メイドの部屋
俺は部屋に着いて、リリさんに今まであったことを話したのだった。一方的に。
一方的になってしまったのは、リリさんが下を向いたまま何も反応をしなかったからだ。それだけ、精神的ショックが大きかったのだろう。
そして、俺は話し終わったあと、リリさんにはゆっくりする時間が必要だと思って、また来ることも伝えて部屋から出て、自分の部屋に行ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『トン、トン』
廊下に通じるドアをノックする音が聞こえたのだった。
俺は疲れてもう寝たかったのだが、仕方がなく、ドアに行ったのだった。
ドアを開けると、見知らない女の子がいたのだった。
メイドの格好をしている。
髪は、赤色く肩ぐらいの長さだ。
肌は白く、ほおをやや赤らめているようだ。
レリエルのような王族のお姫様と比べると庶民的な印象を受ける。
近寄りやすさというか、身近な気がする。
あっちの世界にいるときの、クラスで一番可愛い子をどことなく思い出す雰囲気があった。
「私は、エミリーと言います。
ちょっとお話をしたいことがあるので、お時間をいただけないでしょうか……?」
「えっ……」
あっちの世界であれば告白を受けるようなシチュエーション。
けれども、今いるのは異世界なのだ。
あっちの世界と作法は違うのかも知れない。
それに、今日、この城で働いていたメイドによって痛い目にあったばかりなのだ。
なんとなく断りたい。
「お時間は取らせませんので……。
どうか少しだけお願いできませんか?」
エミリーは、上目遣いで俺の方を必死に見てきた。しかも、目を潤ませて。
俺は上目遣いに弱い。
しかも、あっちの世界にいるときにクラスで一番可愛い子に言われている気分になってくる。
これは、仮に罠だとしても流れに乗ってやろうと思った。
「わかった。
しかし、俺の部屋に入れることはできない。
別のところで話をしたい」
俺は仮に罠だったことを考慮して、弱っているリリさんがいる部屋に入れたくなかったのだ。
まあ、リリさんは弱っていなくても、誰よりも弱いのだが……。
「では、私の部屋で。ご案内しますのでこちらへ」
「えっ……。
……、…………。
ーーーわかった」
女の子がいきなり自分の部屋に入れちゃうの?
見た目の年齢は、俺より変わらないくらいなのに。
誰か他の人でもいるのかな?
メイドなら、1人部屋でなく、何人かと一緒の部屋って可能性があるだろうし……。
それに、俺が意識しているだけかもしれない。
だが、こんな時に、レリエルから『この城にあるすべてが、あなた様のものですよ』と言われたことを思い出してしまう。
『すべて』という言葉には、物以外のものも含まれるだろう。
レリエルは、お姫様といった印象を受け、綺麗で高嶺の花だ。
しかも、元魔王の孫という社会的身分がある。
いくら、俺がこの城で好き勝手にやってもいいとしても、レリエルに対して好き勝手にするというのは何かとちゅうちょする。
魔王城の運営にも関わってくる可能性もあるし……。
だが、このエミリーはどうだろうか?
メイドだから社会的身分はそんなに高いとは言えないだろう。
それに、昔、ファンタジーものの小説を読んだ時に、どっかの領主がメイドをいじめてた。
俺は城主だ。領主より上だ(だよな?)。だから、領主より好き勝手にやっていいはず。
そんなこと考えながら、20分ぐらい歩いて、エミリーの部屋に着いたのだった。
その間の会話はなかった。何を話したらいいか考えてたらいつの間にかついてしまったのだ。
ちなみに、メイドの部屋はお世話をする部屋の近くにあった方がすぐに対応しやすいので、俺達の近くにあるとのことだった。
「今、明かりをつけますのでお待ちください」
エミリーがドアを開けると暗かった。
ろうそくに火をつけてくれたのだが、あまり明るくならず、薄暗かった。
部屋の中にはベットが2つとタンスが置いてあったが、それだけで部屋が全部埋まっていて、空いているスペースはほとんどなかった。
やっぱり想像通り、1人部屋ではなかったのだ。
「2人部屋なんだ?もう1人は?」
「お仕事があって、しばらく帰ってきません。
立ち話もなんですから、私のベットの上にお座りください」
俺はイスに座るよと言いたかったが、イスがなかった。
そんなスペースもないのだ。
あまり生活環境はいいと言えないのかもしれない。
俺の部屋にはまだ空いてる部屋があるのに……。
「わかった」
俺は仕方がなく、ベットの上に座ったのだった。
なんかいけないことをしてるようでドキドキしてくる。
「それで、お話をしたいこととは……」
エミリーはそう言いながら俺の左隣に座った。
ろうそくの火がゆらゆらとゆれる。
エミリーは俺の耳元に口を近づけてきた。
触れるか触れないくらい。
あっちの世界でクラスで一番可愛い子にやられているような気持ちになってくる。エミリーに悪い気がするが……。
