いざ敵の本拠地へ
白玉桜の地下
俺達は白玉桜の地下にやって来ている。健二と彰がいる場所は俺が霊夢達との戦闘の前にこっそりと調べていたから、難なく拠点っぽい所を見付ける事が出来た。
「さて、どう攻める?」
「どう攻めるって聞かれてもねぇ~、ここは堂々と攻めようよ~!!」
「絢斗さん、寒いので止めてください。」
とまあ、俺達は白玉桜の地下の道を絢斗や良太達と雑談しながら進んでいく。けど何かおかしいな。
「……妙ね。」
「どうしたの?お姉様?」
レミリアも気付いたみたいだな。フランはまあ、気付かなくても当然か。
「レミリアの言う通り、確かに妙だな。」
「えっ、何がですか聖人?ただ道が続いているだけじゃないですか?」
いやまあ、それはそうなんだけどさ早苗。敵の本拠地にいるのに何にも音沙汰が無いんだぞ。
「敵の気配が全くしません。普通なら何かあるはずです。」
「これは舐められてるかな~。やってくれるね~!!」
「もしくは敵の罠にはまったとかかしらね。」
レミリアの言うことは否定出来ないな、もしくはモニターか何かで監視しているとかかな。
「まあ、それでもな。」
「突破していくだけだね~!!」
うだうだ考えて仕方ねえか、とにかく中へ進んでいかないとな。しばらく歩いていると何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「うわわっ!!ちょっと危ないよ!!刃物は無闇に振り回すもんじゃないよ!!」
「問答無用です!!動くと斬りますよ!!」
「この声は!!」
妖夢の声と、これまた久し振りに聞く声だな。
「どうしたんですか聖人?」
「少し急ごう!!」
まさかあいつも来ていたなんてな。けど何でこんなところにいるんだ?
「だからなんで刃物を振り回すの!?危ないよ!!」
「黙りなさい!!大人しく斬られなさい!!」
声のした方へ近付くと、危なっかしく妖夢の攻撃を避けている短めの茶髪で青色のパーカーにベージュ色のズボンを履いている少年がいた。うん、やっぱりあいつだったか。
「あっ、快じゃん!!元気だった~?」
「元気ですよ、ってそんなこと言ってる場合じゃないですよ!!早くこの子をなんとかしてください!!」
この少年は佐藤快。絢斗と同じく小学生からの知り合いだ。
「落ち着け妖夢。何でそんなに興奮しているんだよ?」
「黙りなさい!!さもなくば斬りますよ!!」
「妖夢さん!!一体どうしたんですか!?普段の妖夢さんとまるっきり別人みたいになってますよ!!」
妖夢が意味もなく興奮するとは思えないが、何か仕掛けがあるはずだ。
「無駄よ早苗。今の妖夢は私達の声は届かないわ。」
「そうそう、レミリアちゃんの言う通りだよ~。もしくは生理中なのかもしれないけどね~。」
「どうゆうことですかレミリアさん!?あと絢斗君はデリカシーというものを覚えてください!!」
あっ、絢斗が早苗に蹴り飛ばされた。絢斗にデリカシー?ないない、あいつにそんなものは絶対ない。
「まあ簡単な話だよ早苗。妖夢は洗脳されているんだ。」
「そのようなものは、あっ!!」
妖夢の背中には小さい機械が付いていた。あんなところに付けたのかよ。
「つまり、あれが原因というわけなんだねお姉様?」
「そうよフラン、それで妖夢の戦闘を解くには気絶か戦意喪失させないといけないわ。誰が妖夢の相手をするのかしら?」
「ここは俺にぃぃぃ!!ま・か・せ・て・もらえれば恐縮です!!」
「うるせぇよ絢斗、大声で叫ばなくていいだろ。声が反響して頭が割れると思ったぞ!!」
