07ただの令嬢に罪を着せるなんて許せない
地面を這うように広がり、兵士たちの足元を包み込んでいく。
「ぎゃあああ!」
突然、兵士たちが悲鳴を上げた。彼らの体は糸操り人形のようにふわりと宙に浮き上がったのだ。そのまま公爵邸の門の向こう側へと、ゆっくりと運ばれていく。
「くっ……離せ!」
宙吊りにされた兵士たちはもがきながら叫んだが、フローラの放つ藍色の光の力は圧倒的。彼らは抵抗する術もなく次々と門の外に押し出され、地面に優しく着地させられた。
兵士たちに一切触れることなく彼らを排除したのだ。目に見えない手が操っているかのようだった。
「屋敷から締め出すなど愚かな真似」
フローラは言い放つと何の障害もなくなった門をくぐり、屋敷へと入っていく。アルノッド、ルールクア、エリクも後に続いた。
兵士たちは、恐怖に顔を引きつらせながら、ただその光景を呆然と見つめる。
公爵邸の中も、王家の手によって荒らされた形跡があった。だが、心は動じない。瞳に宿る藍色の光は全てを乗り越える強い意志を映す。
「アルノッド。屋敷を元の状態に戻してちょうだい。それから、王家が私に何をしてきたのかもっと詳しく調べなきゃね。王都の闇を全部暴いてやるんだから」
アルノッドは満足げに頷いた。彼女に賛同する貴族たちの動きはすぐに王城に伝わる。
レナード王子とルミエール嬢の件で混乱の極みにあった王家はフローラの反撃に対し、さらなる強硬手段で臨むことを決定。
「フローラ様、王城から緊急の召喚状が届きました」
アルノッドが差し出した羊皮紙には厳めしい王家の紋章が押されていた。
「明日、王城大広間にてフローラ様に対する断罪の場を設ける、とのことです」
「断罪?ふん、笑わせてくれるわ。断罪する前に、自分たちの罪を数え上げたほうがいいんじゃないの?」
鼻で笑った。ルールクアの表情は険しい。
「罠の可能性が高い。王城内部での争いとなれば、君の力をもってしても危険すぎる」
「分かっている。でも、行かないわけにはいかないでしょ?ここで逃げたら私たちがやってきたことが全部無駄になる。それに、王家が私を断罪するというなら、私も彼らを断罪する。最後の決着の場よ」
瞳は燃え盛る緋色の炎を宿していた。視線は一切の迷いを許さない。
翌日。フローラはアルノッド、ルールクア、エリク院長を伴い王城へと向かった。背後には賛同を表明した貴族たちの代表者たちが、固い決意を胸に続く。
王都の民衆も歴史的な瞬間に立ち会おうと、王城へと続く大通りに押し寄せている。視線は希望と不安が入り混じった藍色の空の下、フローラに注がれていた。
王城大広間には現国王を始め、王族の重鎮、王家派の貴族たちが顔を揃えている。
やっぱり。彼らの顔にはフローラに対する敵意と警戒の色がはっきりと見て取れる。
中央には捕らえられたレナード王子とルミエール嬢が、憔悴しきった様子で引き立てられていた。
「フローラ・アスター公爵令嬢!貴様は王子の婚約者でありながら、地位を笠に着て不敬を働き、更には王家への反逆を企てた。罪は万死に値する」
国王の側近が威圧的な声で弾劾した。
「黙れ。不敬を働いたのはそちらの方でしょう。王家を欺き、国民を欺き、貶めようとした。その罪、誰が万死に値するか、明らかにしましょう」
大広間の中心へと堂々と進み出た。言葉は氷のように冷たく、重みを持って響き渡る。
「では、お見せしましょう。王家が隠し続けた緋色の真実を」
両手を広げた全身から激しい緋色の光が溢れ出した。光は燃え盛る炎のように大広間を照らし出す。王家派の貴族たちは圧倒的な力に怯み、後ずさりした。
「アスター公爵家に代々受け継がれてきた力。王家が永きにわたり隠蔽し、監視してきた理由です」
フローラの言葉と共に緋色の光が形を変え、大広間の壁に幻影のように映像を映し出した。
アルノッドが持ち帰った誓約書の内容、王家が力を恐れ、レナード王子との婚約を画策し、後に陥れようとした過程を克明に示している。
さらに、レナード王子がルミエール嬢と駆け落ちに至った、より詳細な経緯までが鮮明に映し出される。二人の間に王家では公にできない事情があったこと、彼らが利用された側面も垣間見えた。
広間は騒然となる。王家派の貴族たちは動揺し、国王も顔色を変えている。民衆からのどよめきが、扉の隙間から聞こえてくるようだった。
「貴様のでっち上げか!」
国王が怒鳴った。
「でっち上げですって?真実しか映し出さないわ。王家が隠蔽した全てを国の民の前に明らかにしてみせる!」
大広間全体に響き渡った。映し出した真実の光景は王城大広間に集まった全ての人々に衝撃を与える。
王家派の貴族たちは顔面蒼白となり、国王は怒りとも恐怖ともつかない表情でフローラを睨みつけてきて。レナード王子とルミエール嬢は自分たちの過去が白日の下に晒され、茫然自失といった様子で立ち尽くしていた。
「この光景が全てを物語っているでしょう?」
力強く大広間に響き渡る。背後で、アルノッド、ルールクア、エリク院長、フローラに賛同する貴族たちが彼女を見守っていた。目にはフローラへの信頼と、新しい時代への期待が宿っている。
「王家が国民に隠し続けた真実です。アスター公爵家の力を恐れ、監視し、都合の良い駒として利用しようとした。自らの失態を糊塗するため、不当な罪を着せようとしたのです」
王家へのとどめの一撃。大広間は王家派の貴族たちのざわめきと、民衆の怒りの声で騒然となる。その時、一人の貴族が国王に向かって進み出た。
「陛下!これ以上国を欺くことはできません!我々はフローラ公爵令嬢の訴えを支持します!」
声に続き、次々と他の貴族たちも声を上げ、王家の不正を糾弾し始めた。国王は反発を前に何も言うことができない。
王家の権威は完全に崩壊したのだ。混乱の中、ルールクアが静かに一歩前に出た。
「父上……レナード兄上。もうこれ以上、国を混乱させないでください」
ルールクアの言葉は冷水を浴びせられたかのように、王家派の貴族たちを静まらせた。




