黒いパン
「いったいどこに行っていたの?」
俺は、ミカっと約束した時間まで暇になったから、魔王城の自分の部屋に戻ることにしたのだった。
誰もいないところで。瞬間移動を使って。
そして、部屋に戻ったらレリエルがいて、そう言われたのだった。
昼食を一緒に食べようと待っていてくれたらしい。
やや怒っているような気がする。
長い時間待っててくれたのだろうか?恐ろしくてどれくらい待っててくれたのか聞けない。
「すまない。
昨日、国の運営の話になったので、気になって城下町を見てきたんだよ」
俺はそれだけ伝え、ミカのことは話さなかった。
「そう、まあ、いいけど。
私も色々あってかまってあげられなくてごめんね。
もう少しすれば余裕ができてくると思うんだけど……」
「ありがとう。
こっちの世界でゆっくりと街をまわるってことはなかったから新鮮でこれはこれでよかったよ。
夜も気になるから、帰りは明日になるかもしれない」
「夜は危ないから気をつけてね。
なんかゼリエルも今日は戻ってこないとか言っていたような気がする。
あと、リリアーナ様を呼んであげたら。
アレン様がいないと部屋から出てこれないみたいよ」
最弱勇者であるリリさんは、部屋から出て魔物に殺されないかとビビって出てこれないらしい。
そんなにビビるなら、横暴な態度を取らなければいいのに。
そうして、俺はリリさんの部屋に行ったのだった。
「遅いわね。
いったいどこに行ってたの?
私を餓死させる気?」
リリさんは俺が部屋に入るなり、怒ってきた。
「遅くなってすみません。
あと、今日の夜は戻ってこないかもしれないから、メイドに料理を部屋に置かせて、部屋からいなくなるように伝えておきますので」
俺はリリさんにすまなそうに伝えた。
「わかったわ。
アレンも自由な時間が必要だしね。
どうせ困ったら、勇者チート能力で呼び出せばいいだけだしね。
これでも我慢してあげてるのよ」
リリさんは上から目線で言ってきた。
感謝しなさいという声が聞こえてきそうだ。
「ありがとうございます」
俺はなぜかお礼を言ってしまったのだった。
お礼を言う必要があったのだろうか?
必要はないが、リリさんとの力関係でつい言ってしまったのだろう。
「じゃあ、ご飯でも食べよっかな」
俺とリリさんはリビングに行ったのだった。
「あれっ。私の食事は?」
リリさんはレリエルに案内された席に座って最初に言った言葉だった。
リリさんの目の前には、10cmくらいの丸いパンが一つ。黒くて固そうだ。
「目の前にあるものですが?」
レリエルは当然と言わんばかりに答えた。
「えっと、私の目の前にあるのは、黒くて丸い固そうな物体なんだけど。
こんなの奴隷が食べるような食べ物じゃない?」
リリさんはレリエルをにらみながら言ったのだった。
「いいえ。勇者様の食べ物です。
それに、物資が足りないから食べ物を質素にするって言ったのは、リリアーナ様ですよね?」
「ーーーうっ……。
なんだか勇者って、奴隷と同意語で使われているような気がするけど気のせいかしら?」
リリさんはフォークを握りしめて、プルプル震えながら言ったのだった。
怒っている。怖い。
レリエルはリリさんをこんなに怒らせて何がしたいのだろうか?
「いいえ。
尊敬を込めて『勇者』という言葉を使ってますわ。
苦しんでいる民を気づかって、質素な食べ物で我慢しようとされる。
さすが、勇者様ですわ」
レリエルはわざとらしく言った。最後の『さすが、勇者様ですわ』だけゆっくりと。
あきらかに喧嘩を売っている。
「ふっふっふっふっふっ……」
おっ、リリさんがなんかたくらんでいる時の笑い声だ。
それだけ元気になってきたことだ。
そういった面では、よかった。よかった。
「ありがとうレリエル。
あなたがそんなに私を尊敬くれてるなんて知らなかったわ」
リリさんは持っていたフォークでパンを思いっきり突き刺し、レリエルを見て、笑いながら言ったのだった。
リリさんは、不味そうな黒いパンから美味しい料理に変更する打開策を思いつかなかったのだろう。
とりあえず、ストレスをパンにぶつけたようだ。
「私の気持ちをわかっていただいて嬉しいですわ。勇者様」
レリエルは笑顔で白々しく言ったのだった。
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