まあ、やる気満々な絢斗は珍しいな。
「ちょっと聖人!!」
「どうしたレミリア?」
「どうして絢斗に任せたの!?貴方が行けば良かったんじゃないかしら!?」
レミリア、そんなに絢斗が頼りないのか?大声で言ったから絢斗に聞こえてるぞ。あっ、絢斗がへこんでる。
「んー、まあこの戦いを見ていれば嫌でもわかるさ。」
「そろそろいいですか?私は誰でもいいので人を斬りたくてたまらないのです。」
「いいよ~。でもその前に聞きたい事があるんだな~!!」
聞きたい事、あぁ、なるほどね。
「何ですか?」
「君の名前を教えてくれないかな~?折角こうやって会ったんだからさ~、名前くらいは聞きたいな~。」
「あなたに教える名前はありません!!」
「いいじゃ~ん減るもんじゃないんだし~。俺は君みたいな可愛い子の名前が知りたいよ~!!」
「か、可愛いって!!」
おろ、妖夢は絢斗に可愛いって言われて顔を真っ赤にしてるな。妖夢は褒め言葉に弱いからな。
「およよ~?照れてるのかな?純粋だねぇ~。」
「ち、違います!!おほん、私の名前は魂魄 妖夢です。」
「うんうん。じゃあ妖夢ちゃんだね。俺の名前は、相沢絢斗でいいよ~!!」
「ちゃん付けはやめてください!!」
「いやだね~。」
「と、とにかく勝負です!!スペルカードは一枚、被弾回数も一回の勝負です!!」
絢斗め、からかいすぎだ。でもここまでからかうって事は、もしかしたら。
「だ、大丈夫なんでしょうか絢斗君?聖人、絢斗君はどれくらい強いの?」
「大丈夫だ早苗。絢斗は俺と同じくらい強いさ。」
「その根拠はどこから来るのかしら?」
「まあ見てなって。」
確かに絢斗は普段からふざけている。だから皆が心配になる気持ちもわからなくない。けどふざけているのは集中したときの姿を見せたくないからだ。
俺は知っている。
絢斗は今まで、
ほとんど負けたことがないって。
「どうしたんですか?兄さん?」
「いやなんでもない。ちょっと昔を思い出していただけだ。それより勝負の行方はどうなってる?」
「勝負と言うか、絢斗が妖夢さんをおちょくってるだけだよ。妖夢さんは弾幕を放ったり持っている刀で斬ろうとしてるけど、絢斗は全て避けてるよ。」
あー、まあ絢斗は始めから真面目にやることは少ないもんな。ましてや女性との戦いだからな。
「いい加減に当たってください!!」
「おひょ~!!危ないね~!!」
どうせ妖夢の色々な表情を見たいからふざけているんだろうな、やれやれ。
「「「……どこが大丈夫なのよ!?」」」
「何よ!!ふざけてるじゃない!!聖人、一体どうしてくれるのよ!?」
「どうしろと言われてもねレミリア。」
何も出来ないし。そもそも何かしようと思っても絢斗がそれを許さないだろうし。
「絢斗には失望したわ。」
「まあレミリアさん、失望する気持ちは分からなくもないですが、もうすぐ勝負が終わりますよ。絢斗さんの勝ちで。」
「その理由はどこにあるの良太お兄さま~?」
「見てれば分かりますよフラン。」
「はあ、はあ……。」
「あれれ?もう終わりかな妖夢ちゃん?俺はまだまだ妖夢ちゃんが刀を振るってる姿が見たいよ~!!」
「う、うるさいです!!」
妖夢はおちょくる絢斗に向けて刀を振るうも、絢斗はことごとく避けていくな。一歩間違えれば死ぬのに、あいつよくやるよ。
「うひょ、危ないね~!!」
「何で、どうして!?」
「どうして当たらないって顔をしてるね。それは妖夢ちゃんの攻撃が単純だからだよ~。」
