夜食
『トン、トン』
ドアにノックがあった。
リリさんは反応しないだろうから、俺はドアに行って開けたのだった。
「こちらの部屋はいかがでしょうか?」
ドアを開けると、レリエルがいたのだった。
服はさっきの食事会と同じ黒のドレス。
やはり、みょうな色気を感じる。
「ものすごくいい部屋を使わせてもらってありがとう」
「お食事をお持ちしましたが、いかがいたしましょうか?
個室までお持ちしますが……」
食事会が終わるときに言っていた食事を持ってきてくれたのだった。
「個室まで運んで欲しい。できるだけ静かに。
リリさんが別の部屋で休んでるはずだから」
「わかりました」
俺はレリエルに食事を運んでもらったのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ありがとう」
俺は自分の部屋に食事を運んでもらったので、そう伝えたのだった。
「いいえ、とんでもございません。当然のことをしたまでです。
他に何かありましたら何なりとおっしゃってください」
「いや、特になにもな……。
そういえばあの時、なんで俺を助けてくれたの?
リリさんが俺を殺してしまうのが一番レリエル達にとっていいはずなのに……」
俺は聞きたいことがなにもないと伝えようとしたが、気になっていたことがあったので聞いたのだった。
食事会のときになぜ俺を助けてくれたのか?を。命がけで。
「あぁ、そのことですか。
あなたのことが好きだからです」
「なっ……」
レリエルはいきなり俺に抱きついてきた。胸があたり、とても柔らかい。
そして、上目遣いになって俺のことを見てくる。この表情もとても可愛い。
これは、何かの罠なのだろうか?
ただ、もし仮にそうだとしても罠を破れる自信がある。
今回、魔王城に乗り込んだときに数々の罠を破ってきたのだ。
だいぶ自信がついたのだった。
「ですが、私がこんなことをいきなり言っても信じてはくれないでしょう?」
レリエルは、急に俺から離れて、俺と反対の方を向いた。
俺は抱きつかれた感触がまだ残っている。
そして、物足りないと思ってしまう。また、抱きしめたいと……。
「すみません。
急に変なことを言ってしまって。
今日は、これで帰ります」
レリエルは流し目で俺と目を合わせて、部屋から出て行ったのだった。
これがあっちの世界だったらどんなに良かっただろう。
なにも考えずに恋ができたのに。
だが、今は違う。
これは罠かもしれないのだ。
魔王城の者達が単純な戦闘では勝てないと考え、違う方法で俺を殺しにきているのかもしれない。
今のところ、料理に毒が入っていたり、部屋に何か仕掛けがあるわけではない。
だが、これは俺のことを一筋縄ではいかないと考え、油断させる前準備なのかもしれない。
気を許してはダメなんだ。
だが、逆に、本当にレリエルが俺のことを好きだったとしたらどうだろうか?
それであれば、レリエルという魅力的な女の子が手に入る上に、魔王城も手に入る。
俺の魔王になる計画が、ちゃくちゃくと進む。
いいことだらけだ。
ただ、厄介なのはリリさんだ。
あの人をどうやって説得させるかだ。
俺はそう考えながら、軽く食事をして眠ったのだった。




