チュートリアル
俺は藤原さんに学校の地下に案内された。
去年の夏に、俺はこの高校の見学にきた時に見た間取り図には地下なんてなかったのに……。
特別な人しか入れない場所なのだろうか?
螺旋状の階段を下りていく。
地下3階くらい階段を下りただろうか、そこに鍵がいくつもされている扉があった。
西洋風な作りで、それなりに年代を感じる。どのくらい前のものだろうか?
扉は大きく、人の身長の倍くらいありそうだ。すると、縦の高さは、4mくらいあるのだろうか。
俺がそう考えていると、藤原さんは扉の鍵を次々と開けていく。
「ーーー、……。
……ーーー……ー、……………ー」
藤原さんは、鍵を開け終わったあと、日本語ではない言葉を言いだした。
言っていることがまったくわからない。
なんかの呪文なのだろうか。
もしかして、藤原さんは、中二病か?
こんな本格的な扉を作って。
でも、中二病ということであれば納得行くことがある。
俺に『今後の一生をこの私にくれないか?』と言ったことや、口を三日月の形にして『ふふふっ』と笑ったことなど、いかにもアニメに出てきそうなものだった。
でも、高校にきて『入学承諾書』を準備できたのはなぜだろう?
高校全体で中二病だったりして……。
まさかそんなことがあるはずがない。
そう信じたい。俺の人生のために。
「ー、ーー、ーー、ーーーーーーー!」
藤原さんは急に今までよりかなり大きい声を出した。
俺がびっくりするくらい。
すると、扉は黄色や青色に光り出し、自然に開きだしたのだった。
いったいこれは……。
藤原さんが呪文を唱えてたことによって開いたのだろうか?
まさか。おそらく何か仕掛けがあるのだろう。
中二病の……。
「さぁ、中に入りましょう」
俺は藤原さんにうながされるまま中に入ったのだった。
石のブロックによってできている部屋。
床に大きな魔法陣が書かれている。
よくアニメとかで出てくるファンタジー世界に行くための部屋みたいだ。
『ギィィィィ。バタン』
「えっ」
俺が部屋の中を確認していると、扉は勝手にしまってしまった。
本当によくできてるな、このセット。
「これから、異世界に行くことになる。
いわゆる転生というやつだ。
で、君には初めて異世界に行くからチュートリアルをまずやってもらう必要がある。
まぁ、詳しい話はチュートリアルの担当者から聞いてくれっ。
もし何か選択するものがあったら自由に選んでいいからな。
ただ、後悔しないように、ちゃんと考えて選ぶこと」
「えっ……」
足元にある魔法陣は、勝手に赤色に光り出し、俺は眩しくてまぶたを閉じたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やぁ、初めまして」
俺は声をかけられた。
聞いたことのない声だ。
なんだか優しさを感じる。
俺は声がした方に目を開けたのだった。
俺に声をかけてきたのは、優しげな男。白い服を着ている。
周りは一面白い。見渡す限り白だ。
いきなり、こんなに状況が変わってしまった以上、異世界に飛ばされているというのを信じるしかないと思った。
そういえば、藤原さんはいない。周りをどんなに見渡しても。
「初めまして」
俺は目の前にいる男に敵意はないと判断し、いちおう挨拶をした。
だが、この男は誰だ?
藤原さんが言っていたチュートリアルの担当者なのだろうか……。
「これから、君には異世界で使える能力を選んでもらうんだけど……。
僕はとっても困っていてね」
目の前の男は、困っていると言いながら、笑顔で、ゆかいそうに話し出した。
「君が選べる能力は、たくさん種類がありすぎて僕がどう案内したらいいかで困っているのだよ。
普通の人だったら、多くても5個ぐらいの中から1つを選んでもらうんだけど。
君の場合、様々なものから10個くらい選んでもらうことは可能だ。
いわゆる『チート』と言われるものも含めて……」
「ーーん?
どうしてそんなに選ぶことが可能なのでしょうか?」
そんなに俺は優遇してもらえるのか。
いったいなぜだ?
こんなラッキーなことは今までなかった。
いつもだったら、他の人が1個選べるのに、俺はマイナス10個というのが普通だ。
「君がいた世界とこっちの世界は、コインの裏と表のようになっていてね。
ーープッ、プププッ……」
なぜこの優しそうな男は途中で笑い出したのだろうか?急に。
初対面の人と話しているときに、いきなり笑い出すなんて失礼なことは言わなさそうな人に見えたのに。
そう考えると、言う前に自分で笑い出しちゃうくらい面白いことを言おうとしているのだろうか?
俺はどんなことを言ってくれるのか期待が膨らんでいく。
「いや、すまない。笑ってしまって。
君がいた世界で不幸であればあるほど、こっちの世界で優遇されることになるんだよ。
君は、君がいた世界で不幸をだっただろう。
不幸を身にまとって生活してただろう。
不幸と書いて、楠と言われてただろう?
ーーはっ、ははははっ……」
俺の目の前にいる優しそうな人は、爽やかにひどいことを言ってきた。
まぁ、確かに言ってることは正しい。俺にも自覚がある。
だが、面と向かって、そこまで言われると俺だって傷つく。
しかも、俺がここに来るってわかってて色々とセリフを考えてたのだろか?
