怨讐少女 スラムコード/孤児院のご褒美
「こら、待ちなさい!今日という今日は許さないわよ」
「ははっ、馬鹿舌な大人が悪いんだろ?知らずに食ったならいいじゃねーか」
またテオが悪戯して職員のクローディアに追っかけられている。
今日の夕飯の予定だった鶏肉のソテーを蛙肉とすり替えて食わせたようだ。
私より二つ年下の十一歳のテオは日常的にそんな悪戯をしているが、不思議と持ち前の明るさと可愛らしい笑顔で、大人からも子どもからも嫌われることがない。
私とは正反対の子どもだ。
「蛙って食べれるの?うぇっ」
「だから今日の鶏肉がいつもより多かったのか?倍以上あったもんね」
他の子どもたちもクローディアが怒っている理由から、今日の夕飯が豪華だった理由がわかったようだ。
この国は戦争が終わったあとも十分な食料はない。
私たちがいる施設も例外なく毎日お腹いっぱいにご飯を食べれることはなく、なまじ昔は食べられることが当たり前だった年代の子どもの夢のほとんどが「腹いっぱい飯が食える大人」だった。
「また、君の入れ知恵なのだろ。ネラ」
背が高く、どこか品のある男が私の対面に座って話しかけてきた。名前もユリウス・グランツといい、やはりどこか品が良い。
「さあ」
私は本に目を戻し、話を濁した。
ユリウスは一見冷静沈着な男ではあるが、この施設のあり方や行政に対していつも不快を口にする。
しかし今、ドタドタと逃げ回っているテオともやはり正反対の性格だが、目的が被ることは多く、子どもの味方であることは変わりがない。
元々テオは、少年少女が集まって犯罪を起こす集団に五歳から入っていた。戦争孤児で身元がはっきりしない子どもたちが犯罪組織にいることは珍しくないが、低年齢層の集団だったため、凶悪犯罪は犯していない。
基本的には窃盗集団で、置き引きやスリが基本の仕事。当然子どもではどこかの家に押し入って強盗を働くなんてできず、明らかに不在の家に入ることはあっても、凶悪犯罪までできる力はなかった。しかし戦後時間が経つと行政は、本格的に動き出し、八歳の時にテオはこの施設に入れられた。
「テオが蛙の肉が鶏肉に近いなんてわかるとは思えないんだがね」
ユリウスは微笑みながらテオを目で追っている。
「買いかぶりすぎだ」
私はユリウスにそれだけ伝えた。
ユリウスは幼児の頃からここにいる。
別の国で生まれ育ち、施設からは戦争孤児としてここに預けられたと言われている。
しかしユリウスの話では、親は生きているらしい。
人づてに聞けばその頃から行政に対して不満を募らせるようになり、育ちが良さそうな温和な子どもから野心を持つ子へ変わった。ユリウスが入れられた当時はまだ戦争中だったため、戦闘訓練の授業なんかも当時はあり、訓練も学問もトップの成績を叩き出していた。
高等部へは、治安の悪いこの辺りの学校ではなく、隣町の富裕層が入れるような場所へ特待生として推薦しようと施設は狙っている。
そういった結果が施設の評価になるからだ。
「ここにネラが来てから一年、いたずら事件を辿ると君の匂いが必ずする。大人たちは気づいていないだろうが俺の目は誤魔化せないよ」
「……脅迫か?」
「勘違いしないでほしい。君とは友達になりたいと思って話しかけているつもりだがね」
「……友達?」
ひさしく聞かなかったワードだ。
私は第一級殺人の罪で去年からここに来ている。
そのせいで子どもだけじゃなく、大人までもどこか他人行儀だ。この国には未成年を収容する機関がない。
正確には十四から少年矯正施設があるだけで、当時十二歳だった私は収容されなかった。
だから戦争孤児がたくさんいるこの施設に入れられたのだが、事件は巡察官の殺害であり、同じ公の施設でもあるここの大人も私をどう扱ってよいのかわからず、必要以上に関わられることがなかった。
「はいはい、みんな静かにして。今日は新しいお友達がきましたよ。紹介するから集まって」
クローディアはテオを追いかけるのを止め、気恥ずかしそうに職員の方へ駆けていった。
もう一人の職員が入口から連れてきたのは、小さな少年。頬には涙跡があり、さっきまで泣いていたのがわかる。
「えー、今日からみんなと一緒に暮らす、アルウィン君、七歳でーす。みんな拍手〜」