まあ、普通の人が見ればわからいけど、俺や絢斗みたいに剣術に精通している人ならわかっちまうんだよな。
「そんなことあるはずがないです、でたらめを言わないでください!!」
「あるんだよ~。じゃあ何故俺が妖夢ちゃんの攻撃を全てかわせたと思う?」
「それは……。」
「確かに妖夢の太刀筋は凄いよ~。どれだけ刀を降ったかわかるからね~!!でもそこが欠点になるんだよ~!!」
剣を振るう、それはとても大事な事だ。でも、ただ闇雲に剣を振るうだけじゃ駄目なんだよな。
「どういうことですか!?」
「対人戦をやってないでしょ?」
「!!!」
確かに妖夢は対人戦をあまりやったことはなかったな。まあ、幻想郷に対人戦をやれる人がいないけど。
「対人戦をやってないと相手の動きを予測して攻撃できないからね~。それに、妖夢ちゃんの攻撃が単純すぎるからね。」
「でも、あなたは私に攻撃できるのですか?」
「できるさ。おふざけもここまでにしないと見ている人達にどやされそうだからね~。」
そう言い絢斗は刀を鞘から抜き始める。それと同時に周りの空気が少しピリピリし始めたな。
「今からスペルカードを使うよ。このスペルの攻撃を妖夢ちゃんが見切れたら俺の負けでいい。」
「さあ、来なさい!!」
「その目、いい目だ。」
妖夢は改めて桜観剣を構えて、絢斗をじっくりしている。絢斗、あれを使う気だな。
「斬符『閃光斬』」
「えっ?」
絢斗がスペルを宣言した瞬間にはもう刀を鞘にしまっていた。いつ見ても速いな本当に。
「勝負ありだね。」
「何をいって、いるん、ですか?」
妖夢が一歩踏み出そうとした瞬間に隣にあった柱が斬撃によって粉々になった。絢斗の奴、俺が見たときよりも更に威力を上げたな。
「何をしたんですか!?」
「ん~?ただ妖夢ちゃん目掛けて居合い斬りを放っただけだよ~。まあ妖夢ちゃんに斬撃が当たる瞬間に横にずらしたけどね。」
妖夢は絢斗の只者ではないオーラに圧倒されて座り込んだな。まあ絢斗が斬撃をずらさなければ体をまっ二つにされていたからその恐怖で足がすくんだんだろうな。
「ちょっと失礼~!!」
絢斗は妖夢が足がすくんで座り込んでいる隙に小さい弾幕を当てて、背中に付いていた機械を取ったな。
「あれ、ここは?」
「気がついたか妖夢?」
「聖人さん!!それに、絢斗さん!!」
おろ、絢斗の名前を呼ぶときは少し顔を赤くしたな妖夢。
「んー覚えているのかな?」
「……はい。」
「まあ無事で良かったよ~。怪我とかは、していないけど。ちょっと恐怖を与えすぎたかな~。」
絢斗が妖夢の姿を見て苦笑いを浮かべる。一体何を見て苦笑いをしてる……あらら。
「け、絢斗さん?それに、聖人さんも、何故私を見て黙っているんですか?」
「兄さん、これはどういう言葉を掛けてあげればいいんでしょうか?」
「スルーするっていうのも優しさだぞ良太。」
決して妖夢がお漏らししている事に気が付いていてもな!
「わぁー!!妖夢お漏らししてる!!」
「へっ?わぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
フラン、もう少し言葉を選ぼうな。
「みみみ見ないでぐだざい~!!もうお嫁に行けません~!!」
あー、妖夢が泣いちまったな。まあ仮に俺も今の妖夢の立ち位置だったら絶対泣くね。
「聖人、妖夢さんの服って作れますか?多分ビチョビチョになっていると思いますから。」
「やってみるよ早苗。快、手伝ってくれ。」
「わかったよ。裁縫なら僕に任せておいて。」
あのあと、妖夢をなだめるのに数十分かかったとさ。




