聖人の過去
白玉桜
「ところで幽々子、一つ聞きたいことがあるけどいいか?」
食事の後、幽々子と将棋をしながら尋ねる。妖夢は咲夜と霊夢と魔理沙と出掛けたぞ。
「何かしら~?もしかして今日のご飯の話~?」
「ちげえよさっき食べたばっかりですよ!!俺が聞きたいのは幽霊と話せることが出来るかどうかですよ。」
冥界ならワンチャンあるんじゃねえかな。
「話せるわよ。なんならその場所に案内する?」
「ぜひお願いします。」
あの子に会うのは何年振りかな?俺の事を覚えているのだろうか。
「その前にデザートを食べてからね~。」
「一体三色団子を何本食べるのやら。」
軽く3桁は超えてるぞ。本当に何処に食べたものが入るんだよ。
「ごくん。美味しかったわ~、それと将棋は私の勝ちよ♪」
「えっ?あっ!?」
いつの間にか詰んでた!?おいおい、さっきまで王将の周りには何も無かったぞ!?
「ずるとかしてないよな?」
「ふっー、ふっー、何の事かしらね~。」
口笛吹けてないぞ幽々子、まあ追求はしないでおくか。
「それじゃあレッツゴー♪」
「って煎餅が入った袋を持ってくなよ幽々子!!まだ食べるのかよ!!」
妖夢に怒られるのは俺なんだぞ!?はぁ、後で人里へ買い出しに行くか。
幽々子に案内されて来た場所は、枯れてる木がたくさんあるところだった。
「ここは?」
「ここは幽霊が集まりやすいところなの。」
確かに幽霊がうようよといる。冥界に初めて来た時よりの数倍はいるな。この中から探すのかよ。
「この中に聖人の探している人がいるわよ。」
「わかった、ありがとな幽々子。今度旨いものでもご馳走するよ。」
と言ってから俺はあの子を探す。しばらく探しているとその子らしい雰囲気の幽霊がいた。
「よう、久しぶりだな。」
そう言うと幽霊が女の子になる。そこには10歳くらいの女の子がいた。
「やっと来たのね。もう待ちくたびれちゃった。」
髪は黒髪の長めのストレートで帽子を被っている。上は青色のシャツを着ていて、ショートパンツを履いている女の子、間違いないな。
「本当に久しぶりだな、虹霓亜美。」
「ふるねーむは止めてほしいな聖人兄。」
亜美は、小さい頃から俺を聖人兄と呼んでよくなついてくれた女の子だ。そして、俺に関わったばかりに短い人生で幕を閉じた女の子の一人だ。
「早苗姉は元気なの?」
「元気過ぎて困ってるくらいだよ。」
早苗とも面識はある。3人で遊ぶこともちょくちょくあったからな。懐かしい。
「そっかぁ!!それて、聖人兄は何で泣いてるの?」
「すまない、本当にすまない!!俺のせいで亜美を死なせてしまった!!」
「いいのよ、私はこの結果には受け入れてる。聖人兄が謝る事ないよ。」
お前まだ10歳だろ?何でそんな達観してるんだよ?何で笑顔でそう言い切れるんだよ?俺をもっと責めても誰も文句は言わねえのに。
「でも!!もしもっと生きてたらもっと楽しい事があったかもしれない!!幸せな事があったかもしれない!!それなのに、俺のせいで!!」
「その気持ちを聞けただけで嬉しいよ!!」
っ!!何でだよ、何で俺を許すんだよ?
「本当にすまなかった。亜美を守れなかった、俺が力不足だったばかりに!!」
「でも聖人兄はあの時、必死で私のことを守ってくれたじゃない。」
確かに、必死で亜美を守ろうとはしたさ。けど結果はこれだ。俺だけ生き延びてしまった。
「それでも、守れなかった。」
「だから、女の子を避けているの?本当は吐血なんてしないのに、それを理由にしてるの?カッコ悪いよ聖人兄。」
「!!!」
何で、それを知っている!?