パチッ……パチッ……
施設の子どもからは疎らな拍手が聞こえてくる。
「あれ〜?この前ミリアちゃんがきた時はみんな盛り上がっていたのにどうしたのかな〜?」
「あぁ、よく来たね……アルウィン君」
少し年上の子どもが、とりあえずのような言い方で反応してくれていた。
子どもたちはみんな知っているのだ。
このアルウィンがこれから受ける洗礼を。
それはみんなから人気のある職員クローディアも知らないのであろう。これは施設の子どもだけが共有している暗黙の了解だった。
アルウィンを歓迎したくないわけではない。むしろ逆だ。
ただ、所詮は子どもでしかない私たちに、できることには限りがあった。
これから何が起きるのか知っている以上、心にもない大きな拍手で迎え入れることはできないようだ。
「先生、助けて!僕は悪いことなんてしていない!おばあちゃんならいるんだ。こんな所にいたくない!」
アルウィンはユリウスに駆け寄ってくると腰にしがみついて大声で助けを求めている。
どうやらユリウスを職員と間違えたらしい。
「おおい……困ったな……」
ユリウスも助けを求める少年を無下にはできず、頭を掻いて困惑している。
「おお?早速優等生ユリウス君に懐いたのかな?じゃあ面倒みるのを手伝ってもらおうかな?」
クローディアは笑顔でそう告げた。
◇
翌日、夕食後にテオが、施設の中でも選りすぐりの悪そうな子どもたちを集めて計画を立てていた。
中には結構な年上もいるが、単純にテオは、誰よりもヤンチャなのだ。
「今回はどストライクだぞ?アルウィンの見た目も年齢も!」
「ああ、ご褒美もらえるのは確実だ」
「ああ、わかってるよ。ただ力じゃ俺でもこればっかは止められねえからな」
「弱気になんなよ。テオ、全員でやったらいけんじゃねーか?毎回毎回ご褒美ってのは許せねーだろ?」
テオはみんなに頼られているが、如何せん頭が悪い。口より先に手を出すヤンチャだから過去に何度も失敗して単独部屋にぶち込まれていた。
「おいネラ、なんかいい手はねーかな?」
「子どもが何をしてもダメだったんだろ?ならムリじゃないのか?」
「そうだなー。せめてこの体がもう少しデカくなれば、阻止できるかもしれないんだがなぁ、本ばかり読んでいるのだからなんかないのか?」
「お前のなぞなぞに答えるために読んでいるわけではない」
「あいっ変わらず口が悪いなネラは。でもご褒美はなんとしても阻止したい!それはここにいるなら同じだろ?」
「私は女だからな。お前ら男がどう思うものなのか、共感はできん。ただ辛いものだと聞いているからそのようなものかとしか想像できない。お前ら男も女をわからぬだろう」
「うっ……そりゃそうだけどよ?だからといって止めない理由にならないだろ?俺がなんとしても止めてやる」
「今まで子どもたちで脱走したりしてもダメだったんだろ?じゃあ大人を味方につけられなきゃ同じことだろう?」
「大人……?クローディアのことか!?」
「いや、お前たちは動くな!俺がやる!」
後ろから聞こえてきたのは、ユリウスの声だった。
「お前はエリートだろ?引っ込んでろ!」
テオはそう言うとユリウスを睨んでいた。
「俺は高等部には行くつもりはない!皆が思っているほど大人に従順ではないということだ」
ユリウスは制服の内ポケットをテオに開いて見せた。
少し長めのナイフが忍ばされていた。
流石のテオも目を見開いた。
この施設でナイフを手に入れるのは簡単ではない。だが、それ以上に意外だったのは、ユリウスがそれをこの場で見せたことだ。もっとも、ユリウスなりに考えたうえでのことなのだろう。
口で何を言っても聞かない連中に、自分が本気であることを理解させるには早い。それにユリウスは、失敗しようがしまいがその後もここに残るつもりがない。
以前、施設を出た者を通じて、戦後政府を敵視する復古派の団体と繋がりを持っているらしい。院長を殺したあと、その連中に身柄を預けるところまで考えていると聞いたことがある。随分と用意のいい殺人だった。
「エリート……そんな物どこで?」
「この町で手に入れるのはそう難しくはない。院長の悪行を終わらせなくてはならないのは君たちと同じだが、失敗すれば被害は止められずに終わってしまう。そのことが分からないのか?」