「私がお話をしたいことは……」
エミリーが同じことをもう一度言った後、俺に抱きついてきた。
『バタン』
ドアがすごい勢いで急に開いた。
「エミリー、いったい何をやってるの?」
レリエルの声だった。
落ち着いた声です話しをしているが、その分、怖さがある。
おそらくものすごく怒っているのだろう。
「レリエル様、なぜ私の部屋にはいってきたのですか?」
俺はエミリーがすぐに謝るのかと思ったら違ったのだ。
どんな考えがあるのだろうか?勝算があるのか心配してしまう。
「あなたの同じ部屋のメイドが私に知らせにきたわ。
私の質問にちゃんと答えなさい」
レリエルの怒りのボルテージが一つ上がった気がした。
マンガだったら、こめかみに血管マークがつきそうだ。
そして、レリエルの後ろに、メイド服をきた女の子がエミリーの方を見て笑ってる。
エミリーは裏切られたのだろう。
「アレン様にご奉仕をしていたところです。
そんな時に、邪魔をするなんてレリエル様の方こそ間違った行動をしているのでないですか?」
エミリーはレリエルをまっすぐ見て言ったのだった。
徹底的に戦うつもりなのだろう。
俺がそんなことを考えていると、エミリーは俺に頬ずりをしてきた。
「やりすぎだわ。
お仕置きが必要ね。私に今すぐ着いてきなさい」
レリエルはいったい何をする気なのだろうか。
鞭打ち?体罰とかか?
レリエルの怒りのオーラからエミリーは無事に帰ってこれない気がする。
でも、なぜレリエルは怒っているのだろうか?
俺もエミリーのされるがままの方が良かったかもしれないのに。
修学旅行の時の先生みたいな感覚なのだろうか?
「待ってくれ、レリエル。
ちょっと話をさせてくれないか?」
俺はあっちの世界でクラスで一番可愛い子がいじめられるような気がしてしまったので、レリエルを止めたのだった。
そして、いじめられないようにしたいと。
「わかったわ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺とレリエルは、別の部屋に行って流れを説明した。お互いイスに座って。
エミリーに非はもしかしたらあるかもしれないが、あっちの世界にいた時の知り合いに似てて懐かしくなったので、穏便に済ませて欲しいということを伝えた。
ただし、クラスで一番可愛い子を思い出したということは伝えなかった。
「ふぅ〜ん。
アレン様はああいうのが好みなんだ」
レリエルは俺をからかうように言ってきた。
「いや、そういうわけじゃない」
好みか?と聞かれると悩む。クラスで一番可愛いという評判の女の子がいたら、男だったらその子からよく思われたいって誰だって思うはず。
「けど、アレン様にとって悪いニュースがあるわ。
昔から友好関係にある魔界で2番目に大きい国から連絡があって、強いからといってどんな素性な奴だかわからないアレン様を魔王と認められないと言ってきてるのよ。
それで、この城の魔王だった者の血を引いている私と結婚すれば認めるって言ってきてるわ」
レリエルは俺を試すように見てきた。
そのことを言い終わった後に、組んでいる足を組み替えたのだった。
「いや、さっきそんな話にはならなかったじゃないか?」
「急に連絡がきたのよ」
「いわゆる政略結婚ってやつだよな。
レリエルは好きでもない俺と結婚だなんていいのかよ」
「あら、私がアレン様を好きでないっていつ言った?
それに、前に私が何て言ったか忘れちゃったなんてひどいわ。
私、頑張ったのに……」
レリエルがなんて言ったのか覚えている。
急に抱きついてきて、『好き』って言ってきたのだ。
「ちゃんとおぼえていてくれているようでよかったわ。
でも、アレン様は私みたいな女と結婚するなんて嫌よね?」
俺は何も言わなかったが表情に出てしまったのか、レリエルは俺が『おぼえている』ということに気づいたのだった。
そして、レリエルは俺に抱きついてきて、目を潤ませながら上目遣いで俺を見てきた。
「急に結婚って言われても、困りますよね。
でも、この国のことを考えて……。
偽装でもいいから……。
ーーーねっ」
レリエルはそう言いながら、さらに強く抱きしめてきた。
俺はどうしたらいいのか困った。
そして、俺は目をつぶった。レリエルとの今までのやり取りを思い出す。
色々となにか問題が起きた時見方をしてくれたし、一緒に食事をした時は楽しかった。
あっちの世界にいたら一度も話すことがなたったような綺麗な女の子だ。
だが、結婚となると今すぐ答えられない。
「少し時間をもらえないか?」
俺はレリエルの目を見て言った。
「わかったわ。
それと、エミリーのお仕置きの件は保留にしておいてあげる。
私から言っとくから安心して部屋に戻って大丈夫だから」
レリエルはそう言って部屋から出て行ったのだった。
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