託された思い
「ふぅ、着いたな。」
未来の早苗達が監禁されていた所から瞬間移動で脱出した後、磔と聖人は霧の湖にいた。
「早苗……。」
未来の聖人は早苗の遺体が入っている袋を抱き締めながら涙を流していた。
「(無理もないよな、やっと会えたと思ったら目の前で死んだからな。)」
磔はそう思いながらせっせと弔う準備を始める。実際磔も涙が出そうだった。だがいくら涙を流しも何もならないとわかっていたから流さなかった。
「やっと会えたと思ったのによぉ、何でこうなっちまったんだよ!?」
「知るか、さっさと弔う準備を手伝えよ。」
「てめぇ!!」
聖人は磔のいい加減な態度に腹が立ち磔の胸ぐらを掴もうとしたが、逆に磔に胸ぐらを掴まれた。
「さっさと手伝え。」
「うるせえ!!お前は悲しくないのかよ!?何でそんなに平然といられるんだよ!?」
「平然ねぇ、そんな風に見えるのか。」
磔は悲しく笑った後、掴んでいた胸ぐらを離す。
「俺だって悲しくない訳じゃない。けど、いくら泣き叫んだ所で早苗達は帰ってくるのか?泣きわめくくらいならさっさと現実を受け入れろ。」
「そうそう磔の言う通りだ。」
突然声が聞こえてきたと思ったら聖人の後ろに袋を持っている謙治が立っていた。
「何故ここにいる?」
「何故って、あの妖怪を倒した後お前らと話がしたくてな。特に磔とな。」
「……なら俺は火葬の準備をしてくるよ。」
聖人は重い足取りで準備を始めていった。
「俺もちょうど聞きたい事が山ほどあるんだ。」
「お前!そんなに思い付くのか!?」
「当たり前だろ!!お前のせいで色々大変な目にあってきてんだぞ!!」
「んまー、取り合えず話してくれ。」
謙治はそう言いながら次元のスキマから飲み物を取り出して飲み始める。
「お前の能力どうなってんの?」
「次元を操る能力だけど、用は紫とほぼ一緒さ。」
「なるほど、まず1つ、ここに何しに来た?」
「あっ、やっぱりそういう質問来る?来ちゃうよねーですよねー。」
「いいから答えろよ。」
「それはな、未来の幻想郷の奴等と仲良くなるためだ!!(ドヤァ!!)」
謙治はそう言い何かの決めポーズをとったが、磔はそれを無視する。
「んな訳ねえだろ。」
「いや、割りと本気で。」
「本当か?」
「本当、本当。俺らの時代だと俺完璧に悪者じゃん、仲良く出来ないと思ったから未来に来たんだけどな。」
謙治は飲み物を次元のスキマに入れて、2本目の飲み物を取り出す。
「それだけじゃないだろ?」
「おろ、ばれちゃう?んま、未来に行くのは流石に俺でも無理だったんだ。俺の能力も万能じゃないねぇ。」
「充分に万能だろ!!」
「で、あの紫だったか?そいつの家に押し掛けて、土下座しまくったんだよ。」
「それで、紫は謙治が未来に行くのを手伝ってくれたって訳か。」
磔は謙治から飲み物を受け取って飲みながら言う。
「で、どういう風の吹き回しなんだ?お前は幻想郷を支配するんじゃなかったのか?」
「まあ目的はそうだったんだけどよぉ。なんか自分のやっている事がアホらしくなってきてな。」
「……は?」
「なんつーか、その空しさ?って言うのか?そう思ってきたんだよ。お前らの行動をこっそりと観察してあんだけどよぉ、何かすんげぇ楽しそうでな、俺は何をやってるんだろう?って思ってな。」
謙治はそう言いながら曇っている空を眺めた。本当に虚しく思っているようらしい。
「だからといって許されるとでも?」
「そんなことは思ってねえよ。ただ、今まで起こしてきた異変とかは全部計算して起こしたんだよ。」
「どういう意味だ?」
「そこんところは話すと長くなるから都合上カットだな。」
「メタイ!!要するに俺らが解決出来るように調整していたと?」
「そう、その通り。本当に支配するつもりじゃお前を幻想郷に一生入れないようにしてたさ。」
磔は謙治の言葉を否定はしなかった。謙治が起こした異変は壮大な異変ばかりだったが、ちゃんと解決の道はあったからだ。だが磔は1つだけ気になる事があった。
「……俺が映姫によって幻想郷から飛ばされることも計算していたのか?」
「あっ……。」
磔の質問に謙治は顔を青くする。そして、頭に手を当てながら。
「許してヒヤシンス♪」
「出来るかぁ!!そのせいで色々失ったんだぞ!」
磔は謙治を魔法で拘束し、掌に力を溜め込む。
「おおお落ち着け!!やめろぉぉぉ!!!」
「俺のこの思い、お前にぶつけてやる!!真・想符 フレアスパーク改!!」
「あにょょょぉぉぉぉぉ!!!」
し~ば~ら~く~お待ちください
「えふっ、いいもんもらっちまった。」
「……取り合えずこの1発で勘弁してやる。で、紫は許してくれたのか?」
「お前と同じだよ。フルパワーで弾幕を浴びせられたんだよ。それで先ずは未来にいるお前らを助けてこいって言われたの。」
「ふーん、味方になってくれるなら構わないけど、まだ許した訳ではないからな。」
磔は謙治にそう釘を指した後、聖人が松明を持ちながら磔の方へ来た。
「準備出来た……ってお前なんで真っ黒焦げなんだ?」
「諸事情です。誰がなんと言おうと諸事情です。」
「……まあいいや。今から始めるからな。」
そう言い聖人は少し移動して、未来の早苗達の遺体が入っている木の箱に松明を投げ込んだ。