「どういう意味だ?ユリウス!」
「邪魔をするなということだ」
ユリウスとテオは睨み合いを止めない。
私はその場をあとにし、自分の部屋に戻ろうと部屋を出た。するとドアの外にクローディアがいたので、すぐにドアを閉めた。
「あら、ネラが休憩室にいるなんて珍しいわね?」
「ああ、特に理由はないが……。私のことより、テオを心配してやるといい。なにやら困っているらしいぞ」
そう言い残し自分の部屋に私は向かった。
ラジオをつけると海の波が高くなっていると注意喚起が流れている。部屋の窓の外を眺めると高い雲が西から流れ、風向きも変わり生暖かい風が窓から入ってきていた。
◇
「僕も……ここで食べて良いかな……?」
アルウィンは食堂でテオに聞いた。
「……ああ!もちろんだ!座れよ」
隣の椅子を引いてやりアルウィンを座らせた。アルウィンは「ありがとー」とテオに言うと微笑んでいたが、左の手は拳がギュッと握られていた。
周りにいるガラの悪い奴らまでアルウィンを受け入れているのには苦笑した。
◇
明日は土曜日。
施設の院長は土、日だけ来るのだ。
彼らが言うご褒美に明日アルウィンが選ばれるのは今までの生活の中で子どもたちはみんな分かっている。
「君は特別だ」「可愛がってやる」などと院長が色々な少年に言い、一夜を過ごすからご褒美。
彼らが揶揄して言うスラング。特に低学年の少年には目がなく入所すればすぐにご褒美を与えにやってくる。
ここにいる男で被害を受けなかった者のほうが珍しい。 テオも入所直後に一度は被害に遭っている。ただ、元々犯罪組織で生きていたせいか従順とは程遠く、それ以降は院長の『お気に入り』にはならなかったらしい。男たちは話したがらないが、私もなにが起きているのか分からない歳ではない。
「だがよ?今回はクローディアが別の職員と土日の夜勤のシフトを変えてもらうって言ってくれたろ、アルウィンは明日ご褒美の洗礼を受けなくて済むかもしれないぞ?」
「ああ、口にもしたくねー話だからな。アイツが俺等の話を聞いて、涙まで流すとは思ってなかったけどよ?」
「ご褒美?僕は院長先生にご褒美をもらえるの?」
アルウィンが話に入ってくると、テオの仲間は一斉に黙った。テオはアルウィンの頭を撫でると、仲間たちに言った。
「だけど俺たちもいざとなったら部屋に飛び込もう。特にエリートが変な気を起こすならそれも俺たちが全部止めてやる!」
「ああ、エリートは気に食わないところもあるけど、ここにいる連中は仲間だからな!俺たちもそれには賛成だ」
テオの人気があるのが分かる。基本いい奴なのだろう。年上のユリウスのことまで気にかけていて、人望も厚い。そして頭も悪い。本人は自分からクローディアに話をしたと思っているが、クローディアに匂わせたのは私なのだ。
ただ騒ぎが大きくなっていくのを本を読みながら、私は成功しか信じていない彼らの話を聞いていた。
◇
「みんなー!おはよー!」
土曜日の朝、食堂にクローディアはいつも通りの感じで元気にやってきた。どうやらシフトは変わってもらえたらしい。
食堂にいるテオの仲間だけじゃなく、他の子どもたちも安堵した表情を浮かべていた。
「今日はテオ君に朗報です!今日から一週間の労働体験研修に行けまーす!」
クローディアはそう言うと、子どもたちの顔が一気に不安な表情へと変化した。
「なっ、なんで……今日?しかも俺が?」
普段であれば従順な子どもが、選ばれる名誉あるイベント。普段から脱走を企てたりしているテオが選ばれるはずがない。
「それから……ユリウス君とネラさんは後で聴取室に来てもらいます」
ユリウスは特に驚いた様子もなく冷静な表情をしていた。これから取り調べがある。周りの子どもたちはシーンと静まり返っていた。
朝食が終わり、私とユリウスは聴取室にいた。
目の前にいるのは小太りの男。そしてここの施設の院長、テポットだ。
「ユリウス君、君の部屋からこんなものが見つかったのだが、説明できるかい?」
ユリウスは相変わらず表情を崩さずなにも答えなかった。テポットはため息を一度つくと、話を続けた。
「君には既に話している通り、山の手の学校への推薦をしてある。向こうの学校も乗り気だし、話題性も高い。私はそんな児童の未来を潰したくないのだよ」