でも、どうして優遇されているのかがよくわかった。俺があっちの世界で不幸過ぎるからだ。
今は、この優しそうな人に、つっかからずにほおっておくことにしよう。
機嫌を悪くされて、俺がもらえるチート能力が減らされても困る。
「そしたら、俺はどのように選べばいいのでしょうか?」
「そうだね。
君が知ってるような能力を言ってくれれば、大概の能力は獲得可能だよ」
そんなことをいきなり言われたって困るよ。
先に言っておいてくれてれば、ノートを作っておいたのに。
「すみません。
あまりチート能力を考えたことがなくて、もし可能であれば最高クラスの能力をいくつか紹介していただけませんか?」
「わかったよ。
並べられるだけ、並べてみるからゆっくり探してみてよ。
それと、君の場合、一回では選びきれないだろうから、後で来てもらってもいいよ」
通常、こういうのって、どんな世界に行かされるかわからないのに、能力を選ばさせられるのがほとんどだろう。
それなのに、また来ていいって、どんだけ俺は優遇されているんだろうか。
まぁ、それだけ不幸だったってことか……。
俺はよく頑張ってきた。
「あと、選んでもらうのは、『ジョブ』と『能力』になるから」
目の前の優しそうな男は、『パチン』と手をならした。
するとあたりの風景が変わる。あたり一面白かったのに徐々にカラフルになっていく。
棚ができて、様々な札や物が置かれていった。
まるで博物館のような光景になった。
展示されている場所によっては、龍とか鳥とか生き物が混じっている。
俺はまずジョブ選択のところにいった。
ジョブ選択は、ものとか並んでいるわけでなく、本になっており、選びやすいと思ったからだ。
本に書かれているジョブは、ありきたりなものが多かった。
勇者とか、魔法使い、武道家、僧侶、その他上級職などなど。
なるほど確かに、思いつくのは全部ありそうだ。
こんなにありすぎると、どれを選ぼうか悩む。
せっかく異世界にいって、やり直すチャンスだ。
どうしても真剣になる。
(じゃぁ、俺はいったい何をやりたいのだろうか?)
俺は異世界にいって楽しみたい。
誰よりも。
不幸を気にせず。
俺は本をめくり最後のページに近づいていった。
この本はちゃんと最後に行くほど、より強力なものになっていくらしい。
神もあった。
だが、神って、世界の誰かを幸せにするためにあるのだろう?
俺を不幸にした神になんかなりたくない。
そうして、次のページをめくると最終ページなのだが、黒く塗られていた。
「あぁ、そのページのものは選べない。
そして、選べないジョブは情報をあたえられないから黒くなっている。
でも、君が選べるものは普通の人であれば選べないランクの高いものばかりだから悲観しなくてもいいと思うよ。
僕もそのページを開ける人を見たのは初めてだから。
それに、異世界にいって、なんかのきっかけで上級職になれる人もいるからね」
すると、神の上の存在がいるということか……。
だが、今そんなことを考えても仕方がない。
せっかくなので、現時点で最高のものを選ぼう。
すると、神と同じページにあるのは、『魔王の中の魔王』だ。
よし、これにしよう。
ただ、魔王を超えるものって、大魔王じゃなかったんだと思った。
異世界で魔王になって自由に振る舞おう。
次に能力だ。
もう選ぶのも面倒くさくなってきた。
結局、最高のものを選ぶんだから、魔王にふさわしい能力で最高のものをもらっていこう。
すると、能力は『混沌』になる。『世界ができる前の闇を自由に扱える』と書いてある。
まぁ、チートぽいからこれでいいだろう。
「あっ、『混沌』を選んだんだ。
そしたら、この刀もセットだから持っていくといいよ。
その『ジョブ』と『能力』があれば、例外を除いて誰にも負けることはないと思うよ。
一気に魔界にいる魔王を全員たおしてしまうことだって可能かもしれない……」
俺は言われるがままに刀を受け取った。
鞘の色は、黒い色と表現するには、躊躇するほど黒い。
すべての光りを吸い込んでいる印象を受ける。
そうして俺は、刀身が気になって鞘から抜いた。
鞘も黒かったが、刀身はさらに黒い。
光だけでなく、俺自身まで吸い込まれてしまいそうだ。
どんな力が込められてるのだろうか?
「ありがとうございます。
それでは、異世界に行きたいと思います」
「そうだなぁ〜。
その服だと、異世界じゃ様にならないから、服はサービスしておくよ」
優しそうな男は、また手で『パチン』と音をならした。
すると服装が変わる。
全身黒く統一された。そして、コートもあった。
「いかにも魔王っぽいだろ?
そのコートは大概の攻撃は防げるから」
優しそうな男は、とっても満足げだった。
「じゃあ、君を連れてきた勇者のとこに飛ばすから。幸運を」
えっ、魔王の俺がなぜ勇者のところに?
しかも、幸運をって、俺に対するあてつけだと思った。
と思った瞬間、周りはグルグルと回り出した。
それなので、俺は目が回るので目をつぶったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうだったチュートリアルは?」
俺が声をした方を見た。目をつぶっていたまぶたを開けて。
すると、目の前にピンク色の髪をした可愛い女の子がいたのだった。
この女の子は一体誰なんだろう?
お読みいただきましてありがとうございます。
評価、ブックマーク、ご感想をいただけますとありがたいです。
今後ともこの作品をよろしくお願いします。