魔王城を攻める
俺は今、草原の中にいた。
東に森があり、西に城が見える。ちょうど中間ぐらいだ。
ちなみに、さっき俺が斬り殺した魔物をかたずけに警備隊がたくさん来てたから、人気のないところに離れたのだった。
「あぁ〜、何回教えたらわかってくれるわけ?」
リリさんの呆れたような声が、また響いたのだった。
俺は今、リリさんからこの世界の勢力図について教わっている。
かれこれ3時間以上。
だが、いきなり色々言われたって正直覚えられない。
なぜなら中学受験の社会以上に覚えることが多い。
国のある地理やその国の歴史などなど……。
今まで生きてきたところの社会すらちゃんと覚えられなかったのに、いきなりきた世界の社会なんて覚えられない。
正直な俺の感想だった。
それに今の勢力図なんて、俺が魔王になったら変わるから覚える必要なんてないのに……。
「すみません。
覚えられなくて……。
けど、たおすべき魔王はわかりました。
一番の勢力が大きいところですよね?」
「まあ、そうだけど……。
いいわ、結局一緒に行くことになるんだから徐々に覚えていくこと」
リリさんは不満そうな顔をしていたが、仕方がないと納得してくれたようでよかった。
また、講義が始まったら大変だ。
それに、俺はさっきのチュートリアルで強力な能力を得てるんだ。
さっさと魔王城に行って魔王をたおしてしまおう。
なんだかこうやって講義を受け続けるくらいなら、さっきリリさんが言ったように魔王をたおしに行ったほうがいい。
もし、負けそうになったら、瞬間移動で逃げてくればいいじゃないか。
「さっきの地図を見せていただけませんか?」
「んっ。いいがどうする気なんだ?」
「ここの場所の魔王城に行って、魔王をたおせばいいんですよね?」
「そうーーーー。
ーーーーーーー。ーーーーーー。
ぎゃぁ〜〜〜〜〜」
俺はリリさんがラスボスとしている魔王がいる魔王城に、リリさんが話している途中で、瞬間移動をしたのだった。
さっさと魔王をたおしてしまおう。
「あの城って、私達が最後に乗り込もうって言っていた城だよね?
昔、ご先祖様が書いた絵で見たことがあるわ」
リリさんはビクビクしだしてる。
そりゃそうだ。
村人より弱ければ、すぐに死んでしまうかもしれない。
魔王城は本当に大きかった。
てっぺんは雲に隠れて見えなくなっているし、横はどこまでだかまったくわからない。
こんなに広いと制圧するのが大変そうだ。
「初めての瞬間移動は、成功でよかったよ」
俺は笑顔で答えた。
俺だっていきなりこんな異世界に連れてこられて驚いてるんだ。ちょっと怖かったりする。
リリさんもいきなり知らないとこに連れてこられる気持ちが少しはわかってくれただろう。
なんだか『スカッ』としたぜ。
リリさんから『なんでこんなところに来たの?』とか、『帰りたい』って言われる前にさっさと魔王城に入ってしまおう。
「じゃあ、行こう」
俺はリリさんの手を引っ張って魔王城の正門から入っていったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして、魔王がいると思われる部屋の扉のところに着いたのだった。
ここまでに来る途中、1000匹くらい魔物が襲ってきた。
が、俺にとって弱すぎて相手にならず、戦闘らしい戦闘にならなかった。
ちなみに敵は、この世界に来て初めてのたおした魔物より強いのがほとんどだったと思う。
「本当に、信じられない。
1代目がここにたどり着くのに、魔王城で道に迷ったりして1年以上かかったって聞いてるわ。
それにその時に連れてきた兵は一万人を超えたって……」
リリさんは驚愕の事実を突き立てられている顔をしていた。
リリさんの一族はずっと魔王退治に苦労してきたんだ。
だから、ここまで来ることの大変さはずっと語り継がれてきているのだろう。
それを、俺は1時間程度でやってしまった。
1代目の勇者の実績から考えて、俺は破格の強さといえよう。