「聖人兄はそういうことしそうだからね。何時までも引き摺るのも良くないよ。もっと前を向いて、今度こそ誰かを守ってみせればいいじゃない。あの時のように。」
「そう、だな。ありがとう亜美。」
過去を引き摺り過ぎてたのか、今考えれば馬鹿らしいことをしてたもんだな。
「わかったなら行動で示してよ!!聖人兄なら出来るはずだよ!!」
と言うと亜美の体が薄れてくる。そろそろ別れの時か。もっと話していたかったのに。
「お別れなのか?」
「そろそろ時間みたい。聖人兄と最後に話せて嬉しかったよ!!」
「そっか、もう逝ってしまうんだな。」
「長い時間取らせてはくれなかったし、これくらいが限界かな。そうだ、最後にプレゼントをあげる。」
そう言うと革の手袋を渡してきた。試しに着けてみると、よく手に馴染んだ。すげえなこれ。
「いいのか、もらっても?」
「貰って欲しいの。今までありがとう聖人兄!!」
そう言うと亜美の体は静かに消えた。もう二度と会えないんだな。
「こっちこそありがとう。安らかに眠ってくれ。」
白玉桜
俺はしばらくあの場で泣いた後、白玉桜へ戻った。
「お帰りなさい聖人さん、何かあったんですか?」
帰ってきたのか妖夢。でも、今は誰とも話したくないんだ。
「すまない、一人にしてくれ。」
俺の言葉を聞いた妖夢は察してくれたのか、そそくさと何処かに向かった。何処に行こうか、そうだ庭にしよう。
「行動を示せか。そうだもんな。」
「一体何があったんですか?」
独り言を呟いてたら妖夢が隣に座ってきた。何処かに行ったんじゃなかったのかよ。
「過去の話だよ。思い出したくない過去の話さ。」
「こんなことを言うのは不謹慎かも知れませんが、その話を聞きたいんですけど、だめですか?」
「……いいよ。」
「いいんですか!?」
「誰かに話した方が楽になりそうだ。」
そして俺は今まで目を背けてきた過去を思い出す。
5年前
「ねえ!!まってよー!!」
「まったく、遅いな亜美は。」
「仕方ないでしょ。聖人兄が速いんだもん!!」
あのとき俺は中1、亜美は小5だった。そして、今は亜美の家に向かってる。理由は遊ぶためだ、早苗は先に亜美の家に着いている。
「今日は聖人兄の他に誰が来るの!?」
「いつものメンバーだよ。」
など雑談していた時、目の前から大の男が数人ほど近付いてきた。
「よう餓鬼ども。何かの帰り道か?」
と、声をかけられたらと思ったら暴力団の集団に囲まれてた。こいつらここら辺の有名な暴力団員か!?
「貴方達誰!?」
「俺らか?俺らはここら辺で有名な暴力団の団員だ!!」
何とご丁寧に刺青まで見せてきたよ。何と言うか、可愛そうな人達だな。
「自分から暴力団って言うのかよ。亜美、こういう大人になっちゃいけないからな?」
「分かってるよ聖人兄、凄くカッコ悪いもん。」
「う、うるせぇ餓鬼ども!!おら、命が惜しければ金を置いてきな!!」
餓鬼から金をたかるのかよ。こいつら本当に暴力団員か?
「今はお金ないんだ。また今度にしてくれないか?」
「そうか反抗するか、仕方ないな、じゃあ女を貰うぜ!!」
そう言ってナイフで切りかかってきた。当時俺は喧嘩には自信があったが、大人を8人相手するのは結構きつかった。それでも5人程を倒した。
「なかなかやるじゃねえか!!じゃあこれならどうだ餓鬼?」
そう言って男は拳銃を取り出してきた。ヤバイ!!そんなもの出されたら勝ち目がない!!
「っく!!卑怯だぞ!!」
「ハハハ卑怯で結構!!諦めな、女を渡せば見逃してやる。」
「亜美、今のうちに逃げろ。」
小声で亜美に話し掛ける。拳銃なんて出されたら亜美を守れない!!
「どうしてよ!?聖人兄を置いて逃げれないよ!!」
「俺が時間を稼ぐから早く!!」
「おっと!!そうはさせねえよ!!」
男が俺に向かって発砲した。こいつ、昼間から撃ってきた!!警察とかはまだかよ!?