「よく燃えてるな。」
「あぁ、本当によく燃えてるよ。」
聖人と磔は早苗達の遺体が入っている木の箱を眺め続けた。
「何で救えなかったんだろう……。」
「知らん、でもそれはもう受け入れるしかない。」
「……そうだな。いつまでもくよくよしてたら早苗にどやされそうだからな。」
聖人はそう言い肩をくすめる。磔は聖人を見ながら燃えている木の箱を見ると。
「全く、やっぱり落ち込んでいるんですね!」
「仕方ないじゃない早苗。聖人はそういう人間なのよ。」
燃えている木の箱の上に、死んだはずの未来の霊夢と早苗がいた。
「聖人!!あそこに霊夢と早苗がいるぞ!!」
磔は木の箱の上に向かって指を指すが。
「いねえよ。そんなところにいるわけない。」
どうやら聖人には見えていないらしかった。
「磔だったかしら?あんたが過去の本当の聖人のようね。」
「そうだ。」
「話は聞きましたよ。本当に辛い目に合ったんですね。」
「よせよ俺なんかまだまだ甘口だ。世の中には俺よりもっと辛い目に合ってる奴等がわんさかいる。」
「そうやって自分を卑下して、人は誰でも幸せになる必要があるのよ。まあ今話したい事は違うんだけどね。」
未来の霊夢はそう言い磔にスペルカードを投げた。
「……おいこれって?」
「今のあんたなら使えるはずよ。好きだった人をうばわれ、親友をほぼ無くし、かなりの辛い目に合ってきたあんたなら使える。かもしれないわ」
「そうかい、受け取っておく。」
「じゃ、頼むわね。本当は私達が解決しなければならないのに。」
「いいから、もういいから。」解決しようと頑張ったんだろ?少し休めよ。
「んじゃあね。」
そう言い霊夢と早苗の姿は消えていった。磔は貰ったスペルカードを見つめながら。
「これは俗に言うラストワードだな。これを使わずに解決出来ればいいんだが。」
「磔?お前何一人でぶつぶつ言ってんだ?」
「ん?すまない。もう終わったのか?」
「終わったよ。」
磔は木の箱を見ると、もう炭になっていた。それを見た謙治が次元のスキマから何かを取り出す。
「お供え物としてこれでも置いとくか。」
謙治が取り出した物は、トウモロコシだった。
「何故にトウモロコシ?」
「いや、今夏じゃん?夏といったらとうもしころだろ!!」
「いや、とうもろこし!!」
「もしころだって。もしころもしころ。発音やイントネーションがいいだろ?」
「「良くねえわ!!」」
「まあ、味には自信あっから。」
「そうだね~!!このとうもろこし?っていうのすごく甘くて美味しいね!!」
磔と謙治が言い争ってる時、聖人の後ろから女の子の声が聞こえてきた。
「お~い、姿を見せろ~。見せたらもっとあげるぞ~!!」
「頂戴頂戴!!」
そう言いって出てきたのは、肌色に近い髪の色で、麦わら帽子を被っていて背中に標識を持っている女の子が姿を現した。
「ほらよ~。」
「わぁ!!ありがとう!!しばらく何も食べていなかったから死にそうだったよ~。あっ、私死ねないんだっけ?まあいいや!!」
「どちらさん?」
「むぐむぐ?私はカナ・アナベラルって言うんだよ~!!よろしくねお兄さん達!!」
そう言いカナは謙治から貰ったとうもろこしを食べ続ける、どうやら相当気に入ったらしい。
「何でこんなところにいるんだ?」
「えっとね、何か放浪してたらここに来ちゃったんだよ~。にしても白髪のお兄さん誰~?」
「白髪って言うわけじゃないんだが……、俺は白谷磔だ、よろしくな。」
「モグモグ、本当にこのとうもろこし美味しいね!!」
「話聞けよ……。」
磔は注意しようとしたが、カナの美味そうに食べている姿を見て怒る気力が無くなった。
「で、これからどうするんだ?」
「決まってんだろ、紫を倒しに行くんだよ。」
「ん?紫って誰なの?」
カナは食べ終わったとうもろこしを謙治に渡しながら磔に聞いた。
「ここを滅茶苦茶にした奴だよ。」
「そうだったんだ……。負けないでねお兄さん達!!私はここを失いたくないから!!」
「「「任しとけ!!!」」」
磔達はカナに親指をグッと立ててそう誓い、紫の所に向かっていった。
「ん?ここは何処です?」
「ここは未来じゃない冥界よ。来たわね、妖夢。」
「ゆ、幽々子様!?何故ここに!?」
死んだはずの妖夢は過去の冥界に来ていた。
「貴方達が未来に行く前にもし死んでしまったらここに来るようにしてたのよ~♪」
「じゃあ、他の皆さんは?」
「ちぁんといるわよ~♪」
幽々子が後ろにあった襖を開けると、死んでしまった咲夜達がいた。
「妖夢も来たのね。」
「はい……。」
「頑張れ~!!良太頑張れ!!」
「良太も聖人と同じ変身が出来たなんて……。」
魔理沙とアリスはテーブルの上にあった水晶玉を見ながら応援していた。
「これは貴方達がいた未来の様子が見れるようにしてあるのよ~。」
「今どうなっているんですか!!」
妖夢も慌てて水晶玉を見る。
「今は良太が変身した所だよ~。」
「この声は!!」
「妖夢ちゃん、よっす!!」
お茶の入った現代でいうコップを数個持ちながら絢斗は笑顔で言う。絢斗の後ろには快、健二、彰がいた。
「さあ貴方達、ここから応援するわよ~♪」
「あれ?聖人は?」




