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終わりなき

作者: 杭々

「あなたはこの家の子じゃないのよ。」


母に突然そんなことを言われた。

最初はいつもの冗談かと思ったが、声のトーンや表情から、嘘をついていないことが分かった。

では自分はどこの子なのか。

尋ねると母は先程と同じ真面目な顔で答える。


「小学校の裏山で拾ったの。」


バカバカしい。

いつからそんな真顔で嘘をつけるようになったのだ。

第一、そういうことを冗談でも言ってはいけないと私は母を叱った。

だが母は本当なのの一点張りだ。

それならば、その拾ったところに連れて行けと言うと、私を車に乗せて走り出した。

全く何を考えているのだろうか。

遂にぼけたのか。

そんなことを考えているうちに、その裏山についた。


「ここから先は歩きだから。」


そう言う母の顔からは考えが読み取れない。

木々の間を歩きながら私は考える。

仮に母の言うことが本当だったとして、私はじゃあ本当の親にこんな場所に捨てられたのか。

孤児院や病院といった施設ではなくこのような山中に捨てられていたのだとすると、私はその本当の両親にとって望まれない子だったということだろう。

目の前の母親だと思っていた優しく小太りの女性は私の本当の母ではない。

彼女から受けた愛情が偽りのものであるとまで言うつもりは決してないけれど、だからといって、寂しさや本当の両親への怒りが0になるわけではない。


「着いたわよ。」


母が私に声をかける。

意外と早く着いたな。そんなことを思いながら私は母の隣に立つ。

目の前には沼があった。

澱んでいて、そこが見えない。

底なし沼とはこれのことを言うのかもしれない。

ふうん。こんなところに捨てられたのか。

私は沼に近づく。

母は何も言わない。

私は沼に手を伸ばす。

水に触れる。

なまあたたかい。

そのまま私は沼へと歩みを進める。

ずぶずぶずぶずぶ。

びしゃびしゃ。


ずぶぶぶぶぶぶっぶぶぶぶぶ。

びしゃびしゃ。

ぬぷ。


ずぶぶぶぶっぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ。



肩まで入ったところで私は母の方を振り向いた。

母は、泣いている。


うん。

思い出したよ。


「私はここで溺れたね。」

「そうよ。」

「私は死んでるんだ。」

「ええ。」


そうか。これで五度目だ。

小学5年生の頃にここで溺れて死んだ私はその後母と地元住民の懸命な捜索活動によってこの沼の底から見つかった。


底なし沼、ではなかったのだ。


既に私は変わり果てた姿で、それでも愛する母の元に帰りたくて帰りたくて帰りたくて帰りたくて帰りたくて帰りたくて帰りたくて帰りたくて。


そしたら帰れたのだ。


そして帰るたびに、母は私を騙してこの沼に連れてきて、自分が死んだことを思い出させる。

そうだ。そうだった。


「お母さん。」

「なあに?」

「また・・・そっち行くかもしんない。」

「あんたの家なんだからいつ来てもらっても構わないわ。」

「うん。ごめんね。」



ずぶぶぶぶぶっぶぶぶぶぶぶぶうぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ。


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