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救出への決意、牧師の治療

リグは教会からのけたたましい音で目が覚めた。


体が重く、頭の中で鐘が鳴り響くように頭が痛んだ。


今の音は一体何だったのだろう。


何か胸騒ぎのするリグはフラついた状態で教会に向かう。


リグは教会の裏に着き、表の入り口を目指した。


さっきから血の匂いがどことなく漂っている事はわかっていた。

しかし、あの音がしてから急に血の匂いが強くなった。


もしかしてこれは ・・・。


胸騒ぎが止まらなくなり、教会の入り口へと急いだ。


しかし、入り口の扉はどうやっても開かない。

扉を壊そうにも硬くてビクともしない。


表の扉から入るのを諦め、教会の横にある窓からなら入れるかもしれないと思い立ち、建物の横へ回った。


横の窓はいくつかあったのだが、教会なのになぜか鉄の格子が付いていて、ガラスを破っても入れない事がわかった。もう少し回りで入れそうな場所がないかを観察し、教会の裏側で高い場所に付いているステンドグラスは窓枠にはめ込んであるだけなので、あそこから入る事が出来そうだった。


教会に背を向けて離れるように走り出した。


出来るだけ速く・・・そして一本の木に目掛けて思い切り跳躍した。


一番高い幹のところを目指し、全力で跳躍をした。


そして枝を掴み、体の向きを調整し太い幹にしっかりと両足を付け、教会の窓に向けて跳躍をした。


木から教会までの距離はリグの跳躍能力の範囲を超えていた。


失敗するかどうかなんて考えず、とにかく進む事だけを考えていた。


目が覚めてから教会に向けて跳躍している時もずっとネリーの事を考えていた。


なぜ、ネリーはあんな事を言ったのだろう。


なぜ、ネリーは自分に薬を飲ませたのだろう。

ネリーは一体、何を知らなかったのだろうか。



なぜ・・・なぜ・・・ネリーは・・・。


ずっとネリーの事ばかりだったが、ネリーに対して不思議と怒りはなかった。


きっと人に薬を盛らなければならない程の理由があったのだろう。


だからどんな思いがあったにしろ、リグは怒る事なんてなかった。

今はただ、ネリーの身に何かあったのでは?と不安が募る一方だった。


やはり遠すぎる。しかしこの高さの木はこれしかない。

全身の関節をバネのように柔らかく曲げて、一気に伸ばし、飛び上がった。


窓に届くかどうか微妙な高さだった。


届け!


必死に心の中で叫び続けながら届いた時のためにトレンチナイフを瞬時に、且つ態勢を崩さないように取り出した。


牧師は動かなくなったネリーの元へ近付いた。


牧師は感染者を何百人も見てきた。

だから会って数秒もしないうちに病がどの程度なのかがすぐにわかる。

自分に必要なのは初期か中期の者だ。

末期の者には興味がないが戦力にはなる。


だから自分と手を組んでくれる者は喜んで受け入れ、自分の手先となって働かせるが、従わない者、拒む者は一切の容赦なく病の撲滅と銘打って「治療」してきた。


だが、すぐに「治療」が終わってしまうのは面白くない。ある程度は楽しんでから「治療」を終わらせる。


まず、一撃で弱らせた後、相手の反応を見る。

勝てないとわかっていても向かってくる者、勝てないとわかってから意見を変え、従順を誓う者、逃げ出す者、多種多様にいる。


だが今回は少し例外が起こってしまった。


牧師が反撃出来ず、その後いつもより力を加え過ぎてしまったようだった。


もう死んでしまったのか?

今回は少し冷静になれなかった自分に落ち度がある。と、反省しつつ、ネリーの方へ近付いていく。


もし生きていたとしても、もう戦う事なんて出来ないだろう。息の根を止めて「治療

」を早く終わらせてあげよう。

それがこの者のためだ。


牧師は剣を握った手により一層力を入れた。


その時、後ろからガラスの割れる音がした。


お気に入りのステンドグラスが粉々に飛び散っていった。


リグは左足でガラスを蹴り破り、中へと飛び込んでいった。


そのまま地面に着地すると、そこにはいかにも殺人者の顔をした男と見覚えのある女が壁にもたれて血まみれで手足を力なく伸ばした状態で座りこんでいた。


牧師のニヤけていた顔が曇っていった。


「貴様ぁ、わしのお気に入りの・・・特注で作らせたステンドグラスに・・・!」


牧師は少年の顔となりを見て表情を変えた。


「おや、君も感染者か、ん?しかもまだ初期じゃないか!」


歓喜の声が飛んだ。


表情もいつものニヤけた顔に戻っていった。


「ガラスなんて張り変えればいい。しかし、よく来てくれたねぇ。歓迎するよ。」


「ネリーに何をした!?」


牧師とは対照的に怒りで顔は険しく体中に敵意が満ちていた。


「これも治療の一貫でね・・・そうか、さっき彼女が言ってたのは君の事だったのか!

