命令
「お待ちください、アレン様」
俺がレリエルと話しが終わって、部屋からそとに出たときに声をかけられたのだった。
声がした方を見ると鎧を着て、武器を持っている者達がいた。魔王城の兵士だろうか?
30名程度いる。
身長、体つきはみんなばらばらっだった。さすが、魔物の兵といったところだろうか。
だが、みな目つきは鋭い。危険な戦場をくぐり抜けてきた印象を受ける。
「私達も一緒に戦いますので、ぜひ同行させてください」
俺を呼び止めた者達の先頭にいる者がそう言ったのだった。真剣な顔つきで。
顔の表情から本気で俺と一緒に戦おうとしてくれてるのだろう。
だが、俺と一緒になぜ戦おうとするのだろうか?
俺は、この魔王城の者達にとって略奪者なのだ。
だから、普通に考えれば、この城に攻めてきたの者達と一緒に戦って、俺からこの魔王城を取り戻したいと考えるのが普通である。
もしくは、戦いに俺を一人で行かせて見殺しにするとか……。
それに、今回の戦いは敵の兵数が多く、圧倒的な差がある。
そんな中、命令されてないのに戦いに参加しようだなんて、自分から死にに行くようなものなのだ。
俺だけであれば、この魔王城を守るために戦って、無傷で勝つことは可能だろう。
だが、彼らが戦いに参加した場合、俺が彼らを守れず敵に殺されてしまう可能性だってある。
「どうして、一緒に戦おうとするのだ?」
俺は、先頭にいる者に目を見て聞いたのだった。
先頭にいる者は、俺の考えを理解したらしく。一度頷いて話し出した。
「今の私達の主君は、アレン様です。
この魔王城を守れず逃げてった臆病者の見方になんかなりたくありません。
それに、主君のアレン様を戦地に行かせて、部下が安全な場所で待ってるということもできません」
先頭にいる者はまっすぐ俺を見て答えた。
愚直な武人といった印象を受ける。
「名前を教えて欲しい」
「ゼルエルと申します。
前の主人のときは、大将軍でした。
なんなりとお申し付けください」
「わかった。
ところで、ゼルエルは、愚直でいつも貧乏くじを引くタイプって言われないか?」
俺はゼルエルを見ていて、歴史小説に出てくる好きなタイプの武将のことを思い出したのだった。
その武将は小説の中でこんなことを仲間から言われていた。
俺が言ってみたかったセリフだ。
「……………」
「ーーーははっ、は、はっはっはっはぁ〜〜〜」
ゼリエルは下を向いて恥ずかしそうにして、何も言わなかった。
だが、周りにいる者達は笑った。
ってことは、みんなそう思っているのだろう。
まぁ、単純な兵数を比べたなら圧倒的に不利な状況なのだから、ここにいる兵達全員が貧乏くじを引いていると言えよう。
でも、兵達の雰囲気がいい。
ゼルエルは兵達に好かれているのだろう。
「ゼルエル、すまなかった」
「いいえ。
それで、ご指示を。
「この城で、策略家や戦略家、交渉力に優れているものを教えて欲しい?」
「この城全員の中ですか?」
「そうだ」
「そういったこずるい奴らは臆病者達と一緒に全員いなくなってしまっているので、そういったポジションにいた奴らはいなくなってしまっています。
そうですね。
現状の城の中であげるなら、私かレリエル様になるでしょう。状況によってどちらがいいか変わってきますが……。
私はどちらかというと戦場で、レリエル様は外交関係になるかと思います」
「わかった。
くどい確認になるが、この場にいる全員は死ぬ覚悟ができているということでいいんだな?
最後の一人になったとしても」
「当然です」
俺は感動してしまった。いきなりこの城を襲った略奪者である俺に、ここまでついてきてくれると言ってくれている。
あっちの世界でこんな仲間はいただろうか(いや、いなかった)。
(あれっ、変だ。急に視力が落ちたような気がする)
俺がそう思ったら、実際には自然と目に涙が溢れて、ものが見づらくなっていたのだった。
死を覚悟で俺についてきてくれるという仲間ができて。
それに、俺は気弱になってたのかもしれない。
異世界にいきなりきて、ずっと敵の中にいるという緊張状態によって、精神的に参ってきていたのかもしれない。
そして、俺は一人で戦いに行くことに不安に思っていたのかもしれない。
確かに、今回の戦いで俺は絶対に負けないと思う。
が、この城に攻め込んできている敵の数はものすごいのだ。
今まで見たことのない数の敵がいるだろう。
「では、命令する。
ゼルエルだけ、俺と一緒に来てくれ。
他の者達はレリエルの警護。以上」
俺は目をこすってからそう言ったのだった。
ゼルエル以外の兵にレリエルの警護をさせるように命令したのは、戦地に行かせて死なせないようにするための口実だ。
「わかりました」
ゼリエルが意を決したように答えた。
が、他の兵達の顔を見るとは困惑した表情をしている。
「どうしてでしょうか?」
兵達の中から不満の声が上がった。
まぁ、予想はしていたが、俺の善意の気持ちをちょっと気づけられた気がする。
誰かの上にたつってこういうことなのかもしれない。大変だな。
「バカ者。
どんな命令であっても従うものだっ」
ゼルエルが兵達に怒鳴ったのだった。
兵達は驚き、恐怖の顔を作って、レリエルの方に向かったのだった。
「ありがとうございます」
ゼルエルに俺はお礼を言ったのだった。
「いえいえ。何事も役割分担です。
それで、今回の作戦はどのようなものなのでしょうか?」
ゼリエルは声のトーンを落とし、俺を見上げるように言ってきた。
「そとの気配から俺だけで、全員たおせると思う。時間がかかったとしても。
だが、俺はできるだけ殺したくない。
最初に俺が圧倒的な力を見せて、敵の戦意をそぐ。
そのあとは、ゼリエルの交渉力でこの戦いを平和に終わらせて欲しい。
最悪、この城と、みんなが不利にならない内容で終わればいいと思ってる」
「わかりました」
「それとだな……」
俺はまだこの世界の勢力図をよくわかっていない。
戦場でそのフォローもして欲しかったのだ。
だが、ここまで弱みを見せていいものかちゅうちょして、途中で話すのをやめたのだった。
「私の一族も勇者の一族とずっと戦ってきました。
なので、アレン様の事情を少なからずわかっているつもりです。
もし、戦場でなにかあったら、その都度言ってください。
臨機応変に対応いたしますので」
さすが大将軍といったところだろうか。
戦を何度も経験してきた余裕を感じる。
俺は、ゼルエルの言葉から俺が言おうとしたことを察しているのだと思った。
だから、それ以上何も言わずに、俺とゼルエルは戦場に向かったのだった。
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