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勇者チート能力

「ーーえっ〜っと。どちら様でしょうか?」


『グオォォォォォーーン』


俺が目の前にいるピンク色の髪の少女に話しかけた時、魔物の声が聞こえたのだった。

俺たちの方に向かってくる。ものすごい勢いで。

ピンク色の髪の少女は、どう考えたって戦闘ができそうな雰囲気はない。

腰に見事な剣を身分不相応に身につけているが、振れるほど腕力はなさそうだ。


(まぁ、いい。俺がさっきもらった力を試してやろう)


俺がそう思い、刀を抜き相手を観察する。

体は大きい。3階建ての家より少し大きいくらいか。

そして大きな棍棒を持っている。電柱くらいの長さがあり、太さは電柱の3倍くらいありそうだ。

あんなので叩かれたら、車も簡単にペッチャンコになってしまうだろう。

肌はこげ茶で固そうだ。


そう俺が観察していると、警備隊と思われる格好をした者たちが10数名やってきた。

弓矢で攻撃したり、剣や斧で攻撃している者がいる。

装備もしっかりしていて、それなりにレベルが高そうだ。

だが、次々とたおされていっている。


俺は初めての戦いで、強い魔物とは戦いたくなかった。

チュートリアルですでに魔王をたおせるだけの力があるとは言われた。

けれども、まだ戦ったことがないため、どれだけ俺自身が強いのかわからないのだ。

だが、俺のところに向かってくる以上、どうにかしなければいけない。

そう戦いの意思を固めた瞬間、体に力がみなぎってきた。

あっちの世界では感じなかったものだ。


(斬りかかればなんとかなる)


