黒い蝶
俺は昼ごろまで寝てしまった。
それは、ミカたちと一緒に仕事をして徹夜だったこともあり、疲れていたのでいくら寝ても寝足りなかったのと、誰からにも起こされなかったからだ。
俺のまわりを見ると、リリさんもミカも寝ている。
ミカは寝るまで仲間だと思ってたものに裏切られたりして、逃げ回ってたから、疲れて眠っているのはわかる。
が、リリさんはずっと部屋で引きこもっていたのだ。だから、眠いはずはないのだが……。
寝る子は育つってやつだろうか?
(ゼリエルは大丈夫だろうか?)
俺は気になってゼリエルのところに行ったのだった。
「ああ、アレン様。ゆっくりと休めましたか?」
ゼリエルは優しく微笑みながら言ってくる。
「おかげで久しぶりにゆっくりと眠れたよ。
ところで、ゼリエルは寝なくても大丈夫?」
「大丈夫です。このためにずっと訓練を積み重ねてきましたので。
あと、相談したいことがあります。
この秘密基地の入り口に、朝方から黒い蝶がいるのですが、どうしようか困ってまして。
おそらく誰かが私たちに何かを伝えたくて送ってきたものだと思われます。
何も確認せずに殺してしまうか、確認するかどうしましょうか?」
「俺は確認したほうがいいと思う。
どっちにしろ使い魔がここにきているってことは、俺たちの居場所がばれているのだろうし」
「わかりました。では、捕まえてきます」
「頼む。全員で内容を確認したほうがいいと思うから起こしてくる」
「お願いします」
ゼリエルはそうして、通路からそとにゆっくりと出て行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「では、みんな集まったので、この黒い蝶がどのような情報を持ってきたか確認しましょう」
ゼリエルはそう言って、黒い蝶に魔力をおくったのだった。
おそらく魔法を使って蝶を捕まえて、それを解く魔法を使ったのだろう。
蝶は置物ように止まっていたが、ゼリエルの魔力を受けて『ヒラヒラ』舞い上がる。
そして、壁に光をあてたのだった。
映像を最初に映し出した段階では『モヤモヤ』として何を見せようとしてるのかわからなかったが、徐々にクリアになっていった。
見たことのある顔。レリエルだった。
「ーーなっ。こいつが送ってきたものなの!」
リリさんは嫌な物を見たように、言い捨てた。
昨日、リリさんを殺そうとした者の顔だ。見たくはないだろう。
「いちお、最後まで見てみましょう。
現在の魔王城の様子がわかる可能性がありますから。
んっ?場所はなぜか牢屋で、鎖につながれているようですが……。
何かあったのでしょうか」
ゼリエルが映像について解説をした。
確かにレリエルの手は上に上げられ、鎖に繋がられ、ぐったりしたように下を見ている。
表情はよくわからないが、悔しそうで、悲しそうで、つらそうだ。
いつも着ている高級そうな黒いドレスはボロボロになっており、鞭でできたと思われる傷あとがいくつもあった。
『この映像を急に送ってしまって、ごめんなさい。
おそらくアレン様とゼリエル、リリアーナ様、あと私が知らない女の子が見ているのだと思います。
………、………。
まず、リリアーナ様、殺そうとしてしまって、申し訳ございませんでした。
また、今までの無礼な対応をお詫びいたします。
それで、4人にお願いがあります。
4人がいなくなってから、前の魔王を魔王城に呼び戻しました。
その後、私は無実の罪を前の魔王にきせられて、4人がいなくなってから2日後の朝に私は死刑にれることになってしまったのです。
場所は、アレン様が敵軍と一騎打ちをした場所になります。
こんなことをお願いできる立場だと思っていませんが、どうか助けていただけませんでしょうか?
お願いします』
黒い蝶はレリエルのメッセージが終わると、光となって消えたのであった。
「ふん。こんなの絶対にレリエルの罠よ。助けに行く必要なんてないわ。
それに、アレンはレリエルと奴隷契約をしてるんだから、前の魔王が殺す前にアレンが殺しちゃえばいいじゃない?」
「ーーうっ」
そういえば、リリさんはレリエルと食事を最初にした時に、『殺しなさい』と目の前で言ったのだった。
もしかしたら、あの時、殺しておけばよかったって思ってるのかもしれない。
だが、奴隷契約をしたことによってできることは何もそれだけでない。
呼び出すこともできるのだ。
「アレン。今、レリエルを呼び出そうとしたでしょ?奴隷契約による力を使って」
「ーーうっ。なんでわかったのですか?」
「アレンは、レリエルを肉の塊にしたいんじゃなくて、肉奴隷にしたいんだもんね?」
リリさんはニヤニヤしながら見てきて、俺の反応を楽しんでいるようだ。
「ーーんっ?」
ミカが今まで興味なさそうにしてたのに、急に反応した。
驚き、聞き間違いでわ?と言う表情でリリさんを見ている。
「そんなことはないですよ。
私に変な性癖があるようなことを言わないでください」
でも、レリエルの下着姿を見たことがあったが、とても綺麗だった。
正直なところ触りたいと思ったことがあるのは確かだ。
「ふぅ〜ん。
じゃあ、メチャクチャにしたいんだ?」
「ーーえっ?」
ミカが驚いてまたリリさんを見た。
「そんなことはないですよ」
リリさんのニヤニヤした表情は変わらない。
だが、メチャクチャってなんだ?
なんだか肉奴隷より卑猥な気がするのはなんでだろう。
俺はそんなことを考えながら、否定したのだった。
「そんなことよりも、どうしますか?
おそらく、前の魔王もレリエルとアレン様が奴隷契約をしたことを考慮して、呼び出されたり、殺されないように魔法で対策をしていると思われます」
ゼリエルが俺とリリさんの話の流れを終わらせるように話しかけてきた。
「さっき何度か奴隷契約の力を使って呼び出そうとしたのだが、無理だったのはそのせいだったのか」
俺はリリさんとやりとりしている間に、レリエルを呼び出そうと何度かチャレンジをしたのだった。
結果はダメだったが……。
「すると助けたいと思っていられるのですね?」
ゼリエルは、俺がレリエルを呼び出そうとしたことを聞いて、そう言ってきた。
そんなに驚いてなさそうだ。なんでだろうか?
「そうだ」
俺はレリエルを助けたい
どうしてこんな状況になってしまったのか聞きたい。決して、体のためではない。
「絶対ダメよ。
あっ、アレン。レリエルを生きたままここに連れてきて、私に殺させようとしてるの?
一族のうらみを少しでもはらすために」
なんだか恐ろしいことをリリさんが言い出した。
時々出るリリさんの勇者とは思えないような発言。
「ーーえっ」
ミカがリリさんの発言を聞いてまた見た。
内容がひどすぎて驚いたのだろう。
「違います。
レリエルが捕まっている場所はわからないので、明日の処刑のときにレリエルが姿をあらわしたら、そこでさらいます」
俺はゼリエルを見ながら言った。
「わかった。そうしよう」
そうして、みんなで秘密基地に貯蔵されている食べ物で食事をとったのだった。




