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部屋決め

「お食事のお味はいかがでしょうか?」


「おいしい」


俺はさっきのひと騒動が終わった後、レリエルと雑談をしながら楽しく食事をしたのだった。

だが、リリさんは食事を一口も食べていない。

ちなみに今、座っている席の順番は、レリエル、俺、リリさんの順番だった。


「食事はおいしいですよ。

めしあがってはいかがですか?」


俺はさっきから思いつめた表情をしているリリさんに話しかけたのだった。

そういえば、こっちの世界に来てから、一度も食事をしていないのだ。

お腹がすいてなければおかしい。


「ふん。

魔物がつくったものをよく食べれるわね。

それに、そこにいる女と一緒に食事なんてしたくなんてないわ」


リリさんはテーブルの上に並べられたいろとりどりの食べ物を見ながら言ったのだった。

何か汚らわしい物を見るような目をして。

その言い方は、俺がリリさんの仲間ということを考慮してもひどい言い方だと思った。

それで、俺はレリエルの方を心配そうに見た。

が、困ったような顔をしていた。怒った様子がなくてよかった。


「申し訳ございません。

私がいたらないばかりに……。

もしよろしければ、今日おやすみいただくお部屋にご案内いたしますが、いかがいたしましょうか?」


「案内してちょうだい。

それと、アレンもついてきなさい。


「ーーーえっ」


「『えっ』じゃないわ。

ついてきなさい」


「もしよろしければ、お食事を後でお持ちしますので、一緒に行かれてはいたしましょうか?」


「わかりました。行きます」


俺は仕方がなくリリさんと一緒に部屋へ行くことにしたのだった。仕方がなく。

食事はおいしいし、レリエルとの会話もはずんできていて、まだ食事会を終わらせたくなかったのだ。

だが、リリさんは『ついてきなさい』と言ったためにつきられることになってしまった。

リリさんは村人より弱いため、一人で部屋に行って魔物から襲われるのを警戒してでの判断だったのだろう。自分勝手な印象だ。

それに対して、レリエルはちゃんと気づかいができていると思う。

食事会での一連の対応からそう思ったのだった。


「じゃあ、さっさと案内しなさいよ」


リリさんは、いらいらしながら怖い顔をして言ったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



案内された部屋は広かった。

リビングの他に部屋が4部屋ある。

あっちの世界で旅番組で出てきたホテルのスイートルームを思い出させるような光景があった。

いや、さすが王城の部屋だけあって、それ以上の高級感を感じられた。

俺はこんな部屋を使わせてもらえるなんてありがたいと思った。


「いかがでしょうか?」


案内係りに選ばれた魔王城のメイドが、俺とリリさんに聞いてきたのだった。


「この部屋で、だいま……」


俺は『この部屋で、大満足です』と言おうとしたのだった。

だが、リリさんに止められた。


「この部屋は気に入らないわ」


「ーーーキャァッ」


リリさんはメイドを平手ではたきながら言ったのだった。

目つきが悪い。

リリさんは村人より弱いからメイドは痛くなかっただろう。

だが、雰囲気がこわい。

それに、俺が近くにいる以上、リリさんが俺に命令して殺されるということもあり得るとメイドは思っているだろう。

メイドはリリさんをこわがってガクガクと震えだしてしまったのだった。


「……すみ……………」


おそらくメイドは『すみませんでした』と言おうとしているのだろう。

恐怖で声にならないようだ。

そして、座り込んだ。


「大丈夫だから」


俺は見るに見かねて、メイドの背中をさすってあげた。

そして、数分後にようやく震えが止まったのだった。


「すみませんでした。

別のお部屋にご案内いたしますのでこちらへどうぞ」


メイドは次の部屋に案内してくれたのだった。

この後も、リリさんの嫌がらせのような行動は続き、7部屋目でようやく決まったのだった。

最初の部屋とほとんど変わらないような部屋に。

リリさんは、さっきの食事のときにレリエルから受けた屈辱を、メイドではらしたかったのだろう。

だが、その行為は理不尽な八つ当たりをメイドにしているだけに見えた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ともかく、リリさんがたおそうとしていた魔王はどっかに行ってしまった。

ここを拠点にその魔王を探して、たおそう」


今日、俺とリリさんが泊まることになった部屋のリビングに、2人でいたのだった。

最初は無言の時間が続き、気まずかった。

が、意を決して俺から話し出したのだった。


「ダメよ。

この魔王城全員を皆殺しにしなきゃ。

一族の無念がはらせないわ」


リリさんは先祖の無念を思い出しながら言ったのだった。


「それなら、自分でやったらどうなんですか?」


俺も先祖の仇だから魔王城の者を殺したいっていう動機はわかる。

が、自分の仇ではないので、皆殺しにしたいとまで思えないのだ。

それに、魔王城の者を全員皆殺しって、ただの殺人鬼じゃないか。


「私の状況を知っててよく言えるわね。

そもそも、あなたの人生は私のものって約束したでしょ?」


「しましたが、こんな命がけのものだって言ってませんでしたよね。

リリさんが俺にしてくれた高校入学以上の働きはすでにしてるはず。

今の俺の状況は、奴隷みたいなものじゃないですか?」


「そうよ。

奴隷に決まってるじゃない。

何言ってるの?」


「ーーーっつ……」


奴隷と言われて、俺は腹が立った。

魔王城の占拠なんて、リリさんの先祖でできたものは誰もいなかったはず。

それを俺は短時間でやったのだ。

それなりの働きをしたはず。

奴隷とまでいうことはないじゃないか?

俺はこの場で、俺はリリさんとの約束を反故にしたくなった。

そして、どっかへ行ってしまいたい。

が、勇者の能力で逃げられない。

それに、もともといた世界にいたらずっと不幸なままだった。

けれども、こっちの世界では自由に活動できるだけの力がある。不幸ではなくなったといえよう。

そういう風になれたのは、リリさんのおかげなのだ。

だから、ひどいことを言われたからって、そう簡単に見放すことはできない。

今はわかりあえなくても、話し合って、徐々にわかりあっていけばいいじゃないか。


「すみません。

こっちの世界に来たばかりで疲れてるので、そろそろ寝ませんか?」


このまま話し合っていても平行線になると思って、いったん時間を開けることを俺は提案したのだった。


「……、……」


リリさんは答えなかった。

俺はそれを了解したととらえ、それ以上何も言わず自分の寝る部屋に行ったのだった。


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