丁度良い。彼女は君とこの国にはびこっている病を撲滅させるために尽力したいと言っていた。だが、彼女は今、治療中でね、君には協力出来ないんだ。だから私と手を組んで・・・」


「こんな治療があるか!ふざけるな!」


「れっきとした治療なんだがね、私はこの国を治療しているんだよ。私はこの国において、これから最も偉大で壮大な事を成し遂げようとしているんだ。私と手を組めばこの崇高な志を持った人にしか手に入れる事の出来ない力を手中に収める事が出来る。どうかね?」


「全く興味がないし、お前の汚れた野望に付き合いたいと思わない。それよりネリーから離れろ。」


「おいおい、私はこれから偉大で尊大な人間になるライグ・リドリー牧師だ。そんな人間をお前呼ばわりとlは随分だな。」



「おい、離れろ!」


「そうか・・・君も・・・」


リグはその場で立ちすくんだ。


目の前に牧師の姿があった。


「君が離れろと言ったから離れたんだ。なのに何だね、その表情は?嬉しくないのかね?」

何の言葉も出なかった。いや、正確には出す事が出来なかった。


「君も私が治療してあげた方が 良いのかね?」


牧師の左に持っている剣がリグの脇腹へと吸い込まれるように近付いていく。


リグは何とか後ろに飛び退いたが、牧師との距離は縮まってはいなかった。


「ん?不思議そうな顔をしているね。私の『跳躍』がそんなに珍しいかね?君だって出来るのだろ?まぁ、初期じゃあここまでは出来んと思うがね。」


リグはようやく理解をした。


ハンスの言っていたという牧師はいなく、代わりにこの殺人鬼がいた。治療薬などどこにもない。


ネリーはどこかで・・・多分昨日何かの拍子に知ってしまったのだ。牧師などいない、治療薬もきっとないのだということを。


ハンスからのメモを持ってきたのはネリーだ。一緒に行こうと言ったのもネリーだ。


ネリーは責任を取るため、一人で教会に向かう事を決めた。


リグは怒りに怒った。


こんな奴、ネリーが一人で何とか出来る相手じゃないだろ!


リグは寸前の所で牧師の攻撃を躱しながら後ろへ跳躍をした。


しかし、相変わらず牧師はリグの前に張り付き精神的にもリグを追い詰めていく。


リグは牧師からの軌道の読めない剣をやっとの思いで捌きながら焦っていた。


もう一回後ろへ飛んだら壁にぶつかる。


どう逃げられるか場所を確認する余裕なんてない。


リグはこの逃げ場のなく活路も見出せない状況に恐怖を感じてきた。


あろうことか死を覚悟していたはずなのに死への恐怖を感じている。



自分が滑稽に思えた。


どうせ死ぬなら派手に死ぬってのも悪くない。


リグは思い切り強く地面を蹴り、後ろへ跳躍した。もう少しで壁に体がぶつかる直前まで跳び、壁に足を当てて、右足を蹴って左へ滑るように跳び、体も右へ旋回させて牧師の攻撃を避けるつもりだった。


牧師はニヤけながら同じように跳躍し、壁を蹴ってリグと同じ方向を向いたまま跳躍を続けていく。


リグは下など見ていなかった。

床には沢山の長椅子が行儀よく並んでいる。


牧師から目を離したら確実に切り刻まれる。牧師を見たまま着地する場所に集中し、もう一度跳躍が出来れば・・・。

足の指だけでも引っかかれば・・・。


強く祈りながら椅子の背もたれに右足が付いた。

指も運良く全部付ける事が出来た。もう一度・・・。


だがここで跳躍する事は出来なかった。


牧師はニヤけていた顔を更にニヤけさせた。


「何だ?君は『跳躍』の限界を知らなかったのかね?まぁ病の進行時期によって、違うがね。」


リグの顔から血の気が引いていった。


「そうそう、その絶望に満ち溢れた表情を見るのが・・・」


牧師は上半身を左へ大きく捻り、最大限に力を剣に込めた。


「・・・何よりの好物なのでね。」


狂気に溢れ出した顔の牧師は捻り込んだ左の上半身を今まで見た事のない速さで元の位置へと捻り返していった。

戻した先には恐怖で顔面蒼白の少年がいた。


リグは聖堂の後ろの壁に飛ばされていき、同時に聖堂中がその凄まじい衝撃で揺れた。


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