ナイフ
夜、暗くなってから商家の家へ突入が始まった。
突入前のときは戦闘になるかもしれないと言っていたのにもかかわらず、実際には戦闘になることはなかった。
突入に邪魔な者達は、全部クレールの魔法によって眠らせてしまったのだ。
町の傭兵レベルであればたいてい効果があり、魔法にかかると1日くらいは何があっても起きることはないらしい。
確かに忍び込むにはうってつけの魔法といえよう。
商家の家にグループの者達が入り、盗みを開始し、慣れた手付きだった。
人数も思っていたよりも多く、50人くらいいるようだった。
俺は何もせずに終わりかと考えてたら、魔王城警備隊がやってきた。
「くそっ。訓練された兵士が警備隊としてきたようだ。
私の魔法がきかない」
クレールが叫んだのだった。
俺のグループに入るテストもかねているので、俺が対応することにしたのだった。
警備隊には、ゼリエルがいたのだった。
大将軍が率いる兵士にはクレールの魔法は効かなかったようだ。
魔王城にいるときと違い、俺は仮面を被り、別のコートを着ているからゼリエルに俺のことがわからないはず。
だから、ゼリエルに向かって俺は刀をかまえたのだった。
ゼリエルから気迫が伝わってくる。
俺が一瞬、仲間の動きが気になってそっちの方に目をやったとき、ゼリエルが槍でついてきた。
隙をついてくるのがうまい。
俺にとって嫌なタイミングで次々と攻撃してくる。
俺がかわしたゼリエルの槍が岩にあたり砕ける。それなりに威力があることがわかる。
だが、俺にとって敵ではない。
ゼリエルから10発程度攻撃をさせかわした後、俺は槍を破壊し、左手でみぞうちを殴り気絶させた。
そのあと、他の警備隊を一瞬で全員気絶させたのだった。
俺が警備隊の相手をしている間に、盗みは無事に終わったらしい。
「じゃあ、そろそろ引き上げるぞ」
というクレールの声が聞こえてきた。
そして、全員ちりじりにグループのアジトに向かって走っていったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここが我々のアジトになるわ。どう?」
商家から引き上げるときにミカに手を取られ、案内してくれたのだった。
グループのアジトは、国の塀のそとにあった。
地上の扉を開き、地下へ続く細い道を通って行くと、広い広場があった。
サッカーコート2つ分程度はあるだろうか?
そこから、いくつか細かい部屋や別の出口につながってたりするらしい。
「思ってた以上にしっかりとした作りで驚いた」
俺は率直な感想を伝えた。
「昔の魔王時代に築いたものらしいよ。
頭領しか知らないような秘密もあったりするみたい。
まぁ、私達には関係ないことだろうけどね。
これから任務達成の食事会が始まるの。
私が料理を取ってくるから一緒に食べよう」
ミカが笑顔で言ってくれたのだった。
「わかった」
俺は他に知り合いがいるわけではないのでお願いしたのだった。
広場にいる人数は100人ていどいるように見えた。
「君は強いんだな。
ゼリエルが出てきたので何人か犠牲になることも覚悟したのだったが、逆にやっつけてしまうだなんて。
そんなことをできる奴なんて、このグループにはいない。
グループに歓迎するよ」
俺とミカが一緒に料理を食べてると、クレールが来て話しかけてきたのだ。
「ありがとうございます」
グループに入るテストは無事に合格したらしい。
そして、握手を求められたので、握手をしたのだった。
気さくで、仲間想いの印象を受ける。
だから、このグループにいる人達は生き生きとしているのかもしれない。
「じゃあ、私は他の奴らの様子をみにいかなきゃいけないからもう行く。
ミカ。ちゃんとやるんだぞ」
「なっ、なっ……ほっといてください」
クレールは頭領としてできるだけ全員に声をかけるつもりなのだろう。
10分もしないうちに違うところに行ってしまった。
ミカはそのクレールに対して、慌てたよう答えたのだった。
なにをちゃんとやる必要があるのだろうか?
俺にはまったくわからない。
そのあと、食事会が3時間程度続き、大人達は酒に酔い、酔いつぶれたり、そこらへんで寝だす者も出てきた。
「そろそろ、時間も経ってきたから、中締めでもするか。
今日は、副頭領のグニラから話があるらしい。
それなので、副頭領に締めさせる」
クレールが広場の奥にある小高いところに立って言ったのだった。
小高いところの下にいる男がグニラだろう。
猫背で痩せていている。どこか下品な印象を受ける。
こういった反政府的なグループより、コソ泥のグループにいた方が合いそうな気がする。
グニラの名前をミカが聞いたとき、「あいつはいけすかない奴だから気をつけた方がいい」と耳うちしてきた。
そして、クレールとグニラが場所をいれかえるためにすれ違ったとき事件が起きた。
クレールがたおれたのだった。
腹にナイフが刺さり、血が出てきている。
「クレールは俺が刺した。
使えないクレールに変わって、この俺がグループの頭領になる。
ははっ、はははははははははっ」
グニラは大きな声で笑いだしたのだった。




