1.転校
俺達は学校に向けて歩を進める。
二人並んで、恋人とは他人に思われない程の少し離れた距離を保ち、言葉を交わしつつ。
ここは4月の桜舞う大豆島。
「緊張するね~光くん」
「はあ、お前、緊張とかするのか?あのお前が?」
「私だって緊張ぐらいするわよ、悪かったわね」
「まあ、確かに毎回毎回慣れないよなあこの感じは」
「しかし、この島は本当に綺麗な所だね、最悪な景観だった前とは正反対」
「いや、水も空気も美味しいし自然も一杯、最高だよ」
「そうそう、本当前回の坂大市とは大違いね」
「あそこ本当ビルばっかだったもんな」
「ビルばっかのところに学校があるんだもん、証拠隠滅が大変で大変で」
「この学校なら思う存分暴れられるぜ」
「ちょっと~光、私達、目立っちゃダメなんだから。下手やったら…今回は本部に言いつけるわよ」
「はいはい目立たない男子も目指しますよ目指せばいいんでしょ今回も」
「これも任務を果たすためだから頑張ってね」
「でもこの学校って一学年一クラスしかないんだろ、楽勝楽勝」
「いや、でもここ、東都から余りにも離れた島で私達、失敗しても誰も助けに来てくれないんだから。だから気をつけなきゃ」
「失敗は許されない、細心の注意を払って任務を遂行しろ、だね」
「その通り。だから今度からこんな大声で意味深な話をしないことね、光くん」
「分かりました。俺は今回、無口キャラでいくから」
「ダメダメ、光くんが無口キャラとか演じきれるわけないって」
「え~ダメか?」
「前回無口キャラを演じて致命的な失敗をおかしそうになったのもう忘れたの?」
「あれ、そうだっけ?」
「あーもうダメなんだから。光くんは」
「分かったよ、じゃどんな感じでいけばいいんだ?」
「う~ん、とにかくキャラが立たないようにしないとね。あと、友達は普通に作ること。友達は作るけど親友はつくらないみたいな」
「あ~思い出した。前回無口キャラで陰の薄い一匹狼目指してたら逆に目だって先制攻撃されたんだった」
「そうそう。だからそこらへんのさじ加減が大事よ」
「じゃあ、俺は今回、運動神経がクラスで下から二番目の男子で、運動できないことにコンプレックスを持ってるせいで大人しい男子を演じるから」
「うんそんな感じでいいと思う。「一番運動が出来ない」だと目立つしいじめられるしね」
「お前は今回どうするんだ?」
「私は…まあ前回と同じで」
「え、またあれで行くの?あれはリスク高すぎなんじゃ…」
「いや、でもあれが一番情報を握りやすいからね」
「え~それなら俺だって…」
「あんたは戦闘役、私は情報提供役、役割分担よ、今回もそれでいいじゃない」
「はいはい、でも今回もお前あれでいくんだったらお前こそ気をつけろよ」
「言われなくても分かってるわ。私を信じなさい、光くん」
「はいはい、でももし今回もうまくいったら俺達、東都の名コンビと評されてもいいんじゃないか?」
「嫌よ嫌よっ!何であんたと名コンビって呼ばれなきゃならないのよ」
「いや、本当は嬉しいんだろ、俺とタッグが組めて」
「…蹴るわよ!」
「…そういう分かりやすいツンデレキャラはやめなよ…はっ痛えええええええええええ!!!」
くそっこいつ、本当に蹴りやがった。
しかも俺のマジで最も大事な部分を…
「三年A組、新任の教師となりました、安藤桃子って言います」
「ぜひ、下の名前で桃子先生って呼んでください」
「私はみんなと比較的年が近いので、お姉さんのように何でも相談できる教師になりたいと思いますっ」
「あ、ちなみに坂大生まれ坂大市育ちで、坂大大学卒業です」
「だから私は純粋な坂大人です、坂大と違って大豆島は自然が一杯でびっくりしてます」
「みんな何か私に質問はありますか~?」
大男が立ち上がった。
「先生…け、結婚してくださいっ!!!!」
クラス中が笑い声に包まれる。
「…えっ」
「お、俺は本気です、結婚してください!」
「あの、え、その、先生困っちゃうな…まずは自己紹介から…」
「お、大島です。大島一希です。バスケ部のキャプテンやってます。先生!まず恋人からでもいいので俺と…いや、とりあえずバスケの試合見に来て下さいっ!それだけでも俺頑張れます力がわきます勇気が出ますよろしくお願いします!!!」
「あ、いえ分かりましたとりあえずバスケの試合は見に行きますから…」
「あ、ありがとうございます!俺先生が来てくれたら超頑張ります!ダンク1試合50発決めてやります!」