囚人
「意外とまっとうな食料が置いてあるじゃない」
リリさんは、ゼリエルが用意した食べ物を食べながら言ったのだった。
それに対して、ゼリエルが答える。
「そう言っていただいてよかったです。
リリアーナ様は料理にうるさいと聞いてましたから……」
おそらく魔王城での横暴ぶりについてゼリエルも知っているのだろう。
そして、リリさんが何度も魔王城の料理にケチをつけたことも。
「魔王城の料理よりも全然おいしいわ。
ううん、違うわ。
魔王城の料理っていうよりも、場所が悪かったっていうべきかしらね」
リリさんはため息まじりに話をした。
「リリさんにとって魔王城は、敵だらけのような環境でしたからね」
「違うは、アレン。まだ、君は私のことをわかってないようね」
「んっ?」
勇者の一族であるリリさんにとって魔王城は、敵の中に常にいるようで何を食べてもまずかったっていう話だと思ったのだが……。
もしくは、敵が作った料理だと思うと、何を食べてもまずいってことだろうか?
「レリエルと一緒に食事すると、どんな料理でも不味く感じるのよね。
あの女、なぜかいつもいたじゃない?」
リリさんはレリエルを強調して言ったのだった。
そういえば、食事をするときはいつもいたような気がする。
いなかったときも、あったような気もするが……。
そして、リリさんは続けて話す。
「どっかの誰かさんが、レリエルを助けて、またレリエルと一緒に食事をするようになるなんて、考えただけでやんなっちゃうわ」
リリさんはお皿の上にある食べ物をフォークで転がしながら言ったのだった。ため息をつくように。
どうやら俺がレリエルを助けるのが気にくわなくて言っているようだ。
俺は、リリさんに言ういい言葉がとっさに浮かばなかったから、スルーすることにした。
そして、リリさんは誰の反応もないから続けて話す。
「まあ、いいわ。
私が食べさせられた黒くて硬いパンを、今度はレリエルに食べさせてやるわ。
ふふっ、ふふふふふふふふふふっ」
リリさんは不気味に笑い出した。
ようやく反撃のチャンスが来たと思っているのだろう。
レリエルを殺そうと考えられ続けられるよりはまだいいが、どんな嫌がらせをしようと考えているのだろうか。
「えっ、黒くて硬いパンですか?」
今までずっと興味なさそうにしていたゼリエルが、急にリリさんに聞いた。ビックリしたように。
「そうよ。これっくらいの黒くて硬いパンよ。
下ネタじゃないわよ」
リリさんが大きさを伝えるために手で表現しながら言ったのだった。
でも、なんで『下ネタじゃないわよ』と言ったのだろうか?
いったい何を想像しているのだか気になる。
「それってっ……」
ゼリエルが話すのを途中でやめた。もしかしたら話すとまずい情報が含まれてるのかもすれない。
だが、リリさんも途中で話すのをやめられると気になるから聞き出そうとする。
「それってなに?」
リリさんの声はややさっきまで大きく、ちゃんと話しなさいとい雰囲気がある。
「言いづらいことなのですが……。
それに食べられたものを見てないので間違ってるかもしれませんし……」
「だから何?」
「黒くて硬いパンは、おそらく魔王城の囚人に食べさせるものです。
1食にパン2つと野菜とかの付け合わせを出してます」
「ーーえっ。
ーーーーーー、ーーーーーーーーー。
私には1食で1つしか出してこなかったわ。
あの女めぇ〜〜〜〜〜」
リリさんは驚いて、一瞬絶句した。
そのあと、怒りがこみ上げてきたのだろうさっきまでフォークで遊んでた食べ物を『ドスッ』と刺した。
まあ、囚人より悪い食べ物を食べさせられたと聞いていい気持ちになるものは誰もいないだろう。
きっと今のリリさんの頭の中でレリエルにどんな嫌がれせをしようか考えているに違いない。
俺はレリエルの話から話題を変えようと、
「そういえば、リリさん。
魔王退治はまだ続けるのですか?」
と聞いたにだった。
「そうね。悩んでるのよねぇ〜。
アレンがいれば、いつでも殺せるってわかった今、殺す意味があるのかなぁ〜って」
俺はそれでいいと思っている。リリさんと違って、俺には前の魔王にうらみがあるわけではない。
「そうですね。誰かがあの国を治めないと困る人がたくさん出てきちゃいますもんね」
「んっ?
何言ってんのアレン。逆よ、逆よ」
「ーーえっ」
逆っていったいどういうことなのだろうか?
「人間界のためにやってきたはずなのに、戻ったらいきなり死刑宣告を受けちゃったでしょ。
なので魔王を生かしておけば、人間界が困るからいいかなぁ〜って思って」
リリさんはまだまだだなって顔をしている。食べ物のついたフォークを上に向けて左右に振りながら。
リリさんの勇者らしからぬ発言は今に始まった事ではない。
だが、毎回驚かされてきている気がする。
まあ、結論にいたるまでの過程は全然違うが、結論は同じだからよしとしよう。
「ねぇ、アレン。
明日の朝は、早く起きてレリエルの処刑場に行く気なんだよね?」
ミカが頃合いを見て話しかけてきたのだった。
「そうする予定になる」
「じゃあ、よかったら、私が夜の見張りをするからゆっくり休んで大丈夫だよ」
俺は『えっ、悪いからいいよ』と言おうと思ったけど、せっかくミカが気を使って言ってくれたのだから言わないで、その通りにすることにした。
ミカも反魔王城のグループにいた時にやってきた仕事で色々経験してきて、夜の見張りも慣れているのだろう。
そうして、落ち着いてから、俺は休みを取ったのだった。




