13.黒耳さんの戯言
「こっちついて来て」
僕の前には、ちいさなお尻を振りながら小さい身体で一生懸命歩く少女がいる。
肌は美味しそうなチョコレート色。髪は銀色の長髪で腰まである。
前髪は顔を隠し右目の紫色の瞳だけが覗く。胸はこれからに期待の、耳の長いエルフ。
そう今度はダークエルフの美少女のご登場だった。
今、奴隷たちの修練所らしいグランド横を、少女を先頭に突っ切っている。
「おーおー、出戻りの黒耳さんだよ。ケヒヒヒ」座り込んだ無精髭のオッサン。
「今度はそいつが相手かい、黒耳にはおにあいだw」剣をブラブラさせマッチョが嘲る。
「豚の腹の上でヒーヒーさせられてるのか~オイ。オアラ!くそ黒耳よ!!」男が脅す。
びくっと少し少女の身体が緊張するが、無視してる。
「おら!だんまりかよ!」男が寄ろうとする。
ん!?と少女の後をついていきながら、僕は近づく男の方を何気なく近づき見つめる。
「ひっ!?なんだこの豚が!」あとずさって、てんでバラバラに戻る男達。
まったく、なんなんだ。
人が可愛いお尻を、愛でているというのに邪魔をしおって、けしからん。
ナイス!お尻!僕オークですおしまい、鑑賞の作業に戻ります。
ダークエルフの少女、フアナがこちらを振り返っていた。ん?なにかな?フゴッと鳴く。
深いアメジスト色の右目で見つめられる。まさか!?お尻ガン見してるの気づかれた!?
ふいっと興味なさげに前を向き、歩き始めた。・・・ほっ、ばれなかったようだ。
***
いつものように、朝ご飯を食べながら、アン姉さんの乳とちっちゃい子達に癒されてい
ると。誰か来た・・・ふう、キンカーさまご登場です。朝っぱらから、溜息です。
「おい!アン。今日からコレも、オークの躾をする事になったからな」
「はあ、この子がですか。でも、オークなら結構言う事聞いてくれますよ。大人しいし」
オッサンの後ろに、銀髪の俯いた褐色の肌の少女がいた。エルフ耳だ。
「ち・が・う!ペットじゃない!
拳闘士としての命令だ!戦うための躾だ!
このオークを、次の拳闘会に参加させる!アンガスの小倅に一泡吹かせるんじゃ!!」
キンカーさま、テンションアップ!!
そんな無理ですよ、日数もないし、この子にも危険ですとアン姉さん正論アタック。
キンカーさま、バーニングw駄々っ子だ。
「うるさい!うるさい!!
拳闘会の試合に出す。無理だろうがコレといっしょにな。パートナーとして、くくっ」
「なっ!?モンスター戦に人を出すなんて」
「ひと?くくく~コレは亜人だろうがぁ!
我が国では人とは認めておらん!人間以外を出す事に、問題はなかろうよ~」
「・・・」
「おい!来い!」
ジャラリ。
キンガーさま、ダークエルフの鎖を引っ張る。首輪には赤い石が3つもある。
「まったく魔法抵抗だけは高いくせに、傷物の売れ残りが!
帝国語がわかるから、最後に使ってやる。
このオークを、次の拳闘会までに戦えるように躾けろ!わかるか!戦わせろ!」
「・・・、・・・はい」
「商品価値の無い奴隷なぞゴミだ!処分されないだけ感謝する事だ!