「俺はそんな未来望んでいませんがね」
「そして、君はもう付き合うべき子を選んでもいい年齢だ。それはネラ、君にも言えることだ。君が起こした事件の内容は褒められたものではないが、私は子どもがやったことだと考え受け入れている」
私にも話が飛び火してきた。これから吐き気のする行為に及ぶ人間が、随分と寛容なことを言うものだと思い、私は黙って聞いていた。
「君も実に能力が高い。付き合う友達さえ間違わなければ立派に更生できると私は信じているよ」
テポットはそう言うと優しい顔で微笑んで見せた。
「君たちにこれ以上聞いても、きっと満足のいく答えは出ないことも分かる。だが不良たちを焚き付けていたと報告がある以上、無罪放免というわけにもいかん。よって一日、反省部屋で過ごすことをここに言い渡す」
こうして私とユリウスは、普段過ごしている施設から少し離れた建物に入れられることになった。
簡単に言えば物置だ。
小さな子どもは暗いこの物置に入れられることを非常に恐れているが、ユリウスも私もそれなりの歳だ。流石に恐怖は感じない。
聴取室では、職員が作った妄想が都合よく書かれていた。虐待に煩い行政は私たちを閉じ込めるにも理由が必要なのだ。《反則行為理由書》と書かれた書面に書かれた反則行為は《首謀行為》と記載されていた。
要は職員が児童を気に入らなかったらこうなる。
誰もが知っており、テオなどは何十回入れられたか分からない。彼は本当に悪いことをするから入れられるのだが。
私もユリウスもなにかを聞かれるわけではない。
長い時間書面を作成している職員を見ているだけだ。
ユリウスも長年いるせいでそれが分かっている。
そして作成は夕方までかかった。
聴取室を出るとドアの向こうにクローディアがいた。「長い時間大変だったでしょ?ご苦労様」と私たちを笑顔で迎えてくれた。
「悪人の特徴は、都合が悪いとバカなフリをするらしい。知っていたか?クローディア先生?」
私がそう言うとクローディアの顔がみるみる変わり、「日用品や必要な物を持って反省部屋の前に来るように」と私に言い、その場からいなくなった。
あくまでここは児童保護施設であり、懲罰施設ではない。反省部屋へ入れられる場合でも、日用品の持ち込みまでは禁止されていなかった。
私たちは子どもたちのいる階へ降りると「なにがあった?」「どうして?」とユリウスは質問攻めにあっている。私はアルウィンの部屋に行った。
アルウィンは椅子に座り絵本を読んでいた。
部屋はまだ来たばかりで大したものはない。
ただ児童向けの絵本は何冊も本棚に並べられている。
「どうしたの?えっと……ネラちゃんだっけ?」
「強く生きるのだよ、どんなことがあってもだ」
「え?……うん」
アルウィンは困った顔をしていた。
◇
「なぜ私の邪魔を――!この対応がどういう意味なのか君にわか――!」
ユリウスは怒りを私にぶつけてきたが台風の風の音でよく聞こえない。
真っ暗な物置小屋は鍵まで閉められている。通常《監禁》は違法だが、今回閉められていることに異常を感じているのはユリウスだけではない。
「ほう?私にあたるとは、思った以上に少年なのだな?ユリウス」
「全ての計画が終わる!このあと同志も迎えにくる予定だった。君だから事情を話したのだ!なにを狙っている」
「一年ここを見てきたが、復讐があまりにもお粗末だ。だから助けてやったつもりだが、それもわからんのか」
「助けた?誰をだ」
「さあな。これ以上は結果が全てだろ?ユリウス」
話はそこで終わり私は毛布をかけ横になった。
◇
物置小屋のドアが開くと台風が通り過ぎて落ち葉が校庭に散乱している。
翌日の昼頃、私とユリウスは解放された。
夕飯と朝食は食べていない。
流石に行政としてもそれ以上はムリなのだろう。
夜勤を終えてもまだ帰らなかったクローディアが迎えにきた。以前のような笑顔はない。
事務的に私とユリウスは施設内へ戻された。
私は早速アルウィンの部屋に向かうとクローディアは「アルウィンは今日具合が悪いみたいなの! そっとしておいてあげなさい」と言ってきた。
「そうか?では私が大人になったあかつきには貴様の未来の子にも同じ目に遭わせてやろう。約束してやるぞ」
