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不信感

俺とリリさんは魔王城の一室に案内されたのだった。

部屋には、10人程度座れるイスとテーブルがあった。

部屋には窓があり、魔界の森が見え、先に地平線が見える。

おそらくかなり高い位置にある部屋なのだろう。


「いったい、何を考えてるの?」


今、この部屋は俺とリリさんの2人だった。

リリさんの声は小さい。

が、表情から怒っていることはわかる。

質問の意図は俺が魔王城に残った魔物に降伏をうながしたことだろう。


「相手は降伏してきているのだから話を聞いてもいいのじゃないでしょうか?」


俺はできれば無用な殺しは避けたい。たとえ、魔物だとしても。


「この城の者達は、私の先祖を殺してきた奴らよ。

私の父だって……」


『ギィィィィ』


ドアが開く音が聞こえて、リリさんは話すのをやめたのだった。

話の流れから魔王城の者に聞かれたくないものだからだろう。


ドアを開けた者は、俺達に一礼して、次々と料理を運んできた。

いい匂いがする。

見た目もよく、彩りも鮮やかだ。


料理が運び終わり、少ししてからレリエルが中に入ってきて、俺のとなりにきた。

そして座らずに一礼をした。


「このたびは、お話をさせていただく時間をいただきましてありがとうございます。

まずは、お食事ということでよろしいでしょうか?」


「そうしよう」


俺は料理の美味しそうな匂いで早く食べたい。

レリエルは俺とリリさんの料理を小皿にとって2人の前に置いた。

そして、俺の隣に座ったのだった。

やはり、レリエルはとても綺麗だ。

ここに来る前に見たが、近くで見るとさらに綺麗だということがわかる。

そして、動くたびに綺麗な黒髪がゆれる。

服は黒のドレスだった。色香を感じる。


俺が見とれてしまっていると、レリエルはその視線に気づいたのか、俺の方を見て微笑みかけた。


「この城にあるすべてが、あなた様のものですよ」


レリエルは俺の耳に口を近づけて言ったのだった。

レリエルの息が耳にあたる。髪がほおにつく。

ほのかにいい香りがする。

俺は、女の子にこんなに近づいたことはなかった。

頭が真っ白になり、緊張していまう。


「なにやってるの?

そんな女、さっさと殺しなさい」


リリさんはテーブルを叩いて、俺に向かって怒鳴ったのだ。

かなり怒ってる。


「いきなり殺しなさいって……」


俺は驚いて、聞き返した。


「今のあなた人生は私のものなんだから、いうことを聞きなさい」


リリさんがそう言うと、俺は光に包まれた。

そして、全身に激痛が走り、俺は動けなくなった。

勇者のチート能力だ。村人より弱いくせに。


「痛いでしょ。

言うことを聞かなければ、このまま殺すことだってできるのよ」


「そこまでです」


レリエルは、リリさんののどもとに小刀を突きつけたのだった。


「いったいこれは?」


リリさんは驚いたようにつぶやく。


「私達はアレン様に負け、命を助けていただいているので、アレン様に従います。

もし、手を出そうとするなら、私が相手になります」


レリエルはリリさんに向かって言ったのだった。


「黙りなさい。

あのた、自分の立場をわかっているの?

私達に殺される立場なのよ」


「いいえ、リリ様こそわかっていらっしゃるのですか?

リリ様の力では私を殺すことができないことを。

そして、今、アレン様はリリ様の力によって身動きが取れなくなっています。

つまり、リリ様は隙だらけってことになるのですよ」


「ーーーうっ……」


「そういえば、リリ様のご先祖様に、いうことを聞かなかった仲間を勇者の能力で殺してしまったことがありましたよね?

アレン様はこの城の王になっていただくお方なので、そんなことにならないように私がお守りしますわ」


「ーーーぐぅっ。

でも、あなた達の仲間を殺したのはアレンよ。

そんな奴を王にしたいっておかしいんじゃないの?」


「魔界の住人同士の争いはよくあること。

それに、魔界の住人は基本的に自分より強いものに従いたいって思うものですわ」


今の状況は、見方によってはリリさんが一番立場が弱いだろうと俺は思った。

切り札である俺を勇者の能力で殺してしまえば、村人より弱いリリさんはたちまち魔物に殺されてしまう。

だから、俺を殺せない。


それに俺はレリエルの身方をしたくなってきている。

それは、レリエルの見た目に惚れたというわけではない。

レリエルの方が俺を仲間として大切に扱ってくれるという印象を受けるからだ。

リリさんは俺が言うことを聞かなければ、俺を痛めつけてもいうことをきかそうとしている。

労働者にムチを打って、無理やり労働させているのとなんら変わらないのだ。

そして、俺がリリさんの役に立たないとわかったら殺してしまうのだろう。


だが、レリエルはどうか?

俺を守るためにリリさんに刀を向けている。

その行為によって俺がリリさんを守るために、レリエルを殺してしまうかもしれないのに。

そんな危険をおかしてまで。

それに、俺は魔王を目指しているんだ。

そもそも勇者の言いなりになっている方がおかしい。


「わかったわ。

今は、おとなしくしているわ」


おそらくリリさんも、自分自身が一番立場が弱いということを理解しているのだろう。

そう言って、勇者の能力を解いたのだった。


だが、俺は今回の件で、リリさんへの不信感が高まったのであった。

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