「ぐっ!!!」
「ああもう面倒だからこいつ殺すわ。」
拳銃を持った男は俺の頭に標準を向けてくる。さっきは右腕を撃たれたのか。
「止めて!!!」
「止めねえよ、じゃあな!!」
ああ、俺はここで死ぬのか。
「あうっ!!」
亜美の悲鳴?何で亜美が悲鳴を上げている!?まさか!?
「大丈夫聖人兄?」
そ、そんな。何で、お前が胸を撃たれているんだよ!?
「おまっ!!何で!!」
亜美は俺を庇ったのだ。こんな俺を、逃げればいいのに、バカ野郎!!
「何で庇ったんだよ!?何で逃げなかったんだよ!!」
「聖人兄を、見捨てれるわけないじゃない。」
そう言って亜美は倒れこむ。くそっ、どうすればいいこんな時はどうすればいい!?
「しっかりしろ亜美!!今助けを呼んでやる!!」
「来るわけねえだろ。ここは人通りが少ないんだからな!!」
黙れよ、もう口を開くなよクソ野郎。
「何でだよ!!何でなんだよ!!」
「聖人、兄、には、生きてほしかったから。」
「だからといって、こんなのありかよ!!」
まだ10歳だぞ!!こんな終わりでいいのかよ!?
「ありがとう、聖人兄。」
と、言って亜美は目を閉じた。おい、目を開けろよ?嘘だろ?おい、おい!!
「あー女が死んだか。折角の金目のもんが。まあいい、お前もすぐに逝かせてやるからな!!」
「ふざけるな。」
「あーー?なんだって?」
「てめえなのがいるからこういう悲劇が起きるんだ。」
許さねえ、こいつは絶対に許さねえ!!
「だったらどうするよ?」
「てめえをぶっ倒す!!」
「やれるものならやってみな!!」
男は発砲してくるが、その前に置いていた鉄パイプを拾って銃を切り刻んだ。
「ちっ、なんだよこれ!?」
「さあ、覚悟はいいか!?」
と、言ったときに警察がやって来た。男はギョッとした表情で車に乗り込んだ。
「ずらかるぞ!!」
男達は逃げていった。亜美はそのあと病院に運ばれたが既に死んでいた。俺は右腕を撃たれ、数ヵ所の打撲、切り傷があったが命に別状はなかった。
あれ以来から俺は女性を避けるようになった。別に嫌いではない。それは守れる自信がなかったから。また同じことをするのではないか。だったら突き放した方がいいと思った。
暴力団の男はリーダー以外は捕まった。リーダーの名は時弥謙治というらしい。今も逃げている。もしあの男に会うと守れる自信がない。そう思い女性を避け続けていた。
「以上が俺の過去だよ。」
「……。」
ふと、妖夢の顔を見れば泣いていた。妖夢が泣くことでもないだろ?
「それは、おじいちゃんにも話したんですか?」
「いや、話してない。これは誰にも話していない。」
「何で話さなかったんですか!!なぜ一人で抱えて来たんですか!?」
「これは自分の問題だったからだ。」
話せば楽になったかもな。でもそれが許せなかった、この事を忘れちまいそうでよ。
「関係ありません!!」
「関係ある。俺はけじめをつけたかったんだ。俺は臆病者だから話しても無駄だと思ったんだ。」
「でも、どうして泣かないで話せるんですか!?」
昔に嫌という程泣いたからな。もう泣くに泣けねえよ。
「泣いても意味がないじゃないか。それに泣かないと決めたんだ。」
「嘘ついても無駄ですよ。聖人は感情がすぐ顔に出ますからね。」
「やっぱりばれてしまうか。」
情けねえな、すぐばれちまうなんてよ。
「泣いてもいいんですよ。」
妖夢に言われ、俺は声をあげて泣いた。みっともない姿を見せたが、妖夢は後ろから背中をさすってくれた。
「ありがとな、妖夢。」
今度こそは守らないといけない、いや守らなくてはならない!もう、あの思いはごめんだからな。