もっと褒めてくれてもいいと思う。
「じゃあ、開けます」
そう俺は言いながら、ドアを開けたのだった。
ドアを開けると広い部屋だっだ。
いや、部屋というより、広場に近い。
よくファンタジーで見る王の広場って感じだ。
そして、王が座りそうな椅子には……、誰もいない。
というか、この部屋には誰もいなかった。
「えっ、これはいったい……」
俺は部屋に入らずに立ち止まってしまった。
「ちょっ、ちょっとこれは……。
そんなはずはないわ。
一族の言い伝えでは必ずここにいるはず……」
リリさんは中に入り、かけながら王の椅子に向かって走っていった。
何かを確かめるかのようにーー。
俺は今までリリさんから離れたことはなかった。
なぜなら村人より弱いリリさんは、ちょっと剣がかすっただけで死んでしまう可能性があるからだった。
だが、今離れてしまった。
俺はこの広場を囲むように魔物の気配があるってわかってたのもかかわらず……。
俺はリリさんを追いかけた。そして追いつく。
急いで走って行ったので隙だらけだ。
敵からすれば、今までにない絶好のチャンスだろう。
『ギュゥゥゥゥーン』『ドン、ドン』『バン、バン』『ドゴォォォォーン』
俺に向かっていっせいに魔法が飛んできた。
全方位から。文字通り。上からも、下からも。
敵もなりふり構っていないのだろう。
魔法が重なりあったりして、本来あるべき力を発揮できていないものもある。
その状態は、30分ぐらい続いた。
撃たれ続けている俺にとっては永久にも感じた。
その間、俺はリリさんを抱きしめて守り続けた。
「もういいわ」
魔法を撃ってきている側から、女性の声が聞こえた。
そう思ったら、攻撃が終わったのだった。
あの声の女性が魔物をまとめているのだろうか?
「何この黒い物体は?」
女性は驚きの声を出したのだった。
黒い物体を作り出したのは俺だった。身を守るために。
チュートリアルでもらった《混沌》を発動させた。
すると黒い闇によって、俺とリリさんのまわりがつつまれた。
そして、様々な攻撃魔法が混沌よって遮られ、俺達に傷は1つもつかなかった。
そして、《混沌》を解除して、俺達の姿を現したのだった。
「これ以上戦うつもりなのか?」
「なっ、勝手に何言ってるの?」
俺は攻撃を凌いでる間、もう魔物を殺さなくてもいいのではないのだろうかと思っていたのだ。
なぜなら、敵が弱いからだ。
それに、せっかく征服した城なんだから、俺の城として使いたい。魔物達も含めて。
だから、降伏をうながす言葉をかけたのだった。
だが、リリさんの考えは違ったらしく驚いた声を出してた。
が、今は無視をしておこう。
もし、魔物をたおすとしたら俺なんだから。
「降伏いたします。
私は、レリエル=サンストーンと言います」
さっき聞こえてきた声だった。
この魔王城を仕切っているものだろうか?
髪は長く黒い。そして気品がある。お姫様といった印象を受ける。
見た印象の年齢は、俺と変わらない。
「魔王はどうした?」
リリさんが叫んで聞いたのだった。
「魔王と臆病者たちは劣勢の状況を知って逃げました。
私は魔王の孫になります。
勇気を持って残った者達を私がまとめて戦ったのです。
が、敗れました。
私はどうなってもいいですから、他の者達は助けてください」
レリエルは跪いて言ったのだった。
悔しそうな声。震えている気がする。
「ダメ。
今まで人間達がどんなに苦しんできたことか。
ここで……」
リリさんはレリエルに向かって叫んで言っているのを、俺は手で止めたのだった。
「今日は俺達がいきなり攻めたんだ、ちょっとみんなで話し合わないか?」
「わかりました。
もしよろしければ、お食事でもご一緒にいかがですか?」
「そうしよう」
俺は降伏をしてきた相手とこれ以上戦いたくなかった。
レリエルは部下に食事の準備するように伝える。
そして、俺とリリさんは応接室へ案内されたのだった。