1.蠢く! (改訂
光ひとつない暗闇の中、高き場所から声が響き渡る。
「・・・これで、少しは影響が出るだろうか」
期待もしていない、あざ笑うかの様に暗い空間に吸い込まれ、だれも気づかない。
少し離れた暗闇の底から、激しい遣り取りが響き渡る。
黒い空間に、ギラギラとした黄金の眼が睨む。
「何を悠長な事をおっしゃられるのか!」
それに合わせるかの様に、離れた黒い空間に爛々とした赤い眼が揺れる。
「その通りですぞ!また先日、こちらの集落が落とされ申したのですぞ!」
黒い空間を埋めるように、次々と、眼・眼・眼・・・。
「・・・ァー様・・・!」
「無礼だろ!」
「!!!」
「ふざけるな!」
ワーワー、ギャーギャー。
まるで、この喧騒とは分離されたように、静寂が存在する。
暗闇の高みから呟きがもれるが、聞き留めた者はいなかった。
「・・・大罪の種は蒔いた。フフフッ」
暗闇は微笑む。
・・・
カッ!と突然中空に、直径5mはある巨大な炎の塊が現れる。
「うぉ、まぶし」 ガヤガヤー
「誰だ!王の前で魔法を発動させたのは!!」
大理石の巨大な広間、中央には長く赤いじゅうたんが引かれ、数段高みに
豪奢な玉座。玉座に座る黒尽くめの男、その下に集まる異形が炎の明かりに
浮かび上がる。
炎の塊と比べてかなり小さい、翡翠色の髪をした少女が扉の前に立っていた。
頭の横には悪魔のような角が生え、髪の色と同じ翡翠色の目で睨む。
「私を、・・・私にお父様に刃向かう、人間共の駆逐に行かせて下さい!」
玉座には、少女と同じだがより攻撃的で大きな角を付けた黒い髪の豪奢な服を着た男。
顔を右手の手の平で抑えたまま、手の平だけがほの白く浮かび、ただ沈黙する。
「おとうたま!!
どっ、どうして、・・・これでは長引くばかりで決着がつきません!」
「第16位の魔物皇女さま? よろしいですか。
あなたごとき、失礼。魔王様の深遠なる策謀が、それがし達ごときが理解など不遜!」
まったく失礼とは思っておらず、役立たずを見るように蔑んだ目を少女に向けていた。
鴉頭の黒地に金の刺繍をした服を着る紳士然とした、細身の魔人が声高に褒め称える。
他の異形の魔人も賛同するー
「その通りですぞ!」ワイワイ
「・・・その為にもまずは我が領地への派兵の数を・・・」
「いやいや、一番前線に近い砦の拡張の承認が・・・」
「ばかな・・・集落崩壊の損失補填・・・」
「ふざけるな!」
既に炎の塊は、火属性の異形の魔人が同化させていた。
また、暗闇の中に目だけが爛々と浮かび上がった影達が蠢く。そう、闇が蠢く。
まったく無関心だった。
私の顔も見てくれない。
私に声も聞かせてくれない。
生まれてから一度も、私は腕に抱いてもらったことは無い。王族だから。
違うと思う。
嫌悪されてもかまわない。私を見てくれるなら・・・
「・・・うっ」
床に落ちた水滴は、闇で見えない。扉を出た後は、堅い靴音だけが響いた。
カッ、カッ、カッ、・・・。
※伏線のようなものをおいてみたり。