まあ、拳闘会で戦わす事ができなければ、敵側のモンスターに処分されるだけだがな」
「・・・」
「まったく亜人はそうそう簡単に処分できぬからな。
・・・まてよ、これは良い方法なのでは・・・ぐははは。そうかそうか、いい手だ」
「いいか、今日からオークにずっと付きっ切りで躾けろ。
このオークはかなり女好きのようじゃから、身体を使ってでも躾ける事だな~がはは」
キンカーさまご退場~。ってか、僕って女好き扱いされてる!?不本意な~。
そりゃー女の子からのスキンシップには弱いし、涙なんか見せられたら、もう。
アン姉さん、ダークエルフの美少女に話しかけてる。
「フアナ、大丈夫かい?」
「・・・、・・・なんとも」
「慰めにもならないかもだけど、このオークは大人しいし、まだ1歳くらいだけど賢い」
ポフっと肩を叩き、ちっちゃい子たちを連れて戻る。
あっ、二人っきりにしないで~。
ダークエルフの少女は、角に座り込んで動かない。
空気重っ、時間だけが経ちます。
夕飯の時間です。
あー、夕飯だけ置いてアン姉さんたち、また戻っちゃった。
実質ひとりで晩ご飯、フゴフゴ泣く。
もう、寝るしかないっす。
ふとっ夜中に眼が覚める。顔の横に気配が・・・うお!?こわっ。
ダークエルフの少女が立っていた。
まるで闇に同化したようにフラッと立ち、眼だけが強い光を放ち、こちらを覗いている。
「おまえは帝国語わかるの」
フゴフゴッと鼻動かす。フゴフゴ。
「オークだものね。ふふ」
「なにか、しゃべりなさい」
「さけびなさい」
「命令聞きなさい」
「・・・」
「うんざりなのよ」
僕の顔を小さい手でガッチリ押さえてくる。そこ痛い、眼がたれ目になるっす。
「オークだろうが、なんだろうが、私の命令聞きなさい」
「はいっていえ!鳴き声以外でしゃべりなさい!」
「しゃべれ!命令を聞けー!!」
「命令を・・・」
「命令を聞けないなら、僕を殺して・・・」
オークの口を開こうとする。ウニーッと唇をめくられ歯茎がのぞく。痛い痛い。
「殺して、殺して、殺せー!」
「・・・」
「・・・あばれなさいよ」
手を離し、ぺたんと座り込む。
「オークの癖になんで大人しいのよ。私エルフなのよ」
「威嚇しなさいよ。捕まえなさいよ。襲いなさいよ」
「言葉わかるんでしょ」
「賢いんでしょ」
「アンさんの言う事は聞くくせに」
「ふふ、オークにまでバカにされてるんだ」
「ええ、そうよ。バカよ。」
「あ、あんな家族の為に、奴隷に自らなったバカよ!」
「こんなに傷つけられても信じたオオバカよ!!」
首の後ろを解くと、パサッと腰まで上着がはだける。
綺麗な褐色の肌、ささやかな胸の膨らみにツンと上を向いた・・・
胸の真ん中に十字の切り傷、皮膚が醜く引きつっていた。それ以外にも細かい裂傷跡。
背中にもかなりありそうだ。そして額から左目を伝って顎付近まで、顔にも傷があった。
フサッ、また髪で隠された。
「奴隷を抜け出す事も適わない」
「首輪の性で自刃する事もできない。処分される事を待つだけ」
「ゴミの様に処分されるなら、オークに喰われる方がいいと思わない?」
「喰われる方が自然の摂理に適ってるもの、ふふ」
「もう、疲れたのよ」
「ふ・・・まだ、涙でるのね」
両手で顔を隠す。「僕、何をしてるんだろう」と呟いている。
ぐおーーー来たよ、僕っ娘。
しかもエルフの生チッパイ、見てしまいました。至近距離でありがとうございます。
はあ、これは少し責任とって動きますかね。弱いな~。
フゴーとため息。起き上がって彼女の服を上げてあげるが・・・指が太くて結べない。
「・・・」と顔を上げ、意味を分かり服を着る。
「そう、こんな醜い身体、オークも見ていたくないという・・・」
負のスパイラルだね。ゼノビアにも、ちっちゃい子達にも好評なベットにご招待だ。
両手で優しく抱え、お腹の上に乗せて、さて僕はもう寝るよ。休暇は終わりか~。
フゴフゴッと。
オークの腹の上で、身体が震えて固まる。いつまで待っても何も起きない。
寝てる。オークは目を瞑り寝ている。どこかで安心した自分がいた。
やっぱり怖かった。奴隷のまま、誰にも気づかれず、朽ち果てるのがいやだった。
