そこは目を瞑ってくださいよ
湯煙が晴れたら見知らぬ場所に居た。
奇怪しい。俺はのんびりと露天風呂を楽しんでいたはずなんだが。
「死因は湯中りによる溺死らしいですよ。
どうやら長風呂のし過ぎだったみたいですね」
死因⁈
突如現れた女性がこれまた縁起でもないことを言ってくれる。
「まあ、初めてだとこういう反応になりますよね。
ともあれ、石風呂千里さん、あなたが死んだのは事実です。そして閻魔大王の裁定にてこの世界への転生が決まりました」
何だこいつ……。せっかくの美人なのに頭が残念な可哀想な子かよ。
「誰が頭の残念な可哀想な子ですか。
これでもこの私、フォルティナちゃんはこの世界の転生を司る女神なんですよ。言葉には気をつけてほしいものですね」
女神?
真偽のほどは不明だが全く威厳というものが感じられない。
だがしかし、このわけの解らん状況や面識のないこの子が俺のことを知っていることを考えるとやはりこの子のいうことは事実なのか?
「悪かったですね、威厳がなくて。
せっかくあなたが萎縮しないように神々しさを抑えてフレンドリーに接しようと努めてたというのに、そういう態度ならばそれでも私はいいんですよ」
え?
な、なるほどそう言われればまあ納得いかないこともないか。確かに神が相手となれば普通は萎縮もするだろうしな。
「ふふん。解ればいいんです。
フォルティナちゃんは寛容な女神ですから慈悲で許してあげましょう」
しかし自分で言うかねぇ……。
いやまあ神っていうのは案外そんなものかも知れないか。世界各地の神話を思えば個性的な神様も結構多かったわけだし、中にはこういう神様がいても不思議はないかも知れない。
「さて、それでは本題に入りましょうか。
私、フォルティナちゃんは慈悲深い女神なので転生者には一つギフトを与えることにしてるんですよね。
というわけなので望む才能を言いなさい。全知全能や不老不死のような人間離れしたものには応じることはできませんが、人間としてそれなりのものであるのならば与えましょう」
ああ、なるほど一応は考えているんだな。
確かに、全知全能や不老不死ってのはな。チートが過ぎて最早神に近い領域だ。
とはいえ、せっかくのそれなわけだしこの機会を活かさないってのはない。
まあ天下無双の活躍を望むつもりはないし、ならば世界の理に関わることなく、それでいて安泰なスローライフを送れる能力となると何があるか……。
う~ん…………。
そういえば情報を制する者は世界を制するなんて言葉があったな。全知全能は無理にしても、それを知るための情報収集能力ならば案外なんとかなるかも。千里眼や順風耳ってやつはファンタジーでもそこまで重要視されてはいないわけだし通る可能性はあるとみた。
とはいえ望みは一つのみ、となると順風耳よりも千里眼か。百聞は一見に如かずというし、もしかしたらその辺の情報も字幕で目視できる可能性があるかも知れないし。
「千里眼? 物事を見通す能力か。
まあいいんじゃない?
それじゃ早速。えいやっ!」
おおっ⁈ 通った!
身体全体に清々しい力を感じる!
そして視界が晴れやかで眩しい!
「そんなに喜ぶほどのことかなぁ……。いくら見えたからってそれをどうにかできる能力がなければ意味なんてないのに」
え?
……って、ぶふぉおっっ!!
な、な、な、これはなんというか……。
「へ? 鼻血?
!!
ちょ、ちょっと、あんた、何を見てるのよっ! この変態!!」
ぐわっ⁈
そんな女神フォルティナとのやり取りの後俺は転生。
彼女の呪いのせいだろう、産まれた俺の目は潰れており、せっかくの千里眼は盲目なため意味がなかった。
あれは事故なんだから目を瞑ってくれたっていいだろうに。あれのどこが寛容なんだよ……。




