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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第一章
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研修期間

 それは、1992年に始まった物語。


 筆者の経験を基に紡いだ私小説です。

 人物や団体は実在しますが、特定を防ぐため一部フィクションにしています。


 長い歳月を経ても、あの人への想いは残ったまま。

 この気持ちを昇華させるために、忘れられない過去を書き出した物語。

 

 私の心の底にある想いを、たくさん詰め込んでいます。葛藤などの心理的描写が多く含まれます。

 

 一人の女の子の、「リアル」。

 どうぞ、最後までお付き合いください。


 <1992年――春>

 この物語の主人公―― 私こと、椎名美雪(しいなみゆき)は、高校卒業後すぐに就職をした。学生気分が抜けきらず、若葉マークがついた新社会人。まだ18歳だ。

 美雪を採用してくれたのは、東京の端に本社を置く、社員数約300名ほどの中小企業。電機メーカーの【陵北電機株式会社】(りょうほくでんきかぶしきがいしゃ)


 今年の新入社員は、総勢14名。

 そして只今、1ヶ月の研修期間の真っ最中。期間内は、更衣室から会議室へ一直線という日々。いつも、同じ会議室で過ごしていた。

 その他には、研修施設で1泊のオリエンテーションや、近郊の事業所などの関連施設の見学。とても充実した、有意義な研修をしてもらえる。社会人としての“イロハ”を教わり、叩きこまれたのも、この頃だ。


 毎日のように詰めていた会議室は、本社屋の2階。建物は、かなり古くて寒々しい。

 光が差し込まない階段や廊下は薄暗く、電球に小さな傘をかぶせただけの、あまり意味を成さない照明。社屋だけを見たら、絶対に入社を止めていた雰囲気だ。


 社内研修での“目玉”は、各部署による、部の紹介。30分毎に入れ替わり、資料や自社製品を持ってやってくる。研修で一番盛り上がったのは、技術部による説明だった。若い男性社員が勢揃いで、新人の女子が色めき立ったのは、言うまでもない。


 私の隣に座っている佐々木淳子(ささきじゅんこ)は、その中の一人の男性に、目が釘付けになった様子だった。

 次々に回されてくる製品サンプルを弄りながら、何がそんなに可笑しかったのか…。淳子ちゃんと私は、意味不明なツボにはまってしまい、俯き加減で、必死に笑いを堪えていた。

 なにしろ若い頃は、“箸が転がってもおかしい年頃”だから。


 目まぐるしく人が入れ替わり、手元の参考資料も増えていき、新人には疲労が見えてきた。――ようやく最後の部署。


 (これで終わる……!)


 気を緩めたのも一瞬で、次の瞬間には背筋がピンと伸びた。

 制服姿の男性社員が続いていたせいだろうか。会議室へ入ってきた、スーツ姿の人に緊張。最後は、会社の花形・営業部。やってきたのは、女性2人と男性1人。

 さっきまでの賑やかさが嘘のように、室内はとても静かになった。淳子ちゃんも、緊張の面持ちだ。


 私は、子供の頃からおとなしく、自己主張など出来ないタイプ。営業に関わる仕事は絶対に無理だし、そもそも考えた事がない。でも……営業にいる人って、バリバリと仕事が出来そうで、カッコいい印象がある。自分とは正反対の場所、スタイルに、憧れもあった。


 専門的な用語が出たり、自社製品の事を言われても解るはずがないのだが、息を呑むように頷きながら、真剣に耳を傾けた。

 初めて、仕事をすることへの“緊張”を、感じた瞬間かもしれない。



 研修期間を共にした同期は、本当に個性豊か。正直に言って、学校では絶対に友達にならないタイプが多かった。

 クラスの中心にいたであろう、明るくて元気いっぱいの子、目を惹く美人のお姉さん。お兄ちゃんキャラの大卒の男子、ネクラな雰囲気の男子……など。個性はバラバラだけど、「同期」という連帯感からか、男女問わずに、楽しい交友関係を築いていった。

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