俺はなぜかそんな気がした。

そして、魔物の頭のところに一瞬で移動して、刀を振り落としたのだった。

すると『スゥーー』っと斬れていった。

豆腐を包丁で切るよりも簡単に……。




「助かったよ。ありがとう」


「いいえ」


俺が魔物をたおした後、警備隊がお礼を言いに来てくれた。

さっきの魔物に攻撃され、装備はぼろぼろだが、みんな体を鍛えている様子が伺えた。


「さっきの魔物は最近このあたりでよく暴れていてね。

それで、王国で一番の強い騎士に依頼してたおしてもらおうとしたのだが、逆にやられてしまって困っていたところだったんだ。

本当にありがとう」


警備隊の中で一番偉そうな人から握手を求められ、何度もお礼を言われたのだった。

そして、馬に乗ってどっかに行ってしまった。


王国一番の強い騎士をたおした魔物を、簡単にたおしてしまったということは、それなりに俺は強くなっているのだろう。

チュートリアルで言われたことは多分本当なのだろう。


急に出てきた魔物の危機が過ぎ去り、俺はチュートリアルのイベントが終わったあと目の前にいたピンク色の髪の少女の前に戻った。

ピンク色の髪の少女を見ながら、チュートリアルのときにいたあの優しそうな男の言葉を思い出す。

俺を異世界に連れてきた勇者のとこに飛ばすって言っていた。

だが、その意味を今でもよくわかっていない。

俺を異世界に連れてきたのは、藤原さん。

勇者は、知らない人。

飛ばされた先にいるのは、ピンク色の髪の少女。

今、起きている状況が、どれもちぐはぐなのだ。


だが、ピンク色の髪の少女は可愛い。

身長も女性の平均より低いだろう。

そして、俺のことを心配そうに上目づかいで見てきてる。

仕草もなんだか可愛い。

藤原さんは上品さがあって大人っぽい雰囲気がある。

が、目の前にいる少女の雰囲気は全然違う。

小さくて守ってあげたくなるような雰囲気がある。

動物で例えるなら、小動物。うさぎとかリスとかだろうか。

また、服装も村人みたいな質素な服を着ていてなんだかいい。接しやすい印象を受ける。

俺は、魔王の中の魔王をジョブ選択をしたんだ。

まずは、ここから好き勝手してしまっていいのだろうか……。

いやダメだ。

好き勝手の行動はもう少しこの世界を知ってからにしよう。


「あっ、君はこの姿を見るのは初めてだったのだな。

私は、藤原だ。

いきなり魔物をたおしてしまうとはすごかったな」


俺があれこれ考えていて何も言わなかったので、女の子から話しかけてきた。

けど、藤原さんだったなんて、全く想像できなかった。

おもかげが全然残っていない。


「えっ、ええっ、見た目が変わってるのですが……。

どうしてしまったのですか?」


俺は疑問に思ったことを素直に聞いた。


「こっちの世界に来ると姿が変わるのだ。

あっちの世界と部分によっては、逆になる傾向にあるようだ」


そうなのか。

だから、目の前にいる藤原さんは、あっちの世界と雰囲気が変わっていたのか……。


「あの、チュートリアルのときに、『勇者のところに飛ばす』と言われたのですが……。

どういうことでしょうか?」


「あっ、そのことも話してくれたのか。

私は、99代目の勇者になる。

こっちでの名前は、リリアーナ=アイアゲート。リリって呼んでくれ。

実は、レベル100の1代目が魔王に殺されてしまったのだ。

それで、死んだときに、殺されて悔しかった1代目がチュートリアル担当に異世界に転生させてくれって願ったのだ。

そしたらあっちの世界に転生させてくれて、1代目が2代目になってまた魔王と戦ったのだけどまた負けちゃったの。

その後、ずーっと子孫があっちの世界で生活しながら、こっちの世界の魔王に挑んできたってわけ。

けれどの年々弱くなっていってしまってね。

理由は、私達の一族は、勇者やってるだけ全員真面目でね。

あっちの世界で真面目に働いてたら大成功しちゃって、徐々に大金持ちになちゃったの。

あっちの世界で幸せだと、こっちの世界で弱くなっちゃうから、私はレベル1になってしまった。

ちなみに、私と同じ歳くらいの村人の女の子でも、レベルは3から5くらいあったりするわ」


リリさんは自信満々に言ったのだった。

村人より弱いなんて誇れるものなんてないと思われるのに……。

要するに、リリさんは勇者の一族の子孫で、代を重ねることに弱くなっていってしまったらしい。

それで、今では、村人よりも弱いってことみたいだ。


「それで、君はジョブをどうしたの?」


「魔王の中の魔王です」


「そうか」


「えっ、ええっ。

勇者であるリリさんは、俺が魔王で困らないのですか?」


「あぁ、困らん。

魔王って言っても、魔界には色々な国があって、それぞれの国に魔王がいるのだ。

私がたおそうとしているのは、昔から人間界に悪さをしている魔王でな。

ところで、君はこっちの世界での名前はなんなのだ?

チュートリアルが終わったあとポケットとかにカードが入ってるはずなのだが……」


俺はコートの服の中をあさった。

すると見慣れない形の文字が書かれたカードが入っていた。

だが、読める。


「俺の名前は、アレン=レムリアンシードと書かれてます」


「そうか、こっちの世界ではアレンと呼ぼう。

じゃあ、これから魔王をたおしに行こうか?」


この村人より弱いリリさんは、ピクニックにでも行くみたいな口調で言ったのだった。

レベルの高いご先祖様が負け続けた魔王に。

俺はこっちの世界でも不幸が続いてしまっているのかって思った。

俺はどうせ不幸から逃げられないのだろうと。

チュートリアルの優しそうな男が言ってたように、不幸と書いて楠なのかもしれない。


ーーいや、待てよ。

俺は魔王の中の魔王になるのだ。

素直に話を聞く必要があるのか?

チュートリアルのときに能力を得たじゃないか。

さっきの魔物をたおせるくらい俺は強くなっているってことは、村人より弱いリリさんからであれば簡単に逃げられるだろう。

確かに、ここに連れてきてもらったことに感謝はしている。

だが、村人より弱いリリと一緒に魔王と戦いに行って、まだ死にたくない。

チュートリアルで魔王に勝てるとは言われたが……。

じゃあ、逃げてしまおう。


「ふっ、ふふふふふっ」


あれ、どっかで聞いたことあるような笑い声。リリさんの声だ。

何か自信ありげだ。

村人よりも弱いくせに。


「今、逃げてしまおうって思っただろう。私が村人よりも弱いと知って。

私が君に逃げられる可能性を考えてなかったって思うか?

ふっ、ふっふぅっー」


「……、……」


あっちの世界でも経験した流れだ。

なんだかやな予感がする。

よし逃げよう。早く逃げよう。

俺が今まで生きてきた不幸察知能力が全身で警報を鳴らしている。

そうした瞬間だった。


《勇者チート能力発動》


リリさんが俺に向かって何か光るものを放ったのだ。

俺はその光に包まれる。

俺はそれに関係なく逃げようとするが、リリさんから放たれている光りに包まれて思ったように動けない。


「アレン」


俺はリリさんに名前を呼ばれた。

すると、リリさんの前に一瞬で戻されたのだった。


「逃げようとしたって無駄だ。私には勇者チートスキルがあるからだ。

このスキルは、勇者が選んだ仲間と旅をするためにできたものだ。

それに、あっちの世界で、君の残りの一生は私にくれると言ったろう」


俺は、リリさんを勇者ではなく、悪魔のように見えたのだった。


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