ふふ、オークに同情されたの・・・
「・・・なんなのよ。あたたかい・・・」
冷たい地面ではなく、ふかふかであたたかだ。
「おまえ・・・しゃべれたら、よかったのに・・・」
他人のぬくもり、スーと睡魔が襲ってきた。「・・・」小さく囁かれたが闇に紛れた。
***
朝、ビキニアーマー(黒)のアン姉さんと子供たちの前で・・・
「お、お手。よ、よし。おお、おかわり。よし。ま、まて、・・・食べてよし。」
オークに慣れない手つきで、『よしよし』としているダークエルフの少女がいた。
ちっちゃい子たちがオークに突っ込んでいく。
「あはは、お腹~」
「ぽよん、なー」
「あははははー」
オークはフゴフゴと、硬いパンをガリガリかじっていた。
***
ここが修練所の武器庫のようだ。管理している所員が数人で扉を開ける。
ダークエルフの少女が入っていくのについて行く。でかい倉庫だ。
手前には人間サイズの剣とか槍が、大量に並んでいる。
奥には凶悪な武器が立て掛けれている。でかいメイスにバトルアックス。バリスタって。
人が扱えるのかというような、ホコリを被った鉄の塊たちがあった。
「気に入ったのあった?」
あれっぽい3mほどの鉄板のような剣があったんだが、いろいろやばいので辞めた。
もう一つ面白いのがあった、刀身が<<<と分断された蛇腹剣。ガリアンソードじゃん。
この世界には存在するんだ~、柄もギミックが入っているのか割と太くて丁度いい。
これも全長が3mくらいある。人じゃ柄が握れないと思うんだがな。
ギミックを弄る。ガシャンと崩れる。2段階に長さの調整、柄に巻き取り式かな。
紐が二本で繋がっている。なるほど。紐だなワイヤーなわけないもんな。
なんかファンタジー的な紐・・・まあ、魔法で補強してるとかそんな所かな。
あはは、鍔を回すと巻き取られるようだ。一度ばらしたら戦闘中戻せないね。
「へー不思議な剣ね。これでいいの?」
じゃ、予備に頑丈そうなトゥハンドソードも一本持っていこう。
修練所のグランドのすみにダークエルフの少女とでかいオークがいた。
オークは左手に大きい変な剣を引きずり、右手にトゥハンドソードを持っていた。
フゴッフゴッ鳴いてる。
先程の男たちも近くにいて、訓練をやめ野次を飛ばす。
「おいおい、黒耳がオークに剣持たせてるぜwwwwwぎゃはは」
「バカじゃねの~、オークが剣なんて器用に扱えるかよ~」
「コレだから、出戻るんだろうw黒耳さんは、がははははー」
「まったくだぜ!やめろ、やめろ!」
「さっさと巣に戻って、豚の下の世話してる方がお似合いだぜ~くくく」
「今度、俺の下の世話もお願いしようかね~あはははは」
ギャハハハハーとあちこちから、下品な笑いが響き渡る。
オークは相変わらずフゴフゴッと鳴いている。少女が前を指差し小さい声で命令する。
「アタック」
前方にある、地面に突き刺した人ほどの太さのある丸太に走る。フゴフゴッと。
右手のトゥハンドソードを真横に振り切り、スパン!と丸太が分断される!
今度は左手の、ガリアンソードで唐竹割り。バキ!と丸太が根元まで真っ二つに割れる。
「アタック」
オークの横にある次の丸太を指差す。ガキンガキン!ギミックを外すとソードが崩れる。
全長5mになった分断された剣の鞭を振り回す。丸太にギャギャ!と撒きつき食い込む。
引っ張ると、丸太は根元からボギ!と折れ空中を舞う。そのまま地面に叩きつける。
ドゴン!と轟音をあげバキバキとヒビが入る。ガス!とトゥハンドソードを突き刺す。
ギュララ!蛇腹剣を引くと、丸太は樹皮ごと中ほどまで抉られ、丸太はバラバラになる。
「バック」
フゴフゴと剣を引きずって少女の所に戻ってきて、座る。
少女は、よしよしとオークの頭を撫でる。
僕は鍔をグリグリ回しながら、まあまあだったかな~と今の動きを思い出していた。
修練所にいる人たちの動きが、先程までのままの格好で止まっていた。
野次を飛ばしていた男達も、下品に笑った男達も声を発せられなかった。
どいつもこいつもアゴが外れたように大口を開け、呆けた顔でこちらを見ていた。
どこかで、誰かが振った剣が丸太にポコン!とマヌケな音を大きくあたりに響かせた。