちまって」
胸張って生きたいよ。忘れて欲しいと思われるかもしれねぇ。
だけど、俺には君しかいないんだ。分かって欲しい。君に裏切られても構わないから、俺は君を愛する。
「頑張るさ。だから、見守ってくれ」
変わらないその表情でも、いつか自然に笑って見える。そんな日常を思い描いて、今日のペンには熱意が一段と入った。
蓮山のモデルは、作者に友達がいて報われてる理想象です。(今回はお前の友達だせんで、すまんなぁ)
現実の自分はもっとクズですね。
今日は一段と、作品にキレが入っているなぁーって思いながら書きました。