「きっ、貴様って……!!……くっ」
クローディアは顔を真っ赤にして階段を登っていってしまった。そして職員室の扉の音が大きく響いた。
アルウィンの部屋に入ると、彼はベッドで横になっていた。
「大丈夫か?」
私が声をかけると布団から顔を出した。
「……怖かった」
アルウィンの目に涙が溢れていた。
「泣くな!」
私が怒鳴るとアルウィンは肩をあげビックリしている。私は本棚の絵本を取りだし開いて言った。
「ここに甘えられる大人はいない。小さな男でもそれを理解するんだ」
アルウィンは頷きながら、懸命に涙を拭っていた。
それだけ言うと私はアルウィンの部屋を出た。
◇
アルウィンが被害を受けてから一週間後の土曜日。
朝から食堂にいるアルウィンの周りには、子どもたちが集まっていた。今日もテポットが出勤してくる。
七歳のアルウィンもそれは分かっているが、誰も慰めの言葉を思いつかなかったようだ。
私はそんな様子を三流ゴシップネタばかり書いている新聞を読みながら見ていた。
そこにはこんな記事が写真付きで載っている。
《児童施設長!少年に性的暴行!?》写真では子どもの姿は隠されているが、裸のテポットと分かる後ろ姿がはっきり写っている。
食堂のドアが大きな音を立てて開くと、テポットが悪魔のような形相で仁王立ちしていた。
「誰の……誰の仕業だ!そして……施設の撮影機を……フィルムを盗んだやつ……とにかく犯人は誰だ!」
子どもたちには全く伝わらず、顔を見合わせている。
記事をよく読むと《今回のスクープはいつもと違い証拠映像がある!》と書いてある。
「自虐がすごいな。いつもと違いって……」
私は無意識にニヤけてしまっていることに気づき、すぐに真顔に戻した。
「全員並べ!持ち物検査をする!」
『その必要はない。検査されるのは君だ』
聞き慣れない声に目を向けると巡察官を引き連れている初老の男が立っていた。
「あ、あなたは……官僚の?」
どうやらお偉いさんらしい。
「君の話は私が聞くよ。来てもらおうか?」
「いや……違うんです!私はハメられています」
「ハメていた……のが君だと聞いているのだが?」
「うっ……」
テポットは顔を真っ赤にして俯いて震えていた。
子どもたちは状況がわからず口をあけてその様子を見ていた。
◇
新聞やラジオでの報道は、次の土曜日になっても収まることはなかった。施設にある校庭。端まで歩いていくとフェンスの奥には林がある。私が近づくと木の陰から男が出てきた。
「はい。今日の新聞」
「似たような記事だろう。もう持ってこなくてもよいのだが?」
「そんなこと言わないでくれよ。お嬢ちゃん。編集長もできる限りお礼して来いって言ってるからさあ」
男は怪しい笑顔を浮かべている。
「三流ゴシップ紙をもらってもな」
「痛いとこつくねー。だが今回の事件でうちも過去一番の売上!他の競合他社からも情報提供求められてすごいのよ?」
「……よかったではないか」
「なにかあったらまず俺にまた頼むよ、こっちもできることはするからさ」
「考えておく」
それだけ私はマスコミの男へ伝えると施設に戻った。
◇
自分の部屋に戻ると、部屋の前にテオとユリウスが立っていた。
「今日知ったよ。クローディアが自主退職したってよ、全部お前が仕組んだんだろ?俺が研修に行くこともさ?」
「テオのような愚か者を研修に行かせられる方法があるなら私も興味があるな」
「なっ、それ、どういう意味よ?」
テオは腕を組んで怒ってはいるが、伝わったようだ。
「確かに思えば不自然なところはあった。クローディアが突然テオに協力的な行動に出たこと、私のナイフが突然バレたこと、そして俺の同志が付き合っていたマスコミとの関係……音のする撮影機は台風だから仕込めた、全てはこのためにか?」
「さあな」
それだけ答えて私は部屋のドアのノブに手をかけるとテオが私の手を止めた。
「なっ……無礼な……」
私はそう言ったが、テオは手を離してくれない。
真剣な眼差しで私を見ている。
「それだけのことが……それだけ頭がよくてもアルウィンを事前に防ぐ方法はなかったと信じていいんだよな」
私はなにも言わず手を払い部屋に入った。
久しぶりの短編です。
ご意見とかあったら嬉しいです。




