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ラクダみたいだね、

まだまだ寒いですが、春の訪れを描く事くらい良いと思うんです。

たいていどこのクラスにも居る、ちょっとかっこよくて、女の子達がさりげなく視線を送っている男の子。そういう人はだいたい、背が高かったりスポーツが出来たり勉強が出来たり優しかったりする。


でもまあ、それだけなんだ。他の男の子と違う部分なんて。


だから女の子にキャアキャア言われる男の子なんて、ちっとも興味なんてなかったんだ。ふーん、あそう、あーいうのがモテるんだ。くらいにしか思ってなかったんだ。


…………そのはずだったんだ。





「あーホントにかっこいいー!!爽やかだよねー!!篠田くん!」


鼻にかかった甘ーい声に、多数の声が賛同する。


私はチョコシェイクをずぞぞ、と啜ると夢見心地の女性陣に小さく反撃にでた。


「……だけどちょっと冷たくない?」


「何言ってんの。他のバカ男子が騒ぎすぎなだけ!」


「むしろそこがクールでかっこいいよねぇ」


「……そうかなぁ」


私はあんな物静かで何考えてるか分からない完璧超人は嫌だ。クラスのアイドル篠田 隆司は、バスケ部の主将で、数学が飛び抜けてできる理系で、物腰も柔らかく常に落ち着いているけれど、だからこそ隙がない。あんなのに彼女なんていたらきっと自分の必要性の有無に思い悩むだろう。そうに違いない。


首をかしげる私に、鞠音ちゃんが女子代表ですと言わんばかりの表情で詰め寄った。毛先だけカールしたロングヘアーから良い匂いが鼻腔に広がる。確かに彼女に女子代表を名乗られても否定できまい。


「亜子ちゃんは分かってないのよ。彼に微笑まれて、ときめかないの?」


篠田くんに?微笑まれて?ーーーー思わず鞠音ちゃんの向こう側のカウンターにある、店員さんの無料の笑顔を見つめる。


「あそこの店員さんの笑顔と、何が違うの?」


はあぁー……と女性陣からため息が漏れた。


「亜子ちゃん、凄く可愛いのにもったいないねぇ」


まるで可哀想にと言わんばかりの口ぶりだ。なによなによ、悪かったわねぇみんなの趣味と違って。私はもっと、体は大きいけど不器用で笑顔が苦手なソフトマッチョが好きなんだもん。あんなサウジアラビアの王子みたいな、顔の濃い王道系は好きじゃないんですっ!!


哀れみの視線の中で、涙目になりながらシェイクをずぞぞーっと吸い込んだ。





「条野さん」


「ふぇっ」


朝。時刻はーーーー多分7時くらい。珍しく早起きした私は、勉強のためにいつもよりずっと早く登校していた。だがしかし眠いものは眠い。いつのまにうたた寝をしていたのか、いま篠田くんに声をかけられるまで長いこと寝ていた気がする。


ん……?篠田くん……?


慌てて顔を上げると、少し戸惑ったようなクラスのアイドルの笑顔があった。

これがみんなの憧れの篠田スマイル………じゃなくて。


「あ、お、おはよう」


「おはよう。条野さん、早いなって思ったら寝てたから……起こしちゃってごめん」


ますます気まずそうになる篠田くんにぶんぶん首を振ると、歪な笑顔を浮かべた。


「いやいや、起こしてくれて助かった。ありがとう」


私の笑顔を見て満足したのか、篠田くんは素直に隣の席についた。そうか、そうだ、昨日の席替えで彼は私の隣になったのだった。


荷物の整理をする彼をボンヤリと眺める。首が長い。頭が小さい。睫毛が長い。なんか、


「篠田くん、ラクダに似てるね」


「えっ」


瞳をぱちくりさせる篠田くんは、やはり砂漠を優雅に歩くエキゾチックなラクダに見えた。


「ふふ」


篠田くんはしげしげと私を見つめると、少し嬉しそうに初めて言われたなぁと呟いた。


篠田くんはちっともアイドルっぽくないし、崇められるほど素晴らしいのかどうか分からないけど。なんだかちょっと、いい人だなぁと思った。







「ラクダ、ねぇ」


「なんかいった?」


ユニフォームを被りかけた状態の友人に、何でもねぇからさっさと着替えろよ、と声をかける。


全く言葉を交わしたことがなかったクラスメイトの何気ない一言と屈託のない笑顔が、何となく自分の胸をむず痒くしていた。


明日も早めに行くか。


ボールを手に取り、微笑みを浮かべた。


無骨で不器用なハニカミ笑顔の大男は完全に私の好みです。ひょろひょろしたブロッコリー男子なんて男の風上にも置けぬわ‼︎‼︎

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